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甘味に弱い吸血鬼④



「ヨロシクナ、カイン」

「しゃ、喋った!?!?」

 

 大きな声に驚いて、森の鳥たちがバタバタと一斉に飛び去っていく。

 不味いと思いすぐに口を(つぐ)むが、今が昼間で助かった。

 

「シャベルトリノナニガワルイ」

「べ、べつに悪いとは一言も……」

 小さいながらも、不貞腐れているのがわかるのは何故だろうか。

「我の血で()()から召喚した使い魔だ。少し生意気ではあるが、仕事はしっかりするだろう」

 

「チュンハ、リアサマニツカエル、ナマイキナチュンデアル」

 誇ったように胸を張っているが、ちゃんと意味は理解しているのだろうか?頭はその容姿と同じように、良くは無いのかもしれないな。

 

「チュン??」

「チュンハ、リアサマニツケテイタダイタ、チュンノリッパナ、ナマエダ。オボエテオケ」

 リアは、顔を背けている。が、耳が赤く染っていた。

 なるほど。リアはネーミングセンスというのが、欠けているのか。

 可愛い名前ではあるが、すごく安直だ。

 

「分かったチュン。それと申し訳ないが耳元であまり大声をあげないでくれ。耳が壊れてしまいそうだ」

「ナンダニンゲンメ。チュンノカレンナコエヲ、チカクデキケルトハ、コウエイナコトダゾ。カッカッカッ」

 正直かなりうるさい。しかも笑い方がとても変。

 よく喋る鳥だ。これは諦めるしか無さそうである。帰る頃には、鼓膜が壊れていないことを祈ろう。



 しばらく歩き続けた。明るいうちに進めるだけ進んでおいた方がいい。夜になれば、どこから餓鬼に襲われてしまうかも分からない。

 昼は歩いて進み、夜は餓鬼に警戒して息を潜む。では、いつ休むのか?

 俺たちに休む時間は無い。当然そう訓練されているので、数日間は割と平気だ。

 

 とは言え全く休まなければ、さすがに疲労は蓄積されてしまう。

 夜は、餓鬼が襲ってくるまで警戒を怠らず影に潜むが、襲ってこなければ動くことは無い。もちろん交代で休みも取る。熟睡とまでは行かないが、ないよりは幾分マシだ。

 それに昼間は歩き進むが、ほとんど気を張らなくて済む。たまに盗賊がやって来ることもあるので、それだけ注意しておけば、あとはなんてことないのだ。


 そしてある程度まで進んだ俺たちは、辺りが暗くなり始めたのに気づき、近くの岩陰に腰を下ろした。

 

「ところで、魔界とはあの伝承に出てくる魔界か?」

 周りへの警戒は怠らない。リアも当然、分かっているようだが、余裕そうな顔を見せている。まるでここが屋敷であるかのように寛いでいるのだ。

 リア程の実力ならそんなに警戒せずとも、気配を察知できるということか。

 ずっと集中せずとも、気配くらいは察知できるようにはなったが……俺もまだまだだな。

 

 大昔、魔界に住む魔王とその手下の魔族がこの世界にやってきて、住む場所やその命すら脅かされた時代があった。

 勇者の手によって、魔界とこの世界とを繋ぐ門を破壊することに成功。魔界の脅威からこの世界は救われた。というのが、子供にも伝わるおとぎ話になっている。

 そして吸血鬼(ヴァンパイア)は、もともと魔界の住人だったがこの世界に移り住んできたと、伝承にはそう記されていたのを見たことがあった。

 ただのおとぎ話だと思っていたが、魔界が存在するのなら有り得る話なのだろうか?


「まぁそうだな。人がおとぎ話として伝えられている魔界のことだ」

「本当に存在するなんてな」

「マカイシラナイ、ニンゲン。オマエナンカ、イシコロドウゼン」

 魔界に行けば、俺なんかは直ぐに殺られてしまうと言いたいのだろうか?

「今となっては、おとぎ話の空想で間違いない。事実、あんなものあってないようなものだ。我でさえ訪れたのは、ほんの数回しかない」

 おとぎ話になる前の話だろうか。

 

「門は閉じられているが、召喚は出来るんだな」

「契約を結んでおれば召喚は可能だ」

「リアサマニヨバレテ、コナイヤツイナイ。マカイゼンブリアサマノ……ブェッ!」

 チュンは途中まで言いかけていたが、後ろの岩に吹っ飛んで行った。リアが平手を食らわせたのだ。

 魔界の住人とはいえ、せっかく召喚して呼び出した小さい鳥にそんなことをしていいのか!?

 俺は目を丸くした。

 

「ふん」

 リアは、ふいっとそっぽを向く。

「え、いいのか?あれ……?」

 俺は恐る恐る尋ねる。そこで伸びているチュンは、無事だろうか。魔界の住人があんなことで死んだりしないとは思うが……

「チュンは少し、喋りすぎ。余計なこと言わない」

 

 やがてチュンが、パタパタとゆっくり飛び立ちこちらへと向かってくる。

 大丈夫かと思ったが、その目はまだ回っているようだ。

「モウシワケゴザイマセン。チュン、キヲツケマス」

 左へ右へとフラフラ飛んで、なんとか俺の肩までたどり着くチュン。

 

 だからなぜ俺の肩なんだ。

「まぁ安心するがいい。()()()()は、人間に手を出そうなどと思う者はいない」

 まるで、魔界の()を知っているような口ぶりだ。

 

「!?」

 かなり気にはなるが、突然の気配に俺は素早く立ち上がる。

「抜けてきたか……仕方ない」

 それは餓鬼の気配だった。五体……いや十体はくだらないだろう。

 俺は立ち上がり、愛剣を取る。リアもすでに立ち上がり、遠くの木々の隙間を見つめていた。

 それはちょうど、気配のする方角だ。目を凝らすと月明かりに照らされ、餓鬼がそこまで来ているのが見える。


 俺は鞘から剣を抜き、すかさず距離を詰めその首に刃の切っ先を突き刺す。その瞬間、餓鬼は血が出る間もなく灰と化した。

 まずは一体。

 左右から襲いかかろうとする餓鬼に、右に左へと剣を振るう。そうして、すぐさま後ろに控えている餓鬼まで駆け抜け首を切る。

 

 四体。

 その隙にリアの元へと向かおうとしている餓鬼二体の首を後ろから切り裂き、更に後ろから二体、振り向きざまに剣を横薙ぎにしていく。

 計八体。残りはどこだ……!


 辺りを見回すと、リアに向かっていく二体の餓鬼が見えた。

 餓鬼がリアに触れようとしたその瞬間、灰と化した。

 一体何が起こったのか、俺には何も分からなかった。

 

 初めて会った時もそうだったが、リアが何かしたようには見えなかった。ただ、餓鬼が独り手に灰となったのだ。

 もちろん、本当に餓鬼が勝手に灰になった、とは思ってはいない。ただ、それくらい早すぎて何も見えなかっただけのことだ。

「さすがだな、リア……!?」

「ぐぁああ!」

 

 リアの後ろの岩陰から一体の餓鬼が飛び出した。

 すぐさま加勢に行こうと駆け出したが、リアはそんな不意打ちの攻撃にも慌てることは無かった。

 振り向きざまに餓鬼の目の前で指をパチン!と鳴らす。その瞬間、餓鬼は為す(すべ)なくあっという間に灰となった。

 

 あまりの力の差を感じ、俺はその場に立ちすくむ。

「哀れな餓鬼(ヴァンパイア)たちよ。安らかに眠るが良い」

 すでに灰になった者達へ祈りの言葉を送るリア。

 餓鬼(ヴァンパイア)か。リアは、こうしていつも餓鬼(同胞)を嘆き弔っているのだな。

 

 なんとなくだが、リアが餓鬼狩り(ハンター)協会を立ち上げた理由がわかったような気がする。

「流石は、協会随一を誇る餓鬼狩り(ハンター)よの。その剣術とスピード、餓鬼(同胞)を苦しめることなく弔うその技。見事だ」

「リアの実力に比べれば、子供のお遊び同然だな」

 

 上には上がいる。さすがに吸血鬼(ヴァンパイア)相手に叶うはずはないと思ってはいるが、少なからず感服してしまう。

「ふん。我と比べようなど、何千年も早いわ。しかし、お主のその実力はおとぎ話の勇者にも引けを取らないだろう」

「そんなはずはない。あの勇者は誰もなし得なかった、魔界の扉を閉じたんだ。俺にそれと同じことができるとは思えない」

 

 周りを警戒しつつ俺はリアに歩み寄る。

 リアは人を褒めるのが上手だ。例え、表面上の言葉だったとしても、これだけ実力のあるものにそう言って貰えるのは単純に嬉しい。

「我が言っているのだ。誇って良いと思うぞ」

 真剣な眼差しで、俺をその深紅の瞳で見つめる。

 俺はそれ以上何も言えなくなった。

 

「ニンゲンノクセニ、ヤルナニンゲン。リアサマニ、ホメテイタダケルトハ、コウエイニ、オモウガイイ」

「お前、どこに居たんだよ」

 戦闘が始まる前、いつの間にか俺の肩から鳥の姿が消えていたのだが、どこから現れたのかひょこっと飛び出してきた。

 

「チュンハ、タタカワナイチュンダ」

 使えな……と言いそうになったのを慌てて抑える。チュンだけじゃなくリアにとっても失礼になってしまう。危ない危ない。

 わざわざ使えない鳥を、リアが召喚するはずがないのだ。

 こいつもこんななりではあるが、一応魔界の存在。鳥の姿をしていてもなにか魔界特有の力を持っているはずだ。まさか、リアの気配を察知するためだけの存在ではないだろう。

 ……まさか…な……


「おい、チュンよ。サボるでない」

「ハ、ハイ!」

 声が上擦っている。すかさずチュンは俺の肩まで飛びそこで落ち着いた。

 だからなぜ俺の肩に?

「一体チュンは何してるんだ?」

「ニンゲンノ、チカクニヨッテクル、ガキヲ、ヤッツケテル」

 

 は?俺の肩で?

 意味がわからず目をぱちくりさせる。

 リアは、岩に腰掛け面倒くさそうに頬杖をついて付け加えるように話し始めた。

「チュンは半径5キロ以内にいる餓鬼(ヴァンパイア)を弔っているのだ。いや、もっと正確に言えば弔うように()()している」

()()?」

 ますます分からない。5キロ先に餓鬼とは別の何かがいるのか?

 

 リアは更に面倒くさそうにため息をして続ける。

「チュンは自身の使役する魔物を呼び出して、それを操る能力を持っている。言わば司令塔のようなものだ」

 鳥なのに司令塔?頭悪そうに見えて、実は頭がいい?

 ニンゲンノクセニ、とよく言うが鳥の癖に案外鳥っぽくないんだな。

 

「チュンハスゴイ!」

 いや、前言撤回。やはり頭悪い鳥だ。司令塔というのはただの偶然だろう。

「戦略的には、とても頼りになる存在なのだ。ただ、普段のこやつは……ただのバカよの」

「チュンハ、リアサマノ、タヨリニナル!」

 都合のいいところだけ復唱している。

 

 リアは頭を抱えていた。

 なんとなくこのチュンが、凄いやつではあるが同時に残念な鳥頭だと言うことがわかった。

「まぁ、ある程度はチュンが見ておるからその間は少し休むと良い」

「リアは?」

「我は、元より夜に生きる者。睡眠など取らなくとも疲弊はせぬ」

 

 確かに、吸血鬼(ヴァンパイア)にとっては夜が活動時間だったな。リアは太陽の下でも難なく活動できているせいで、その深紅に輝く瞳がなかったら本当に吸血鬼(ヴァンパイア)かと疑ってしまう。

 

「そうだったな……あ、そうだ」

 俺は、思い出したようにリュックを開ける。よかった、潰れていない。

「これをどうぞ」

「!?これは蜜饅頭!?」

 手に持ったそれをリアに差し出す。

 すっかり忘れてしまうところだった。きっとこれはリアも好みだろうと、ここまで残しておいたのだ。

 二つ貰っていたので、片方は俺が食おう。

 

「しかもこれは、あの人気店ドラ婆の蜜饅頭じゃない!」

 ドラ婆というのは、街の蜜饅頭職人の中でも一番を誇っている者のことだ。つまり、先程街を出る時に会ったあの婆のことだ。

 ひと目見ただけでそれと分かるとは……さすがと言えるだろう。

 

「これ、貰っていいの!?」

 その目は、空に浮かぶ月の光よりも輝いていた。

 またしても話し方が崩れている点は、伝えた方がいいのだろうか……

「あ、あぁもちろんだ」

 リアの勢いに勝てる者はいないだろう。元よりあげるつもりだったのだから全く問題はないが。

 俺の返事を最後まで待たずして、リアは蜜饅頭を一口かぶりついている。

 

「んー!んんんーー!」

 リアはその美味しさのあまり、身震いして感極まっている。

 とりあえず、喋るなら口に入っているものを飲んでからにしようか。

 

「喜んでくれて嬉しいよ」

 リアが美味しそうに食べているなら、それだけでお腹いっぱいになってしまいそうだ。

 俺も久方ぶりの蜜饅頭を頬張る。冷めて時間も経っているというのに、フワフワでモチモチな生地。中からとろーっと溢れ出る蜜。

 それはとても美味しかった。いやこの美味しさを表現するには、ただ美味しいというだけではとても言い表すことはできない。

 

 こんな街の外の餓鬼が徘徊する危険な場所だとは思えないほど、リアは夢中で蜜饅頭を頬張っている。

 なんというか、気が抜けてしまいそうだ。

 まぁ、この蜜饅頭の美味しさの前ではそれも当然だろう。

 そんな中、チュンだけは目を閉じ黙ったまま、なにかに集中していた。



 

「それじゃあ、お言葉に甘えて少し横になるよ」

 二人ともに蜜饅頭を食べ終えたところで、俺は用意していた寝袋を広げ横になる。

 肩に乗っていたチュンは、すぐさま横になった俺の上に堂々と乗った。対して重くないから別に構いはしないが、少し気になる。

 もしかしてだが、俺に触れていないとダメなんだろうか。俺を中心に半径5キロを守っているのだろう。健気というかなんというか……

 

 横になってもこんな場所で寝れるはずは無い。例え寝れなくとも、少しでも体を休ませておくに越したことはないだろう。

「うぬ」

 なにか、良い匂いがする。薔薇の香りか、しかしとても柔らかな優しいその香りは、すぐさま俺の眠気を誘い、重くなる瞼に抵抗する間も与えてはくれらなかった。



 気がつくと、日が昇っていた。

 俺は寝ていたのか?

 体が軽い。頭もスッキリする。

 この俺がこんな所で熟睡したというのか。

「よく眠れたか?」

「すまない。本当に寝てしまうなんて」

「リアサマノ、コウハ、ユメヘトサソウ。スリープパフゥーム!ダレモサカr……ブェッ!」

 

 途中まで言ってまた吹っ飛んで行った。例のごとくリアが平手を食らわせたのだ。

 これがリアとチュンの日常なのだろう。そう考えると、とても和やかな主従関係と思える。見ていて微笑ましい。

「俺がよく眠れるよう力を使ってくれたんだな」

 

 リアは俺を一瞥してから背を向け、腕を組む。

「長旅になる。今のうちに休んでおいた方が良いと思っただけよ」

 普段は誰も寄せつけない強さと傲慢な態度を保っているが、その性根は全く真逆だ。

 俺は改めて感心してしまう。

 

 そうだったな。リアはこういう吸血鬼(ヴァンパイア)だ。

 ここからでは顔は見えないが、耳が赤く染まっているのは見える。

 俺は、クスッと微笑んだ。

「感謝するよ。ありがとう」

 リアは、黙ったまま何も言わないが、まぁそれも照れ隠しだろう。



 出発の準備を整え、先を急ぐ。時間がどれだけあるのか分からない。また餓鬼が大量発生してしまえば、今度こそ街が無事に済む保証はないのだ。早急に原因を究明しなくては。


 俺たちは今、街から一番近い村、セレンティアを目指している。あと少し歩けばたどり着くだろう。

「これは……カインよ。急ぐぞ」

「どうしたんだ?」

 隣を見るとリアがこれまでにないほど、神妙な面持ちでいた。

「おかしい……」

 この先でなにかが起こっているということか。餓鬼大量発生の原因か、はたまた別の要因か……


 

 俺たちは歩む速度を早め、やっとたどり着いた村は村とは言えない様だった。


 

読んでくださりありがとうございます!


今回は、人生で初のバトルシーンを描きました。

俊敏に動くシーンは割と苦手としていましたが、書いてみると案外書けるやん自分、と自画自賛してしまいました:( ;´꒳`;)


もちろん書く前に一度、かの有名な作品『転スラ』で勉強させて頂きました。


バトルシーンについてなにかアドバイスがあればお聞かせください♪


それではまた次回*˙︶˙*)ノ"

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