表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

書簡三

――某月某日


拝啓


この先を読めば、あなたは私の気が狂ったと思われるかもしれません。

しかし、まずその点については、あらかじめ断っておきたい。


水が低きから高きへ流れることはなく、日が西から昇ることもありません。

幽霊や妖怪は存在せず、少なくとも私は、生涯において一度たりとも、真に神通力と呼べるものを見たことがありません。


ましてや、触れてもいない石が、ひとりでに動くはずがないことは、よく理解しているつもりです。


それでも――

どうやら、例の石は動くのです。


これもまた奇妙なことなのですが、何とか動いているところを見届けようと思い、石から目を離さずにいると、その間は、決して動きません。


一晩中、灯を落とさずに見張ったこともありました。

しかし人の身は弱いもので、明け方近く、どうしても睡魔に抗えず、ほんの一瞬、目を閉じてしまいました。

そのわずかな隙に、石は、別の場所へ移っておりました。


見ている間は動かず、見ていない間にのみ、位置が変わっている。

この点だけは、どうやら偶然とは言い切れぬように思われます。


狐や狸に化かされていると思えたなら、どれほど気が楽であったことでしょう。

しかし、そう考えるには、私は長年、数と因果を相手にしすぎたのかもしれません。


あるいは生き物ではないかと疑い、水に沈めてみたり、火を近づけてみたりもしましたが、特に変わった反応は見られませんでした。


割ってみれば、その中でも動くのかどうか、気にならぬと言えば嘘になります。

とはいえ、これ一つきりのものを加工するのは、最後の手段とするべきでしょう。


近ごろは、石が、どのようにして動いているのか、そのことばかりが気に掛かっております。


とはいえ、石の話ばかりしていられる身でもありません。

同封いたしましたのは、先頃まとめた、熱と脈拍の変動が人体に及ぼす影響についての覚書です。

些か雑なものではありますが、もしお目通しいただければ幸いです。


草々不一


敬具

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ