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地球から一番遠い教室で  作者: 草川斜辺


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デートに誘いたい藍崎華瑠奈

朝、藍崎華瑠奈(あいざきかるな)が教室に入ると、いつものように浅井英騎(あさいえいき)がすでに席についているのが見える。


藍崎は毎日ホームルームの3分前に教室に入るが、いつも彼の方が早いということは、彼も毎日決まった時間に登校しているのだろう。

席に着くと彼が振り返ってあいさつしてくるのはわかってるから、もう驚くことはない。新学期初日は不意を突かれたので驚いてあたふたとしてしまったが、その翌日以降はふつうの会話ができている。


椅子を引いて席につくと、浅井が振り返りあいさつしてくる。

「おはよう」

「おはようございます」

いつものようにあいさつは完璧だ。


「昨日の宇宙服実習の際はどうも。まさかすぐ近くにいるとは思わなかったよ」


みんな同じ宇宙服だし、月面に出るとフェイスプレートも外からは鏡のように見えるからどれが誰か分からない。特に初めての人には。


「私も驚いた」

藍崎はそうこたえたものの、実は浅井の隣にいるようにしたのだ。


ここで生まれ育った藍崎華瑠奈にとって月は故郷だし月面に出ること自体は好きなのだが、宇宙服実習は実は苦手だ。

実習で必ず行われる、お互いのフェイスプレートをくっつけての直接会話の練習がいやなのだ。フェイスプレートは顔から10センチ以上は離れているから、顔が近づくとはいってもせいぜい20センチちょっとだが、よく知らない人と近い距離で真正面で顔を合わせて話をするのが苦痛なのだ。何年も一緒にいるクラスメートはいるが特に親しくしている人はいないし話題もない。


浅井とは新学期初日から毎日話しているし、昼休みもたいていは一緒にご飯食べてるから、まわりからみたら付き合ってると思われていても不思議じゃない。それに子供のころにアストラが好きだったという共通点もあるし、まあ、彼と付き合うのも悪くないかとも思ってる。そんな感じの仲なので、藍崎は浅井の近くにいて実習の組を作るようにしたのだ。


「驚いたといえば、警報も驚いたよね」

浅井が会話を続ける。


宇宙服着て真空の月面にいる時に警報が鳴れば驚くのは無理もない。それも初めての人ならなおさら驚いたことだろう。生まれた頃からここに住む藍崎にとっても、訓練以外では数回しか聞いたことがないので驚いたくらいだ。


「でも、初めての宇宙服で真空の中での警報だったのに落ち着いてたよね」

悲鳴は上がらなかったけど、何人かはあたりを見回したり驚いた感じでいろいろしゃべっていた。浅井はそんな様子がなかったので聞いてみる。


「え? うん、まあ、火災なら外にいれば問題ないってわかってたし、みんなも特に騒いでなかったから...」

とまどっているような感じで、さらに何か続けていいたげな表情の浅井。


警報が鳴った時、彼が不安がっているかもしれないと思ってすぐ隣に移動し、隣にいることを伝えるために宇宙服の腕で彼の腕をちょっと押してみたんだけど、その時のお礼をいいたいのだろうか、と藍崎は想像する。


「警報は訓練で聞いたことあるしこれまでも何度か鳴ったことがあって、まあ、慣れてるっていうか」

生まれ育った地元のことだが、このいい方はすこし自慢しているように聞こえたかも、と藍崎はちょっと気になる。


「へー、そうなんだ...」

浅井はちょっと意外そうな、とまどったような表情だ。


その反応を見て藍崎は考える。

もしかして、クラスのみんなも一緒だったし、すぐに煙だけってことがわかったし彼も特に不安ということはなかったのかもしれない。

そうなると、腕で押したのは逆に誤解を与えたかも。というかやりすぎたかもしれない。私が怖くてすぐそばに移動して寄り添ったと思われた可能性がある。だとすると、今の発言も強がってるように思われたとか。そうだとすると、これはちょっと恥ずかしいかもしれない。


「あ、そ、そーいえば警報鳴った時にちょっとぶつかったけど、ちょ、ちょっとバランス崩したというか...」

と弁解してみたが、あせったのであたふた感が出てしまった。月面に慣れてるのにバランスを崩すというのは変だ。


「あ、いや別にいいんだけど。すぐ近くにいるってわかってぼくも安心したっていうか」

なんだ。目的は果たせてるじゃないか。ちょっと安心する藍崎。


「みんな、おはよう」

いつもよりちょっと遅れて担任が教室にやってくる。


「それじゃあ」

そういうと浅井は体を前に向ける。

「はい」


今日の会話も充実したものだった。藍崎は満足げにほほ笑む。

そろそろデートに誘われてもよい頃だ。というか、こっちから誘うのもいいかもしれない。ちょっと方法を考えてみよう。

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