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2 フルス川の情景

高くそびえ連なる山々のほうから、冷たい北風が木々の間を駆け抜ける悲鳴のような音が鳴り響いていた。

その山々に挟まれた谷から平野の方へと流れているのが、人魚の住む川、フルス川であった。


「この時間でさえこんなに寒いのですから、真夜中の川の水はとても冷たいでしょうね。」


カメリアはそう言いながら、毛皮のついた手袋をした手を温めるように息を吐いた。


「この寒さで川で泳ごうなんて考えるのはよほどの変態に違いないですよ。」


マイケルは「おお、想像しただけで寒い。」と大袈裟に震えて見せた。


「となると、やはり3人の男性は自殺なんでしょうか。

近くの集落からは徒歩20分ほどと距離がありますし、わざわざ川に近づいた理由がないように思います。

かえって人目につきにくく、自殺向きともいえます。」


街頭のある都心とは違い、明かりのないこの辺りは夜になれば真っ暗になるだろう。

人通りのない闇夜の川辺は怖がられる場所だが、人知れず死を追うものには都合が良いかもしれない。

だが、マイケルは「そうとは言えませんよ、ヒルダさん。」と私の意見に反対する。


「この川の水深は0.4メートル、だいたい大人の膝下くらいですよ。

このくらいなら流れが早くなければ成人男性なら安定して歩ける。

そりゃまぁ寒空の下飛び込んだら危ないには危ないでしょうけど、自殺に最適ってほどではないんじゃないですか?」


そしてマイケルはその場で頭を地面へ近づけて、「溺れようと思ったら、こうして、少なくとも鼻と口が水に被るようにしなきゃ。」とやってみせる。

不謹慎だが滑稽なその姿が癪に触ったので、私は「でも、流れが早ければ水深が浅くとも足を取られる危険はあるでしょう。」と言い返す。


「それは最もですけどね。

1人目のバンのときはひどい雪の日だったんですが、

2人目と3人目のときは雪のない夜だったんですよ。

ところが助かったのはバンだけです。

このあたりは傾斜もありませんし、雪のない日の川の流れは穏やかなはずですよ。」


「大雪が降れば水量は増えるでしょうから、流れも早くなり危険性は増しますわね。

けれども、そうでない日は比較的穏やかな川だといえますわね。

私は、亡くなった方々は自ら死を望んだのではないと思いますわ。」


曇天の下、光を通さない水面を見つめながらカメリアは言った。


雨や雪のない今日の天気では、水嵩は増えておらず川は穏やかだ。

けれどもおどろおどろしいと感じるのは、水の中が見えないほど川の水は黒く濁っているからだろうか。

黒い水中は実際の水深より深いのではないかと感じされる。

 

マイケルは水面を覗き込みながら呟く。


「やっぱり、人魚に誘い込まれたんですかねぇ。」


黒い水の中、見えない川床で人魚が息を潜めてるのだろうか。



「真夜中に女が川から這い上がってきたって噂もあるんですよ。」


「川から這い上がってきた女性が目撃されたのですか?」


マイケルの言葉にカメリアは細い眉を釣り上げた。

そんな彼女の反応に気をよくしたマイケルが続ける。


「川沿いの道で、水浸しの女がふらふらと歩いていたって話ですよ。

うつろな顔をして、水をこぼしながら歩くのはとても人間に見えなかったと。

その女が出た翌朝、死体が見つかったんですよ。

あの女は人魚だったのかも。」


「それ、いつの話なんですの?」


カメリアはマイケルに問い詰める。


「2人目の自殺者の遺体が見つかる前の晩ですね。」


「その話をした方にあわせていただけないかしら?」


「やっぱり、カメリア様も人魚の目撃情報に興味あります?」


しかしカメリアは真剣な顔で「違いますわ。」と首を振る。


「これが殺人事件ならば、目撃されたのは人魚ではなく、犯人ではありませんこと?」



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