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3 人魚の姿

「嘘じゃないよ、あたしは確かに見たんだよ。

水浸しの女がそこを歩いてくるのを。」


集落とは対岸のフルス川の東側で酪農を営む女性メグはそう語る。


私とカメリアはマイケルの案内で、人魚の目撃者であるメグの元に話を聞きにきたのだ。


メグは「あれは本当に人魚だよ。」と恐ろしげに語る。


「その日はうちの子牛が一頭熱だしてねぇ。

あたしは牛小屋にいて、一晩つきっきりで世話してたのさ。

うちの牛小屋の窓は川の方角についてるだろう。

だから川の方から何かが近づいてくるのが見えたんだわ。

気になって小屋から出て川の方をみてみた。

それは、髪の長い女だった。

そいつは髪からぽたぽた水を垂らしながら、ふらふら歩いてたんだ。」


「おお、こわい。」と恐ろしげに震えて見せるメグに、カメリアは「その女性はどこへ向かったのですか。」と訊ねる。


「うちの土地のすぐ近くの通りを川沿いに歩いてたんだけど、そこの橋を渡ってったから、村に向かってたと思うわ。」


「見覚えのある方でしたか?」


私が聞くとメグは「人間には見えなかったんだってば!」と声を荒げた。

「ではどのような顔をしていたのですか。」とカメリアが言い直すと、「暗くて顔なんか見えなかったね。」と答えた。


マイケルは取材用のメモを見ながらメグに確認する。


「あなたがその人魚をみた翌朝、3人目の自殺者ベッカー氏の遺体が見つかったんですね。」


「あぁ、そうだよ。

 ベッカーさんとこは貴族でこそないけど、会計士の仕事でしっかり稼いでたから暮らしに困ってはなかったし、すてきな奥さんだっている。

自殺する理由がないさね。

人魚に呪われたんだよ。」


「遺書などは残していなかったのですね。」

 

カメリアの言葉に、メグは「嬢ちゃん、あんた信じてないね。」とまた声を上げる。


「いっとくけど、人魚を見たのはあたしだけじゃないんだから。

あたしより先に、父さんが人魚を見てた。

父さんはドミニクの遺体が見つかる前の晩に見たんだよ。」


ドミニクとは2人目の自殺者の名である。

メグは少し離れたところで牛の世話をしていた彼女の父を呼びつけた。

「この人らに人魚の話をしてやってよ。」と頼まれた父親は、「確かにずぶ濡れの髪の長い女を見たぞ。」という。


「ドミニクという方も、自殺するようなご様子はなかったのですか?」


カメリアの問いに親子はそろって頷き、「ドミニクはもうすぐ結婚する予定だったんだよ。」と娘が付け足した。

怯える親子とは対照的に、カメリアは冷静な声で「お二人が見た人魚は、殺人を終えて村へと帰る犯人でしょう。」と述べる。


「犯人はドミニク、ベッカーを真夜中に川沿いへ呼び出し、溺れさせて殺害した。

ですから、2人と親しい間柄にあったのかもしれませんわ。」


 あくまで殺人事件だと考えているカメリアに、メグは「だから人魚なんだってば!」と食ってかかる。

メグは「父さん、あのことを教えてやってよ。」と父をせっついた。


「今から18年前だな、エルマン男爵っつう人が川で亡くなった。

俺はあのとき、エルマン男爵が川へ落ちるとこをこの放牧地から見てたんだ。

あれはどう考えても人魚の呪いだ。

あの男は本当に、川に引き込まれちまったんだ。」


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