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地球から一番遠い教室で  作者: 草川斜辺


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21/30

チーム初練習

バスケットシューズを履き、体育館に立つ浅井。

バスケはここで人気のスポーツではあるものの、バスケットシューズの製造工場が月面にあるわけではない。そのため、入手するには地球から取り寄せになることから、価格は地球の数倍はする。浅井はバスケ部に入るつもりはなかったものの、何かの機会にバスケをすることもあるかもしれないと思い、来る前に買ったものを持ってきていたのだ。


あたり前だが、シューズはかなり軽く感じる。短距離走の選手が使うシューズ並みだ。そんなことを考えながら、浅井は体育館の床を踏んだ際の「キュッ」という音を懐かしむ。


中山はすでに来ており他のメンバーも集まってきた。まずはストレッチとランニング。

「借りてる時間が短いから、ストレッチは練習開始までに終わらせといてくれ」

と中山。

確かに。今日は1時間半しか借りられてない。


「じゃあ、浅井には俺が教えるからお前らはいつものメニューでやってくれ」

そういうと中山は浅井のほうを見る。

「地球とは勝手が違うから、そのあたりから」

「よろしく」

「おう」

ボールをドリブルしながらコートの中に入る中山。


「一番の違いは空中戦だ。空中戦を制するものはゲームを制すともいわれるくらい重要。最も重要だ」

そういうと、中山は手のひらに乗せていたボールを軽く上に放る。上昇したボールはゆっくりと減速して停止、そしてゆっくりと落下する。


「なので、まずはジャンプと高さに慣れること。ちょっと全力でジャンプしてみろ」

「ここで?」

「ああ。走らずに真上にジャンプ」

「OK」

浅井は膝を曲げて力をため、思いっきりジャンプする。


「おお! すげーな。さすがバレー部」

中山が感心している。

浅井はジャンプ力にはちょっと自信がある。このジャンプ力をかわれて高校ではバレー部に入ったのだ。まあ、入った高校はバスケ部が弱小でバレー部がそこそこ強豪っていうのもあったし、バレーをやってみるのもいいかと思ったのだ。


「全力でどのくらいの高さまであがるとか、落下し始めるまでの時間の感覚とかを覚えろ!」

下から叫ぶ中山。

体育の授業でジャンプしたときはそれほど力は出さなかったが、全力だとかなり高くまで上昇する。

上昇速度が落ちて一瞬停止。ここから落下が始まるが、上昇が停止する直前と落下し始めるところは速度が遅いので、まるで空中で停止したかのような感じだ。パスする相手を探す時間は十分すぎるくらいある。正直なところ、まだ慣れてないので下を見るとちょっと恐怖を感じる。


落下は、最初はゆっくりとはいえ、かなりの高さから落下するので床に近づくにつれて落下速度は上がってくる。そして着地。あの高さから落下して、着地の衝撃は地球とあまり変わらない。


「ストレッチの後は全力ジャンプを何度かやって、滞空に関する感覚を覚えろ」

「わかった」

確かに。こんなのはこれまでの人生で経験したことがないから、数をこなして慣れないと。


「次は俺もジャンプするから、滞空している状態でパス回し」

「了解」

「パスするから全力でジャンプしろ」

再度全力でジャンプする。中山を見下ろすと、ボールを持ちパスのタイミングを計っているようだ。


中山がパス。ボールが近づいてくるが、高すぎる。いや、手を上に伸ばすと体の上昇のおかげでちょうどキャッチできる。パスを受けた直後にジャンプの頂点に達し、ボールを持った手が胸の位置に来る。なるほど、うまいな。


「パス!」

中山がジャンプしパスを要求している。彼は上昇中なので、浅井は胸の位置にパスが通るようにちょっと上を狙う。狙い通りの位置にパスが通る。ボールは地球と同じバスケットボールだが、ここではバレーボール並みの軽さに感じる。重力の小ささもあり、かなり遠くまでまっすぐに飛んでいく。


「ナイスパス!」

パスを取った中山が速攻でパスを戻してくる。油断していた浅井だが、ちょうど胸の位置にパスされたので難なくキャッチ。

着地する前にもう一度パスを試みる。落下を始めた中山を狙ってパスしたが、膝の位置あたりにボールが飛んでいく。落下速度が思ったより遅かった。

「わりい」と浅井。

「大丈夫」

中山は足でボールをはさんでキャッチ。即座にボールを手に取りパスを返してくる。着地直前、腹の位置なのでちょっと低いかと思ったが、着地した瞬間にちょうど胸の位置になる。浅井は感心する。


「まあ、こんな感じだ」

「地球の感覚が残ってるから、慣れるまで時間かかりそうだな」

「まあな。で、空中戦はパスが通るかどうか。これが最も重要。ドリブルはボールが手にくっつくような感じで自由にコントロールできるんで、地球より簡単だ」

なるほど。そうだろうな。

「ただし、トラベリングには気を付けろ。ボールが手にくっついてる時間が長いからな」

「ん? そうなんだ」

「ああ。パスをキャッチしてドリブルを始める際、重力任せだとボールが手から離れるまでに結構歩ける。ここだとやりがち」

「あーなるほど、そうなるか。それはあるかも」

トラベリングのルールを思い返してみる浅井。

「意識してボールを床にたたきつけないとだめだ」

「そうだな」

「じゃあ、今度はドリブルで走るのと、ジャンプしてパス」

中山はそういうとボールを浅井にパスする。


浅井はボールをキャッチするとドリブルを開始する。地球と同じようにドリブルしようとすると、確かにボールがなかなか落下しない。手にくっついている間に確かに2、3歩は歩けそうだ。


「地球と違って、ボールを床に叩きつけるタイミングは自由にコントロールできる」

「確かに」

ペースを変えながらドリブルしてみる浅井。ボールを床にたたきつけると見せかけてちょっと遅らせてみる。そしてレッグスルー、自分の股の下を通すドリブルも試してみる。ゆっくり腕を動かしながらできるので地球より簡単だ。


「走る時も床を蹴ってから滞空時間が長いんだが、体が浮いてる時のドリブルのタイミング合わせはちょっとコツがいる」

「なるほど。そんな感じだな」

ボールが手についている時間が長いとはいえ、あまりに歩幅が大きいと足が着く前にボールを床にたたきつけてしまうかもしれない。地球で体が浮いている状態でドリブルすることはないが。


「体が高い位置でドリブルするとボールを取られる可能性があるから、ドリブルしながら走る時は体が浮き上がらないようにするのが基本」

「そうだな」

「まあ、走りながらドリブルといっても数歩でゴール近くまでいけるんで、取られることはほぼない」

それはいえるな。

「よし。次はパス回ししながらドリブルでゴールに向かって、シュートまでやってみるか」

「おう」

「滑りやすいから気を付けろよ、地球とは勝手が違う」

低重力だと摩擦力も低くなる。滑りやすいのは日常の生活でも体験しているが、バスケットシューズが体育館の床で滑りやすいというのは何とも不思議な感覚だ。普通の体育館シューズを履いているような感じか。いや、それよりも滑りやすい気がする。

「コツとしては、走り出しは力を入れて床を強く踏みつけて摩擦力を上げるんだ」

「了解」

浅井は最初の1歩で力強く床を踏み込んでドリブルを開始、走り出す。地球の感覚で前傾姿勢にしようとするが、体が傾くのが遅い。


「体が傾くのを待つんじゃなくて、先に真後ろに向けて蹴りだせ」

「わかった」

浅井は滑らないよう意識して床を強く踏み込むように蹴って前に進む。

足が床に着くタイミングでボールをたたきつけると走りながらドリブルしやすいな。そんなことを考えながらドリブルする浅井。


「パス!」

中山がパスを要求している。

浅井は中山をめがけパス。

「ナイスパス」

中山はボールをキャッチすると、素早くパスを返してくる。高い。地球なら届かない高さだがここならいける。片足で強く床を蹴ってジャンプし、片手でキャッチする。

「ナイスキャッチ。もう一回パス」

浅井は着地する前に中山にボールを戻す。中山はボールをキャッチすると両足で床を強く踏んで着地、大きな音がしてまったく滑らず停止する。凄いな。ちょうどペナルティエリア手前だ。


「そのままジャンプシューッ!」

中山が叫ぶ。

浅井は走る勢いで床を蹴って飛び上がるが、ステップのタイミングが合わず全力でジャンプできなかった。更にペナルティエリアにちょっと入ったところで踏み切ったので、真上を目指しジャンプしたがゴールの下を通り過ぎそうだ。

中山がパスしてくる。ボールを胸の高さでキャッチ。見上げるとやはりゴールの下を通過するところなので、レイバックシュートをこころみる。ボールを頭の上に持ち上げながらそのまま腕を後ろの方までもっていってシュートを放つ。ボールの軽さを考慮してシュートした。決まってくれ。


「ナイッシューッ!」

決まった。体育の授業では失敗したが決めることができた。

ゴール近くまでジャンプしていれば多少体勢が崩れてもシュートは決まりやすいのかも。落下しながら浅井はそんなことを考える。


「滞空時間が長いから、ジャンプすればシュートは決まりやすいね」

「まあな。逆に言うと、ディフェンダーがいない時は絶対に決めないといけないってことだ」

そういうことになるな。


「ジャンプ力あるから、ちょっとダンクやってみるか」

「おう」

待ってました。

「じゃあ、ここでリバウンド奪って速攻って感じで」

中山はそういうと、ボールを軽く上に放り投げ、落下してきたボールをリバウンドを奪った時のように両手で挟むようにがっちりつかむ。


「リバウンドを奪ったやつが滞空中に俺にパスしてきたって設定でやるか」

そういうと中山はペイントエリアのちょっと外に移動する。

「ここで俺がジャンプしてボールをキャッチしたら走り始めろ。パスを待たずにゴールに向かって走って思いっきりジャンプだ。パスは合わせる」

「了解」


ボールを持った中山が今度はさっきよりちょっと高くボールを放り上げ、ボールが最高到達点に達する直前、中山がジャンプする。浅井は中山がボールをキャッチしたところから走り出す。


2歩で反対側のスリーポイントライン付近まで到達する。中山はちょうど着地するところだ。パスを待たずにジャンプしろということだが、ダンクを決めるには、踏切の位置を地球よりも手前にすべきか。取りあえず、スリーポイントラインとペイントエリアの中間あたりで思いっきり床を蹴りジャンプする。


中山は着地の勢いで両膝を曲げると、思いっきりゴールの方向に向かって斜め上方向にジャンプする。身長より高い位置で上昇中の中山からパスが飛んでくる。ボールは浅井とゴールリングの間に向かって進んでいて届かないかと思ったが、腕を上に伸ばすと、ぴったりの位置にボールが来る。ボールをキャッチし、そのままダンクシュート。決まった。


「ナイッシューッ!」

別メニューで練習してたやつらからも声がかかる。

リングに掴まって体の揺れを収める。体が軽いので揺れを止めるのも簡単だ。

手をはなしてコートにおり、はねているボールを拾うと中山の方を見る。

「さすがパスうまいね」

「当然」

「でも、滞空時間があんなに長いのは、まだちょっと慣れないな」

「地球の感覚はそう簡単には抜けねえからな」

それはそうだな、と納得する浅井。地球の1/6の重力が生み出す挙動はおもしろい。


「基本的な技術があることはわかった。あとは慣れだな」

どうやら合格点がもらえたようだ。浅井はちょっと安心する。


「ジャンプ力があってシュートも決められる。パワーフォワード的な役割かな」

浅井の方を見ながらが中山がつぶやく。まあ、そんな感じか。


メンバーは5人しかいないけど、みんな一通りのポジションが得意な奴がそろってるのかな。

他のメンバーが練習している方を見る浅井。

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