幕間:市民の盾
午後三時三十二分。戸川第三小学校前──。
チャイムの音を合図に、ランドセルを背負った子どもたちが列を作って交番前の横断歩道にさしかかっていた。笛を吹く直前、誘導中の教師が足を止める。
「あれは……」
視線の先。路地の陰から這い出るようにして姿を現したのは、灰緑色の皮膚をした異形の集団だった。棍棒や錆びた鉄パイプを手にした**小鬼**の群れ──十体、二十体、いや三十体以上。
「走れ! 交番へ! 早く!」
教師が絶叫し、小学生たちは悲鳴を上げて駆け出す。最寄りの交番は二十メートル先にあった。
その交番の扉が跳ね上がり、2人の制服警官が飛び出してくる。ベテランの巡査部長・佐原と、若手の巡査・村瀬だ。
「地下シェルター、開放する! 誘導優先!」
「了解ッ!」
佐原が防弾ベストを着けながら叫ぶ。村瀬はシェルターの鉄扉を開き、小学生たちを次々に押し込んでいく。
その間にも、交番前の地面がガコンと音を立ててせり上がる。機械仕掛けの装甲バリケードが自動展開し、**M2重機関銃(ブローニングM2)**が前面から突き出された。
12.7mm重機関銃。対怪物用に改造された市街防衛モデル。
佐原が座席に飛び乗り、村瀬がベルト給弾を確認する。
「使用許可確認! 弾倉接続、よし!」
「撃つぞ……!」
眼前には、列を成して突進する小鬼たち。血走った目、涎を垂らしながら棍棒を振り回してくる。
ドドドドドドドドッ!!!
M2が火を吹いた。その一撃は凄まじく、前列の小鬼たちは身体ごと吹き飛ばされ、後方の者たちに肉片と骨片を撒き散らす。セメント舗装が爆ぜ、煙と血と土の匂いが交番前を満たす。
「くそっ、まだ来るぞ!」
村瀬がレミントンM870ショットガンを抜き、射線の外から横に回った小鬼を撃ち倒すと別の個体が道路標識を盾に突っ込んでくる。M2で味方が挽き肉にされ続けているのに逃げもしない。
「こいつら!」
だが、M2は止まらない。
ドドドッ──ドン、ドン、ドドドドド!!
跳ねるようなリズムで12.7mm弾が連続して発射され、小鬼の盾ごと叩き潰す。まるで戦車砲のような轟音があたり一帯に鳴り響く。
数分後、生き残った小鬼はたったの2体。だがそれらも、村瀬の正確な射撃で片付けられた。
沈黙。再び訪れる夕方の音。
佐原が汗だくのままM2から身を降ろし、村瀬と顔を見合わせる。
「よし、終了……! 確認、死体は全て屋外。再出現はなさそうだ」
地下シェルターの扉が開かれ、怯えきった子どもたちと教師がゆっくりと顔を出す。泣き声、安堵の吐息、そして拍手。
「すごい……ほんとに、守ってくれた……!」
佐原は顔を緩め、M2に手を添えた。
「……この街を守るってのは、な。こういうことだ」
重機関銃と共にある交番は、まぎれもなく市民の砦だった。