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湖畔のバーム  作者: 浅見カフカ


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タイトル未定2025/11/15 02:17

湖の畔にちいさな家がありました。

その家にはおじいさんがひとりで住んでいました。

おじいさんは毎日、湖に訪れる鳥にパンくずをあげています。


おや?

今日は誰かと一緒のようです。

「ほっほ、リュートは餌まきが上手じゃの」

「でも、おじいちゃんみたく遠くへ投げられないよ」

お客さんは可愛い孫のリュート君です。

「長いこと此処でこうしていると 出来るようになるんじゃよ」

「ずっとココに住んでいいたの?」

リュート君は不思議そうな顔で見上げました。

「そうじゃよ。リュートの父さんの生まれるずっとずっと前からじゃよ」

「おじいちゃん、ボクのウチに行こうよ。お店も近いし、バスも電車もあるんだよ」

身振り手振りで話す孫に目を細めながらも おじいさんは少し困った様子。

「此処はリュートには ちと退屈かな?」

「ううん、違うよ。おじいちゃんとパパとママとみんなで居たいの。」

ぶんぶんと首を振ります。

おじいさんはニッコリ笑って言いました。

「優しいなリュートは。ワシのトモダチに似ているな」

「おじいちゃんの?」

「そうじゃよ。そしてワシは彼と此処に住む約束をしたんじゃよ」

おじいさんはリュートの頭をそっと撫でるとお話しを始めました。


「ずっと昔、ワシの髭が真っ黒だった頃じゃよ・・・」


湖の畔に1本の大きな樹がありました。

名前をバームといいました。

広げた枝には沢山の木の実と大勢の小鳥、木陰には涼をとる人や動物が集まっていました。

それは千年変わらない景色でした。


ある日、聞き慣れない声に大樹のバームは目を覚ましました。千の齢を重ねて尚、初めて聞くそれは美しいさえずりです。

バームは思わず声を掛けました。

「君は何処から来たの?」

さえずりの主はビクッとして、それからオズオズと答えました。

「北です、ずっと北の方。南へ向かう途中に、怪我で仲間とはぐれました」

「それは心細いでしょう。ゆっくりしていきなさい。私の名はバームです」

バームは軽く枝を揺すると渡り鳥に木の実を落としました。

「ありがとう。私は小夜鳴き鳥のルッチ」

それからふたりは仲良しになりました。

ルッチの話す外の世界はバームだけでなく集まる鳥達や静かに水を湛える湖さえも楽しませました。


バームはいつしか鳥になりたいと思いはじめました。

「ルッチ、私はこの場を動くことなく千の時を越えて来ました。今までそれを疑問に感じた事は無かったのですが、君の見た世界を私も見てみたいと、この頃思うようになりました」

「バームさん。私は悠久の時を生きる貴方が、ほんの短い生の私達に憧れるなんて・・・・驚きです」

ルッチは目を丸くして言いました。

「たとえ短くとも君は翔べる。私は動くことすら叶わない・・・それだけです」

ルッチはとても哀しくなりました。

ルッチの傷はもうよくなっていて、翔び発つ日が近付いていたのです。

「ごめんなさい。私がこんな話をしなければ良かった」

ルッチはポロポロ涙をこぼしながら謝りました。

バームは慌てました。

ザワザワと枝が揺れ葉が落ちます。

「いやいや、私が悪かった。君の話があまりに眩しくて妬んでしまいました」

根から葉の先まで後悔でいっぱいでした。


別れの日が来ました。

風の便りにルッチの事を聞いた仲間が迎えに来たのです。

「バームさん、ありがとう」

「またいつか・・・」

「そうですね。そしていつかの生で共に翔びましょう」

ルッチはさよならは言わずに仲間の空へ羽ばたきました。

バームも小鳥達も湖もただ黙って見送りました。


幾度か季節が巡りました。

木の実や葉の数も減りバームはずいぶんと年をとりました。ルッチはあれから訪れませんでした。

そんなある日、木こりの若者がバームの幹で休んでいました。

バームは若者に声を掛けました。


「木こりさん、私を切り倒してください。」

若者はびっくりして跳びあがりました。

「き、き、き、木が喋った!?」

「私の名はバーム。最後の力でアナタに話しています。」

バームは続けました。

「私の体は朽ち始めています。いつか倒れてアナタのように休んでいる人を潰してしまうかもしれません。そうなる前にお願いします」

「いいんだね?」

若者は斧を取り出しました。

そして聞きました。

「バームさん、私はアナタの作る影に包まれて今まで随分と癒されました。ここは私のお気に入りの場所でした。何か出来る事はありませんか?」と。


少しの沈黙の後バームは話しました。

「3つ、お願いを3つ。いいですか?」

「私達はこれでも長い付き合い、友達だよ。」

「ありがとう。ひとつは私で家を作って欲しい。ふたつ、そこにアナタが住んで、この鳥達に餌を与えてほしい。木の実が無くなってしまうから・・・・みっつ目は、小さな枝や切れ端は燃やしてほしいのです。」

若者は約束をしました。ただ、3つ目が気になって問掛けました。

バームは静かに答えました。

「灰になり、煙となり この空を翔びたい」と・・・・


それきりバームは何も喋らなくなりました。



「おじいちゃん、ボクね大きくなったらココに住むね。」

リュートはおじいさんの・・・・バームの家を指差して言いました。

おじいさんが指先の向こうに視線を移すと、その先に美しくさえずる小鳥が1羽 屋根に舞い降りました。




         おしまい





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