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地球から一番遠い教室で  作者: 草川斜辺


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宇宙服実習 その4 火災

ヘルメット内部のディスプレイに『火災』の文字が点滅しアラームが鳴り響く。


『え?』

『は?』

『火災?』

『なんで?』

『大丈夫なの?』

『火事?』

『真空なのに?』

『建物の中だろ』

みんなエアロックのドアや空港施設の建物に注目するが変わった様子はない。


『みんな落ち着いて!』

教師の声が聞こえる。


『状況を確認しますので、みなさんその場で待機してください』

空港職員の人がそういうと、誰かとの会話が始まったらしくマイクのスイッチを切ったようだ。


『火事ならここにいれば大丈夫、安全だからなー』

教師の声が聞こえる。

『宇宙服に酸素は十分あるし、何も心配はないからなー』


確かに、ここにいれば大丈夫だ。仮にエアロック内が火事なら空気を抜けば火は消える。

横にいた藍崎(あいざき)の腕が浅井の腕に当たるのを感じる。すぐ隣に来たようだ。不安なんだろうか。安心させたいところだが、さすがに手をつないだりするのはまだ無理だし、何かいうと全員に聞こえるし。あ、そういえば無線で個別通話もできたような気がする。ちょっと調べるか。


藍崎は浅井の左側にいるので、右手を宇宙服の右腕から引き出しヘルメット内のディスプレイを操作しようとしたところで、空港職員の人の声が聞こえてきた。


『状況がわかりました。宇宙港駅のトイレ内で煙を検知したことによる警報です。火災ではありません』

大したことなくてよかった。


『なーんだ』

『よかったー』

『ほんとだよねー』

『ちょっと安心した』

『わたしも』


大きな事故じゃないことが分かったためか、藍崎もちょっと離れたようだ。

でも何が燃えたんだろう。月面はもちろん地球軌道上のステーションでも火気厳禁で、自宅の台所はいうまでもなくレストランでも火は使われていない。


『それではエアロックに戻りますので、扉の横に集まってください』

職員の指示に従いエアロックの扉の横に集まると扉両脇のサイレンが回り始め、宇宙服内のスピーカーから、扉が開くというアナウンスが流れる。


『観光客の一団が外に出てから中に入ります』

音もなく扉が開くと、中から観光客の集団が外に出てくる。20人くらいいそうだ。全員外に出たことを確認しエアロックの中に入る。全員入り扉が閉まると空気が流れ込み気圧が上がるにつれて、空調の音が聞こえてくる。


『室内の気圧は街と同じレベルになりましたが、宇宙服はそのままで予備室に移動してください』

予備室側の扉が開いたのでみんな移動。エアロック側の扉が閉まる。

『これからファンが回って宇宙服についた塵を吹き飛ばします』


そうか。月面は空気がないので、地球と違って砂や塵は角が取れておらず鋭利で、目に入るととても痛く吸い込むと肺にとっても問題らしい。予備室内のファンはこのためのものか。後、床に敷かれた隙間のあるパネルも、下から風を送って靴の裏の塵を吹き飛ばすためのものだろう。


『足を動かしたり腕を上げたり体を回転させて、風が全身にあたるようにしてください』

みんな動き始める。ダンスのような動きのやつもいるな。

『特に地面に横になったやつは念入りに』

『はーい』


『いつも思うんだけど、音楽が必要だよね。ここ』

『確かに』

『そうだよな』

『ダンス苦手』

『フォークダンスならなんとか』

『宇宙服着てフォークダンスはおかしいだろ』

『日本人クラスだし盆踊りとか』

『いやいや』

盆踊りやフォークダンスはさておき、確かに音楽があってもよさそうな気はするな。ダンスは苦手だけど。


『そろそろ送風が終わりまーす』

室内のファンの回転が止まり、空気は床の方に吸い込まれている。床下の通風孔は送風と吸引の役割があるようだ。

『それでは予備室から出てください』


予備室に移動すると、宇宙服を着た時と同様の設備が用意されている。

『着た時と逆の手順です。まずはその台の前に立ってください』

みんなそれぞれ台の前に立つ。上半身部を吊るすハンガーが設置されたパネルからアームが動きヘルメット部の付け根、首のあたりが固定されるが、多少体を動かすことはできるようだ。


『座る前にまずロックの解除から。メニューからメンテナンスを選んでロック解除を選択』

案内に従い操作する。画面には外部の気圧と宇宙服内の気圧が表示される。どちらも1.0気圧だ。

外部と宇宙服内の気圧が一致しないと解除できない仕組みだったな。浅井はここに来る前の説明を思い出す。周りを見るとすでに下半身部を取り外しているやつも多い。地元民には慣れたことなのだろう。


浅井もロックの解除が完了。ディスプレイに表示される下半身部の取り外し方の案内を確認し、次の手順に進む。

腰のあたり、左右にあるロック機構を掴んで後ろにスライド。モーター音が聞こえて物理的なロックが解除される。靴も固定から解除される。後は、そのままちょっと持ち上げて左右にねじると上半身部と切り離される。下半身部は膝のあたりまで下がると止まるので、次に腰を下ろしつつ上半身部を脱ぐ。腕はすでに抜いているので連結部を持ち上げるだけだ。酸素タンクや生命維持装置が背中や胴体の周りについているので6分の1の重力化でもそれなりの重さはあるはずだが、ちょっと持ち上げると、上半身部をつかんでいるアームで引き上げられるようで容易に脱ぐことができた。


上半身部を外すと上から下に流れる空調の風を感じる。床のスリットに吸い込まれる力は結構強いが、火薬のようなにおいはそう簡単にはなくならないようだ。後は下半身部から足を引き抜いて完了。


初めての宇宙服と月面の体験。警報が鳴ったこともあってなかなか興味深い経験だった。初回なのでただ外に出た程度だったが、次回以降は緊急用ポッドの使い方や緊急用エアロックの使い方だそうだ。ここの住民としては、実用的な知識と経験をつけておかないとな。


それにしても、偶然とはいえ藍崎と話せてよかった。外に出るのは好きっていってたから誘えるかもしれない。ちょっとプランを練ってみるか。

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