表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4 十八年前の事件

挿絵(By みてみん)


「18年前のあの日は、雪がしんしんと降っていた。

 止まることなく空から落ちてくる雪を見ていると、自分が上に登っているような気さえしてくる、そんな雪の日の昼下がりだ。


放牧地で仕事をしていた俺は、川沿いの道を、川下の方からこちらへ登ってくる黒塗りの立派な馬車を見た。

あれは貴族の馬車だと、すぐにわかった。

ここらに貴族様が一体何の用なんだと不思議に思っていると、馬車はぴたりと止まって、中からステッキを持った男が出てきた。  


後になってわかったことだが、その男がエルマン男爵だ。

 

エルマン男爵は川の向こう側を見ていた。

馬車の音が止まって、そのとき初めて俺は歌声に気づいた。

女の声だった。

女の歌声は川の方から聞こえてくるんだ。

俺がいた場所は川沿いの道からはずいぶん離れていたし、雪が降るせいで視界が悪くてはっきりは見えなかったが、対岸には背の低い人影があった。

あれはきっと人魚の影だったんだ。


エルマン男爵は、歌声に誘われるように川に近づいていった。


雪のひどい日だからな、普段は浅いフルス川でも、水嵩は増して流れも早くなっているはずだ。飛び込むのは危険だ。


けれどもエルマン男爵は馭者が慌てて止めるのも聞かないで、川に向かって進んでいった。

ついには馭者を振り払い、エルマン男爵は川に足を踏み入れた。

そうして流れに足を取られ、男爵は川に飲み込まれてしまったんだ。」


メグの父親は、18年前の事件をそう語った。


もし人魚の存在を否定しようとするならば、この怪談を解体しなければならない。


「雪の日の川は危険ですからねぇ、足を取られて溺れてしまうのは不思議じゃない。でも、男爵が何で川に入ったかが謎ですねぇ。」


マイケルはそう言って頭を悩ませた。


エルマン男爵を川へ落とした人物がいたなら、他殺といえるだろう。

男爵が自ら近づいたように見せかけて川へ突き落とすことなど可能なのだろうか。


私が「誰かがエルマン男爵の背中を押した、ということはなかったんですよね。」と問えば、メグの父は「当然だ。」という。

 

「馭者が彼を止めようとした、と言ってましたが、実際には馭者は止めようとしたのではなくエルマン男爵を川へ落とそうとしていた、ということはないですか。」


「あり得ないね。」


メグの父は私の考えを強く否定する。


「馭者はエルマン男爵の肩を片手で掴んでいた。けど、男爵はそれを振り払った。

エルマン男爵が川へ入ったのはその後だ。

間違いなく、男爵は自分で川へ向かったんだ。」


馭者を振り払ってなお川へと近づき、川へ落ちた、ということか。

そうなれば馭者は無実だ。


「では、犯人は輪っかにしたロープをエルマン男爵の足にかけて対岸から引いた、というのはどうでしょう?」


しかしこれも否定された。


「あのとき警察も他殺の線も調べてたけどな、男爵の体にはロープで縛られた跡なんか残ってなかったって話だぞ。」


マイケルは「まいったなぁ、こりゃ難題ですね。」と眉を下げた。


私たちが頭を悩ませる中、カメリアは冷静な表情を崩さないままだ。


「エルマン男爵は自ら川に入ったのは確かなのですわね。」


「あぁ、そうだ。」


「エルマン男爵は対岸から聞こえてくる歌声に誘われていた。

ですからきっと仕掛けは歌声にあるのですわ。」


川床へと誘う人魚の歌声。

その歌声に、カメリアはどんな推理をしたのだろうか。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ