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開戦の吸血鬼②

「我が、魔族を召喚しよう」



 

 静寂を破ったのはリアだった。

 何を言っているんだ。こんな場所で魔族を召喚して人の目に触れてしまったら人々は驚愕し、恐怖を抱いてしまうのが目に見えている。最悪、召喚した主であるリアは、この街に居られなくなってしまう恐れだってあるのだ。


「ちょっと待て。確かに魔族なら対抗策としてはいい案だ。だが、今この時代で生きている人々は魔族の存在に耐性がないんだぞ!?俺ですら初めて見た時、魔族に恐れを感じたんだ」

 

「わかっておる。だが、この街が消えてなくなるよりマシであろう?」


 その瞳には、既に覚悟が決まっているというのが映って見えた。これ以上はもう、何を言っても無意味だろう。覚悟の決まった者に、あれこれ口を出すのは無粋と言うやつか……。

 せめて俺は、かつての魔王と勇者のような結末を迎えさせないようリアを守り抜こう。そう心の中で誓った。


「……わかった」

「アメリア様、貴方のご尽力に餓鬼狩り(ハンター)協会グランドマスターとして、感謝を申し上げます」


 立ち上がったグランが深々と頭を下げる。


「アメリア様が今後、何か困ることになれば我らが必ず何とかしてみせます。このご恩は一生忘れません」


 ()()()()()()――それがなにを示すのか、この言葉から察するにグランも俺と同じ考えなのだろう。

 それでもリアの力に(すが)るしかないこの現状が、心苦しいのか。その顔は苦渋の表情を浮かべている。


「我のことは気にするでない。そもそもやつの相手は我なのだ。我が相手するのが自然よ」

「俺も共に戦う」

「お主はここで防衛していてはくれぬか」

「何故だ?」


 当然のように、リアと共にアレクシアを打とうと考えていたばかりに、リア本人から断られるとは微塵も思っていなかった。

 

「カインよ。お主の気持ちは伝わったし、我がしなければならないことも理解した。安心せよ。もうへまはせぬ」


 まさかリアが負けるだなんて思ってはいない。ただ、リアの心はどうなのか。

 傍にいて共に戦い、少しでも心の支えになればいいと、そう思っていたのだが……。

 

 もう負けないとリアが断言している。不安がない訳では無いが、リアがそこまで言うのなら俺がするべきことはただ一つ。リアを信じ、リアの帰りを待つことだ。


「わかった。だがいいか?君は決して一人じゃない。それを肝に銘じてくれよ」

「ふ、とても心強いの」


 リアは軽く微笑む。

 これは勝てる勝てないの話ではない。俺達は必ず勝つ。アレクシアなんかに負ける訳には行かない。この街の為にも、リアの為にも。そして、かつての魔王と勇者の為にも。

 これは復讐などではない。苦しみ嘆く魂の弔いだ。




 陽の光は既に顔を隠し、空には満月が浮かびあがる。しかしそれは、血で染まったかのような赤黒い月であった。星も輝きを失い、闇夜に映るその月が一層際立って見える。

 

 グランは最大級防御魔法アブソリュートプロテクションを展開し、餓鬼狩り(ハンター)協会の周囲を取り囲んだ。

 

 まだ動ける餓鬼狩り(ハンター)と兵士も同じように周囲を取り囲み、(きた)る餓鬼の襲来に全神経を集中させている。


 俺はその中の一人として、餓鬼狩り(ハンター)協会の入り口を陣取っていた。

 各々が、固唾を飲んで待ち構える。

 長年、共にしてきた愛剣を握る手に汗が出る。

 

 いつ来てもおかしくないこの状況に、神経がすり減っていきそうだ……。来ないはずがない。やつのことはあまり知りもしないが、アレクシアのことだ。必ず来ると確信にも似た、強い自信がある。


 静寂の時が流れた。嵐の前の静けさ。とても居心地が悪い、嫌な風が肌を刺す。空気が(よど)んでいる気がして、重く息苦しい。

 

 どれだけの時間が過ぎたのか。はたまた、それほど時間は経っていないのか。突如、赤く染る満月を背に膨大な魔力を持ったアレクシア(やつ)が現れた。


「うふふふ。愚かな人間達。私達と共にあの野蛮なアメリア・リングハート(ヴァンパイア)・レヴァリアスを殺しましょう?」


 不敵な笑みを浮かべ、その言葉に呼応したのか遠くから餓鬼が迫ってくる。


「絶対にここを死守するんだ!だが、誰一人として死ぬなよ!」


 俺の言葉に餓鬼狩り(ハンター)と兵士達は、呼応するように雄叫びをあげ、迫る餓鬼に刃を向けた。




「それで?みんなに昔話でもしたのかしら?」

 

 空中に浮遊している魂の集合体(アレクシア)は、我を見据えた。我も傍に現れていることを既に気づいておったのだ。

 実際、我自身も隠れるつもりは毛頭無かったので、大した問題にはならぬ。


「だからなんだと言うのだ」

「……へぇ?ムカつく顔してるじゃないの」


 どうやら魂の集合体(アレクシア)は、我がもう揺るがないことが分かってか、面白くなさそうに舌打ちをした。


「あんたのせいで、どれだけ私達が苦しめられたか分かる?許される行為じゃないのよ!私達を痛めつけて殺して……野蛮極まりないわ!」


 少し前の我であったなら、その言葉に心を痛め、言い返す言葉も無かった。だが、今の我には一ミリも届きやしない。雀の鳴く声のように聞こえる。


「……お主は本当に可哀想だの……」

「かわい……そう?」


 魂の集合体(アレクシア)は、我がなんと言ったか一瞬分からなかったようで小首を傾げた。しかし、瞬時にそれが侮辱の意と理解し、次第に顔を真っ赤に染めていく。


「可哀想……ですって!?それだけで済まそうというの!?」

「我がしたことは、我の罪として受け止める。これからも背負っていく覚悟だってある。しかし、今お主がしている()()は誰の罪か?」


 魂の集合体(アレクシア)は、無実の関係ない人間を鬼へと変えた。ただ、我への復讐を遂げるという目的の為だけに。

 魂の集合体(アレクシア)は、鼻を高くしてその答えを告げた。


「ふん、そんなのあなたよ。あなたが私達を無惨にも殺した。だから、そんなあなたに復讐をするためにやっていることなの。その間に犠牲になった者は、あなたが生きて居なければ犠牲にならなくて済んだ者達よ」


 意気揚々と語る、魂の集合体(アレクシア)


「そうか……やはりお主は、可哀想よの」


 またもや静かに告げられた侮辱に、耳まで赤く染める。頭から噴火してしまいそうなほどの勢いである。


「また侮辱したわね!!」

「お主は自分のした事を理解しておらぬ。我への復讐にのみ目を向け、他が目に入っておらぬから可哀想と言ったのだ」

 

「ふん!そんなのどうだっていいわよ。私達は、あなたに復讐をする為に転生したのだから」


 魂の集合体(アレクシア)は、鼻で笑う。命を落としてせっかく転生したというのに、復讐などという愚かな行為で、再びこの者は死を迎えることとなる。

 そうとも知らずに、我を嘲り笑う魂の集合体(アレクシア)


「そうか……愚かよの」

「!?……侮辱するのも大概にしなさい!!!」


 魂の集合体(アレクシア)は、金切り声を上げて黒い鞭のようなものを振り回し、我へとその凶器を振るう。昨夜のように何度も何度も、それを振り回す。が、いずれも我に(かす)りすらしない。

 

 次第に魂の集合体(アレクシア)の怒りは最骨頂に達し、同時にその手元は単調となり、隙を見せ始めている。

 

 我はただ、難なく避けるのみ。


「なんで……どうして!当たらないの!?私達の力は、魔王に匹敵するんじゃ無かったの!?」

「何を言っておる」

「!?」


 我はその隙に、魂の集合体(アレクシア)の背後に周る。

 魂の集合体(アレクシア)の周りにはいつの間にか、赤い結晶がいくつも取り囲んでいた。それは、鋭い刃となり魂の集合体(アレクシア)にその切っ先が向けられる。

 我が指をパチン!と鳴らすと、それらは魂の集合体(アレクシア)に一斉に向かい、その体を次々に串刺しにしていく。


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」


 魂の集合体(アレクシア)は痛みに苦しみ悶える。体中から結晶を通して、血が地面へと滴り落ちる。

 再び指をパチン!と鳴らすと、魂の集合体(アレクシア)に突き刺さった結晶は、飛散し消えた。

 支えのなくなったその体は、地面へと落下しそこにクレーターを作り出す。


 我は傍まで近寄り、地面にそっと降り立った。

 

「……ゴホッ……な……ぜだ……」


 やはり簡単に息の根を止めることはできぬか。


「お主が我を殺すことなど到底適わぬ。お主の力が我と同等、またそれ以上となることは有り得ぬのだ。我への復讐は諦めることだの」


 最後の忠告の意味で告げた。まだ抵抗するというのなら

容赦はしない。


「……くくく……あはははは!」


 魂の集合体(アレクシア)は、不意に笑い始める。

 

「……何がおかしいのだ」

「くくく……例え私達があなたを殺せなくとも……」


 魂の集合体(アレクシア)は、血を流しながらゆっくりと立ちあがる。


「あなたを苦しめることくらい……できるわ!」

「!?」


 その言葉と共に、無数の餓鬼が亜空間から飛び出し餓鬼狩り(ハンター)協会へ真っ直ぐ向かっていく。我が近くにおるというのに、見向きもしない。

 

 まずい!この数が押し寄せれば、今の餓鬼狩り(ハンター)協会では抑えきれぬ!

 覚悟はもう出来ておる。例えまた、人間に蔑まれたとしてもこの街を……人々を守る……!


「これ程の罪を我は許さぬ……我の眷属達よ。餓鬼(ヴァンパイア)の襲撃からここに住まう民を、命を賭して守れ!」


 我の問いかけに空間が歪み、そこから異形の姿の何かが姿を現した。


 

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