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地球から一番遠い教室で  作者: 草川斜辺


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宇宙服実習 その3 初めての月面

『ゆっくり歩いて外に出て』


教師の指示に従い、エアロックの扉から外に向かう。

足を動かすときにモーター音が聞こえてくる。足や腕の動きに合わせてパワーアシストされているのだ。まるでロボットの中に入っているような感じだな、と思いながら浅井はエアロックの外に向かって歩いていく。


出たところは宇宙港の施設内ということもあり、地面は月の砂から作られたコンクリートのタイルが敷きつめられている。

正面に見える高い山はマラパート山か。確か(ふもと)からは5000メートル以上の高さがあったはずだ。


『よーし、全員外に出たかー』


振り返るとエアロックのドアが閉まり始めたところだ。ドアには、内側にあったものと同じALのマークが描かれている。

エアロックのある建物は、山の斜面から突き出ている。地球の道路に作られたトンネルのような感じだ。

正面に見えるマラパート山はかなり遠くにあるはずだ。地球なら遠くの山は空気のもやで青みがかかるが、ここだと遠くの山も近くの山もくっきり見えるので、どっちが遠いのか近いのか区別がつかない。


区別がつかないといえば、宇宙服のヘルメット部はエアロックにいた時は外から見ても透明だったが、外に出ると鏡のようになり正面から見てもどれが誰だかわからなくなっている。浅井は藍崎華瑠奈(あいざきかるな)がどのあたりにいたかなと思い返してみるが、クラスメートに(まぎ)れてさっぱりわからなくなった。


『観光ツアーじゃないから地球が見える丘まではいかないが、ちょっと歩いて月の地面が出てるところまで移動しようか』


ここは月の南極に近いエリアなので太陽の高度は低いが日は当たる。今いるところから地球は山が邪魔でみえないが、ちょっと移動し近くの山に登れば地球が見える。観光ツアーで行ける地球が見える丘は小高い山の上にある。


観光ツアーといえば、1年中日光が当たらない日陰には氷が溜まっているところがあって、そこも観光コースだ。1年を通して日が当たる永久日照地域は月面には存在しないが、年に90%近くは日があたる地域には太陽光発電用のパネルが並んでいる。


数分歩くとコンクリートのエリアが終わり月の地面の上に出る。ここが月の地面か。地球以外の天体の地面に立つのは初めてだが、あたりは人の足跡だらけだし人は多いしで、それほど感慨深いというものでもない。

観光客のグループも何組かいるようでこっちに向かって手を振っている人もいる。ジャンプしている人もそこそこいるが、宇宙服はそれなりに重量があるしパワーアシストがあるとはいえそれほど高く跳び上がることはできない。生徒の中にもジャンプしているやつが何人かいる。


『それじゃあ、無線機が壊れた場合の会話を試してみるか』

教師がそういうと。生徒の間でちょっとざわめきが聞こえてくる。何かあるのだろうか。


『ここは空気がないから音は伝わらないが、ヘルメットのフェイスプレートどうしをくっつけることで直接の会話ができる。無線が壊れた場合にはこの方法を使う』


なるほど。ざわめきはこのためか。

とはいえ、ディスプレイは顔から10センチ以上離れているしそれほど顔が近づくわけでもなさそうだが。


『それじゃあ、2人で組を作ってマイクをオフにして』


『さーてと、莉奈(りな)ちゃんはどこかなー』

男子生徒の声が聞こえてくる。

『心の声が漏れてるぞー』

複数の声が指摘する。


『しまった!』

『ははは』

『私はちょっと逃げますねー』

これは本條莉奈(ほんじょうりな)の声だな。

『えー』

『がんばれ岡田』

『莉奈ちゃん逃げてー』

本條莉奈は男女どちらにも人気のようだ。


『はーい、マイクをオフにして組を作る』

担任が再度指示する。

どれが誰だかわからないので、浅井は近くの生徒と組みを作ることにする。

すぐ隣にいる生徒に手で合図し正面に回る。相手のファイスプレートは鏡のようになっているので自分の姿が映る。見ると自分の顔がうっすらと見える。フェイスプレートは日があたる場合に鏡状になり、影になると透明度があがるようだ。


フェイスプレートをくっつけ挨拶する。

『どうも』

『こんにちは』

この声は。

『あれ? 藍崎さん?』

『はい』

すぐ隣にいたのか。全く気付かなかったな。

フェイスプレートを通して届く声はちょっと雑音があるような感じだ。


『すぐ近く人いたなんて全く気付かなかったよ』

『宇宙服はみんな同じで区別つかないから』

そういうとファイスプレートをくっつけたままで藍崎がちょっと体を横にする。日光が当たらないところの顔がうっすらと見えるようになる。


『初めての宇宙服とか月面はどう?』

『周りが真空っていうのはちょっと緊張するけど、ずっと屋内にいたから外に出るのはいい感じだね。外といっても宇宙服の中だけど』

藍崎から話しかけれられるのは珍しいなと思いながら答える浅井。


『そう。私も外は好き』

へー、そうなんだ。ちょっと意外な気もする。


『ここからだと地球は見えないんだね』

と聞いてみる。

『ちょっと高いところに登らないと見えない』

地球が見える丘とかか。今度、誘って行ってみたいな。そんなことを考えていると教師の声が聞こえてきた。

『ちゃんと会話できたか?』

『はーい』

『できました』

『問題なしです』

マイクをオンにした生徒の声が次々と聞こえてくる。


『岡田は莉奈ちゃんと会話できたか?』

誰かがちゃかすようにいう。笑い声が聞こえてくる。

『くそっ、うるせーな。よけいなお世話だ』

『岡田は俺と会話したよー』

『ははは』


『それじゃあ戻るからエアロックに向かって』

担任の指示に従いみんなエアロックに向かって歩き出す。

『あ、記念写真撮りたいんですけど。集合写真で』

誰か女子生徒が呼びかける。


『いいね』

『賛成』

『クラスの集合写真かあ』

『青春だなー』

『なんだそりゃ』

『顔は写らないんじゃないかな』

『日陰に入れば大丈夫』


『それじゃあ、写真は空港職員の方にお願いするか』

『いいですよ』

『お願いします』


『場所は、そうだな、顔が見えるよう日光が当たらないところだと、そのエアロックの横のあたりかな』

『はーい』

『みんな移動』


浅井は藍崎の位置は把握しているので、横に並んで一緒に移動を始める。どうせなら隣で写りたい。

『前にいるやつはちょっとかがむ』

『先生は真ん中で』

『俺は一番前で横になるわ』

『あ、俺も』

二人ほど月面に横になる。

浅井と藍崎は後ろの端っこに立つ。


『はい、それじゃあ撮りますよ』

『みんな笑顔!』

『3、2、1』

空港職員の人がカウントダウンしゼロのタイミングでヘルメットの上の部分が光る。カメラもヘルメット上部なのかな。

『あ、目閉じた』

『もう一枚撮りまーす』

『3,2、1』

再度ヘルメット上部が光る。

『写真は先生宛に送っておきます』

『よろしくお願いします』

『ありがとうございました』

みんな写真を撮ってくれた職員に礼を言う。


『それじゃあ、エアロックに戻るぞー』


教師の言葉に従いみんなが歩き始めたところで、アラームが鳴りヘルメット内部のディスプレイに『火災』の文字が点灯する。

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