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最古の吸血鬼④



「だが、我は人間の血など飲まぬ」

 

 俺は言葉を失った。

 今しがた、人の血を飲まなければ餓鬼となり、無差別に攻撃する化け物になると、自分で言っていたではないか。

 まさか錯乱でもしているのか?

 これほどの強者が餓鬼になるなど、末恐ろしい。

 

「……自殺願望はやめて貰えないだろうか?君のような者が餓鬼になるのは……」

「馬鹿か貴様は。そんなことは毛頭思ってもいない」


 俺の言葉に呆れたのか、ため息混じりに否定するアメリア。

 ホッと胸を撫で下ろすのと同時に、ではなぜ人の血を飲まないのかという疑問が生まれた。血を飲まず迎える末路など、一つしかないと思うのだが。

 

「人の血など不味すぎて、飲めたものでは無いのだ」


 アメリアは、これまでに無いほど顔を歪ませ続けた。本当に不味いのだろう。

 

「我は、人の血などなくとも餓鬼にはならぬ。代わりにこの瞳は赤いまま変わらぬがの。おかげでどの種族からも怖がられてしまう。ほんと困ったものよ」


 軽々となんでもない事のように話すアメリア。

 今、なんと言った?人の血を飲まなくても餓鬼にならない?

 そんなことが可能なら、他の吸血鬼(ヴァンパイア)も同じように、餓鬼になる不安を抱えずに過ごせるのではないだろうか?上手く行けば、人間に正体を隠して過ごさなくても良くなる。

 

「アメリアのその体質は、なにか原因があるのか?」


 その原因さえ分かれば、餓鬼の出没数も減るだろう。そう思っていたが、アメリアの回答は「知らぬ」の一言だけだった。明らかに、この話を故意に避けている。

 先程、話したくもない事は話さなくていいと約束している。これ以上、無理に尋ねることは出来ない。


 ちなみにシャルロッテは、毎日のように人の血を喰らっているらしい。そうでもしないと腹が満たされないとか。

 吸血鬼(ヴァンパイア)が人の血を必要とする量は、それぞれ個体差があるという。三日に一度の者もいれば、一日に三回必要とする者もいるというのだ。

 そこまで多いと気の毒に思う。


 それにしても、吸血鬼(ヴァンパイア)に襲われたという話は一度も聞いたことがない。この街でそんな話があれば、――その真偽は別としても――直ぐに噂になるはずだ。しかし、そう言った類の噂は一度たりとも耳にしたことがない。


 一体どのようにして、人の血を喰らっているのだろう?

 例えば、この屋敷の奥で隣町から連れてきた奴隷等を住まわせ、その者達から血を貰っている。

 例えば、闇市とか言うやつで人の血の売買が行われていて、それを購入している。

 例えば……

 いや、考えれば考えるほど恐ろしい方法を思いついてしまう。


 俺は、この話を追求することをやめた。

 アメリアが「己の腹を満たすために人間を殺してはならない。その身を脅かしてはならない」という吸血鬼(ヴァンパイア)の暗黙のルールが存在する、と話していたのでこれ以上尋ねるのは無粋というものだ。


 その後もいくつか質問を繰り返したが、アメリアから尋ねられた内容は、好きな食べ物や趣味、餓鬼狩り(ハンター)協会での仕事はどうかという、一見くだらないと思われるものばかりだった。

 そんなことを聞いて一体どうするのだろう?と思っていたが、恐らく俺が質問をしやすいようにしてくれていただけのようである。

 もしかすると、「人と接するのは久方ぶり」とか言っていたし、単なる気まぐれかもしれない。

 


「もうこんな時間か。長居してしまい、申し訳ない」


 ふと見た懐中時計の針が、夕刻の時を示していた。

 思わず話に花が咲き、――この部屋に窓がないのも相まって――いつの間にか、こんなに時間が経っていたことに気づかなかった。

 

「別に構わんよ。人間の時間など吸血鬼(ヴァンパイア)にとっては、一瞬と同義だからの。それに……」


 アメリアは、一息ついてから続けた。

 

「お主との会話は、とても有意義であったからの。時間など、とうに忘れておった」


 満面の笑みを浮かべそう告げた。

 こんな湿っぽい場所に住む吸血鬼(ヴァンパイア)とはとても思えない、愛嬌のある可愛らしい笑顔。

 その笑顔に俺の胸はざわついた。

 

 咳払いをして戸惑いを隠しながら、俺は立ち上がる。

 

「そう言って貰えると助かる。この辺で失礼するよ」


 これ以上長居するのは、迷惑だろう。それでなくとも多大な迷惑をかけているというのに。


「うむ、そうか。仕方ないの」


 俺が入口へ向かうと、アメリアは少し残念そうに後をついてきた。

 

 廊下にコツンコツンと足音が響き渡る。

 そういえば、来る時は緊張で全く気が付かなかったが、自分の足音しか聞こえない。すぐ隣をアメリアが歩いていると言うのにも関わらず、服が擦れる音さえ聞こえないのだ。

 これは、気配を殺す技術の一つなのだろうか。


 俺達は名残惜しく黙ったまま、薄暗い廊下を歩き進めた。

 シャルロッテは、この場にはいないようである。神出鬼没という言葉は、彼女等の為にあるのかもしれない。




 外に出ると、空は既に赤く染まっていた。そろそろ門が閉められ、餓鬼が出没する頃合だろう。


「昼食まで馳走になってしまい、申し訳ない」

「構わぬよ。たまには、こういう日があっても良い」


 振り返ってそう告げると、アメリアは毅然とした態度で答えた。先程までの、柔らかい態度は何処へ行ったのやら。

 去り際、アメリアに「もう来るでないぞ」と念を押され、俺は屋敷を後にした。




 俺はその後、餓鬼狩り(ハンター)協会へ歩を向けていたが、途中である事に気づき教会へと足を運んだ。

 人気が少なくなった石畳を進むと、そんなに時間をかけることなく教会にたどり着いた。

 

 俺は、自分の二倍はあろう扉を開けると、それに気づいた一人の治癒士がすぐさま駆けつけてきた。


「カイン!無事だったのね!」


 屋敷から戻ったら、レーナの元へ戻ると約束していたことを、すっかり忘れてしまうところだった。あのまま餓鬼狩り(ハンター)教会へ行ってしまったら、後でコテンパンに叱られてしまうところであった。

 

「よかったぁ。全然戻ってこないから、そろそろ様子を見に行こうと思ってた所だったのよ」

「悪い。けど、この通りだ」


 両手を広げ、傷一つないことを見せる。

 

「あそこに何も無かったの?それにしては随分遅かったけれど……」


 (いぶか)しげに首を傾げ、こちらを見つめるレーナ。

 

 そんな彼女は、とても美人な容姿をしている。レーナに魅了される男共が後を絶たない程だ。

 変な虫がつかないようにと、気にかけていた時期もあったが、レーナの魔法の才は先にも言った通り、目を奪われるものがある。

 

 確かに攻撃魔法の類は不得意らしいが、自分の身を守る程度のものなら習得済みだと、自信たっぷりに話していた。


 淡麗な容姿とあらゆる傷も治癒してしまう彼女を、人々は次第に()()と称すようになった。

 レーナは大袈裟(おおげさ)だと恥ずかしがっているが、誰もが認める美しき治癒士である。


 俺は、一つ咳払いをして答えた。

 

「いや、ちゃんと会ってきたよ」

「ま、まさかあの吸血鬼(ヴァンパイア)に!?」


 レーナの顔は次第に青ざめていった。さすがに驚くよな。

 

「あぁ。だが、伝承にあった吸血鬼(ヴァンパイア)のように、野蛮な種族ではなかったよ」

「でも、人の血を食らうんでしょ!?大丈夫たった!?襲われたりしてない!?」


 レーナは少しの苛立ちと心配する気持ちが入り乱れ、俺の周りをグルグルと回りながら、どこかに怪我がないか隅々(すみずみ)まで探し始めた。

 

「大丈夫だ。怪我ひとつしていない」

「それならいいけど……もう無茶しないでよね。心臓がいくつあっても足りないんだから」


 首元まで念入りに調べあげようとするレーナを、安心させるのは骨が折れた。

 俺に怪我がひとつもないと安心したのか、調べるのをどうにかやめて貰えたが、機嫌は良くならない。

 

「いつも悪いな」

「ほんと!分かってるなら自粛してよね」

「あはは」


 ムスッと頬を膨らませるレーナに、俺は苦笑いを浮かべた。それだけ心配させてしまっているのだろう。


 レーナはその仕事柄、教会に残り怪我を負った者の治療をしなければならない為、必然的にいつも皆の帰りを()()()になる。心配は山のように積み上がっているだろう。

 

 たまには、無茶しないように努めるか。

 と言いつつも、きっとまた心配をかけてしまうんだろうな。レーナはそういう奴だ。今度、お礼でもしよう。


「それで、吸血鬼(ヴァンパイア)はどうだったの?」


 レーナのその目は、怖がりながらも興味津々といったところである。

 俺は、あの屋敷で起きたことをそのまま伝えることにした。だが、全部では無い。アメリア自身のこと――人の血を飲まないこと――は、伏せておいた方がいいと判断したからだ。

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)は、プライドが高い種族だと聞く。

 アメリアはそんなことも無いのかもしれないが、もし軽々しく口にでもして彼女の逆鱗に触れてしまえば、それこそこの街は綺麗さっぱり更地になってしまうだろう。

 そう思うと少し身震いした。

 

「そっか……伝承とはだいぶ違うみたいね」

「あまり姿を表さないから、俺たちが知らないのも無理ないよな」


 最後まで真剣に聞いていたレーナが、急に何かを思いつき顔を青ざめ体を震わせている。

 

「待って、それじゃもしかしたら自分の知り合いが人だと思って接していたら、吸血鬼(ヴァンパイア)だった、なんてことも有り得るってこと!?」

 

 確かに考えてみれば、それも有り得る話だろう。昼夜問わず、人里に紛れて過ごしているのだから、当然とも言える。

 下手すれば、知らないうちに自分の血を喰われている、なんてこともあるかもしれない。

 

「だが、もしそうだったとして、今まで誰かに危害を加えられたことはあるのか?」

 

 レーナは、顎に手を添えて考え込む。

 

「……確かにないわね……」

「だったら、そんなに怖がる必要も無いんじゃないか?」

 

 人間だろうが、吸血鬼(ヴァンパイア)だろうが後に判明したところで、過去が消えてなくなるわけではない。その者との思い出は、嘘偽りでは無いのだから。

 

「そっか……うん、そうよね」

 

 レーナは安心したように胸を撫で下ろした。

 

「そういえば、グランが探していたわよ?」


 レーナは思い出したように、告げた。

 

「グランが?……あー」

「昨夜の事じゃない?あの人、過保護だし」


 グランは、両親を亡くした俺とレーナを引き取って面倒を見てくれた、所謂(いわゆる)保護者のようなやつである。そして何を隠そう、餓鬼狩り(ハンター)協会のマスターでもあるのだ。

 そんなグランが俺を呼びつける理由など一つしかない。

 

「というより、マスターとして状況を知りたいだけだと思うけど」

「そんな事ないと思うわよ。案外あなたの事も心配してるんだから」


 ため息混じりに言うと、レーナは柔らかく微笑んで答えた。

 それはレーナにだから、だと思うけどな。グランは確かに親馬鹿と言うやつだが、最近は俺を心配することはめっきりなくなった。

 

 顔を合わす度、出てくる言葉は仕事の依頼ばかり。自分は協会のデスクに(かじ)り付くしかないからと言って、なんでも俺に押し付けてくるのだ。

 大変困った保護者である。

 

「とりあえず、行ってくる」

「うん、気をつけてね。昨日のこともあるし……」

「あぁ」


 その場を後にしようと扉に手をかけると、ある事を思い出し俺は振り返った。


「そういえばさっきの事、誰にも言うなよ?」


 誰かに他言されてしまっては、俺の首がどうなるか分かったものじゃない。だからといって、レーナが他言するようなやつだとも思ってはいないが。

 

「えぇ、分かってるわ。私だって死にたくないもの」


 レーナはそう言って頷いた。


 外に出ると、街は月明かりに照らされ、街頭が煌々と光り輝き、道行く人々の足元を照らしていた。



 

 俺はその後、餓鬼狩り(ハンター)協会へと赴いた。

 街の中央に位置するここは、世界で最も最初に作られた餓鬼狩り(ハンター)協会の本拠点でもあるのだ。


 ほとんどの餓鬼狩り(ハンター)は、教養がない。かく言う俺もその一人だ。そんな者の集まりの為、中には野蛮な態度をとる者も当然いる。

 おかげで、街に住む者達は用がなければ寄り付こうとしない。


 もちろん餓鬼狩り(ハンター)の中にも、誠実に働き、街に住む者達に対しても柔和な者もいる。そういった餓鬼狩り(ハンター)は、ちやほやされがちだ。

 それを野蛮な態度をとる者達はあまりよく思わず、より一層横暴な態度を振るう。


 なんとも悪循環な状況である。

 今はまだ、なんとか均衡(きんこう)を保っている状態だが、いつ反旗を(ひるがえ)すか分からない。

 餓鬼狩り(ハンター)協会の一番の汚点であり、危惧(きぐ)すべき問題だ。上層部が頭を抱えるのも無理は無い。




「カインさん、こちらへ来てください」

 

 俺が餓鬼狩り(ハンター)協会に着くなり、エルフ族のクリエラさんによって半ば無理矢理、二階の部屋へと連れ込まれた。

 

 クリエラさんはグランドマスターの秘書をしており、この餓鬼狩り(ハンター)協会を陰ながら支えている。

グランドマスターは、クリエラさんに頭が上がらないらしいが、実際どんな方なのか個人的に会話したことがないのでミステリアスな女性である。

 

 エルフ族特有の綺麗な顔立ちが、後ろでひとつに(まと)めた髪と黒縁眼鏡のせいで、とても怖い人相――この場合、エルフ相か――をしており、とても勿体ない。


 クリエラさんが、機械的に部屋の扉をノックしてから返事も聞かずに開けると、中へ入るよう促された。

 俺に有無を言わせる暇すら与えてはくれない。

 

 部屋に入ると、ちょうど向かいに窓があり、傍にはデスクが置かれている。そこにはたくさんの書類が山積みにされており、どれだけ仕事が溜まっているかが伺える。

 両脇の壁には、天井まで続く本棚に囲まれ、部屋の中央に応接用の上等なソファーと低めのテーブルが置かれていた。来客には、少しでも良く見せようという魂胆が見て取れる。


 そうこの部屋こそ、餓鬼狩り(ハンター)協会グランドマスターである、グラン・マスカラードが普段仕事として使っている書斎なのだ。


「遅かったなカイン。さ、何が飲みたい?紅茶もあるぞ」


 山積みにされた書類のデスクにグランはいた。背もたれの高い椅子に腰掛けている。

 グランはそう言いながらも、傍にある急須を傾け空のカップに何かを注いでいる。匂いからして恐らく紅茶だろう。俺に選択肢はないようだ。


 秘書のクリエラさんは、俺が部屋に入るのを確認するとそそくさと居なくなっていた。仕事が出来る女性な印象はあるが、いつもとても淡白である。

 

「紅茶って……あんたに似つかわしくないな」

「そうでも無いぞ?割とこういうのも飲まなくは無い。まぁ、全くもって詳しくは無いがな」


 ハッハッハー!と豪快に笑うグラン。相変わらずで何よりだ。


 グランは、ベストを着ており前を閉めておらず、グレーのズボンと少し履き潰された黒のブーツを履いている。

 しかし、その全てから筋骨隆々の身体を隠しきれてはいない。むき出しの腹は余裕で割れているし、腕はムキムキだ。ズボンで隠れているはずの足なんて、そのムキムキさを隠すつもりもないようである。

 現役から既に退いて何年も経つと言うのに、この体型は少し卑怯である。


 そして髪は茶色の茶髪で、控え目に生やしている髭は威厳を保つためと前に言っていたが、あっても無くても同じ気がする。


 グランは俺の両親と馴染みがあり、その誼でレーナ共々保護者を買ってでてくれた。

 持ち前の剣術と特有の魔法、最大級防御魔法アブソリュートプロテクションで、餓鬼狩り(ハンター)協会グランドマスターの地位まで上り詰めた実力保持者だ。


 そして俺の剣術は、そんなグランの教えによるものである。おかげで魔法の才がない俺も実力をつけることが出来、今ではグランが本気で交えられる唯一の相手となった。

 

 そんなグランを他者から尊敬と敬意の意を込め、また野蛮な者から嫌味を込めて()()()()と呼ばれている。

 しかし、俺は一度としてグラマスと呼んだことは無い。長年の付き合いの中で、今更そんな呼び方は出来なかった。

 

「それで、なんで俺を呼んだんだ?」

「あぁ、そうだったな」


 俺はグランから紅茶の入ったカップを受け取ると、ソファーに腰掛けた。さすが()()()だ。座り心地がとてもいい。


 グランは、デスクに肘をつき真剣な目つきで口を開いた。


「お前も察している通り昨夜、餓鬼が大量に発生した件についてだ。昼間には既に、調査隊も派遣させ近隣の森を調べさせた。だが、原因はまだ掴めていない。被害が最小限に抑えられたし、死者も出なかったから良かったものの……あんなことは今までに例がない」


 グランの言う通り、あれはかなり異常だった。街を取り囲むほどの数など、今までに見たことがない。普段なら数匹現れる程度だと言うのに。

 あのままでは、餓鬼狩り(ハンター)も兵士も全滅し街は瞬く間に餓鬼の巣窟と化していただろう。

 

「俺が直接、戦場に行ければよかったんだが……カインには負担をかけたな」

「あんたが戦場に行く訳にはいかないだろ」

「あぁ、心苦しい限りだ……」


 グランは、すまないと言って頭を下げた。

 

 最大級防御魔法アブソリュートプロテクションとは、その名の通り防御魔法である。しかし、グランが使用するそれは通常の防御魔法とは規模が違う。街を覆ってしまう程の巨大な規模なのである。

 しかしその分制約も大きく、その場から少しでも動いてしまうと魔法が解除されてしまうのだ。

 この餓鬼狩り(ハンター)協会が、中央に位置するのはその為である。

 

 大きな制約はあるが、一度発動させるとその防御内へ許可のない者は出入りが出来ず、魔法も物理攻撃も一切通さない強固なものなのだ。


 最大級とは、よく言ったものである。

 

「ところでカイン。昨夜、お前の身になにがあったんだ?」


 やっぱり聞かれるよな……。

 俺は昨夜の出来事を、順を追って話した。餓鬼の数、俺が瀕死の状態にあったこと、深紅に輝く瞳の者のこと……。

 しかしあくまでも、()()()()()()()()を語った。


 途中、俺が重症を負ったことに驚いていたが、深紅に輝く瞳の者の話をすると、グランは肩の力を落とした。


「深紅に輝く瞳……そうか、あの方が動いてくれたのか……」


 ん?()()()?まさか、アメリアの存在を知っているのか?

 

「知り合いか?」

「あぁ。この地位になると、この街の根幹を知ることもあるんだよ」


 そこで、紅茶を一口飲むとグランは続けた。

 

「あの方のことは気にしないでいい。あの方が、この街に危害を加えることは決してないからな」


 ()()()とはなんだ?アメリアは実はお偉いさんだったのか?

 確かに、住んでいるのか分からないくらいの怪しい屋敷に住んではいたが……まさかそんな……!


 俺は顔を青ざめた。本日、何度目だろうか。

 

「……その顔は、会ってきたな?」

「た!……助けてくれたお礼をしに行ったんだ……」


 わずかに声が震える。

 そう、本当にお礼をしに行っただけのはずだった。だというのに、屋敷の中までお邪魔して話に花を咲かせてしまった。

 それが悪い事だとは思わない。ただ、アメリアがお偉いさんだということを知らずに接してしまったことに、焦りを感じているのだ。


 しかし、そんな俺の心境など露知らず、グランはなんでもない事のように俺に尋ねた。

 

「そうか。あの方は元気だったか?」


 俺はコクコクと頷いた。最初は怒っていたように思うが……。

 

「そうかそうか!それは良かった!だが、一つ忠告しておく」


 グランは身体を前のめりにして、念を押すように人差し指を俺に突き刺した。

 

「あまりあの方を探ろうとしないことだ」


 強い眼光を向けられ、俺はたじろぐ。

 

「い、一応聞くがなぜだ?」


 グランは椅子に深々と座り直し、遠い目をして続けた。

 

「いずれ後悔することになる」


 その一言だけを告げると、その先はなにも語ろうとしなかった。

 グランとアメリアの間に何かあったのだろうか?

 

「さて、この話はこれで終わりだ。今度は、仕事の話をするぞ」


 まだあるのかと、俺はため息混じりに肩を落としたが、元より本題はこちらの方だろう。




 グランとの話を終え、俺は餓鬼狩り(ハンター)協会を後にした。

 夜も更け、街を灯す街頭に昼間の人影はなくなっていた。

 今夜は餓鬼の襲撃があまり無かったようだ。昨日の今日でまた来られても大変困るので内心ホッとした。

 あの異変を、早急に突き止めなければならないとグランも言っていた。今後も原因究明に力を入れるそうだ。


 そういえば……

 

「昨夜の手柄を全部俺に押付けたこと、グランに文句言うのを忘れていた」


 まぁまたの機会に取っておくか、と思い直し俺は家路へと向かった。

 グランよ、この借りは覚えておけよ。


 

 

読んでくださりありがとうございます♪


この間、とある方にお褒めの言葉をいただきました。

みなさんにはほんとに支えられていて、毎日嬉しさで更に筆が進みますっ

いつも本当にありがとうございますm(_ _)m

これからも精進して参りますので、よろしくお願いします!


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