憤怒の吸血鬼④
俺達が次に目指している町は、サランという町だ。
大きな町とは口が滑っても決して言えないが、ミスティックヘヴンの近辺にある村ヶの中では栄えている方だ。
サランはこの先にある商業の盛んな街、シルバーレイクとミスティックヘヴンの橋渡しにもなっている。
その為ミスティックヘヴン程大きくは無いが、餓鬼狩り協会も申し訳程度に設置されていた。
俺達は、セレンティア村やラムホーン村のような被害がどこまで拡がっているのか確認する必要がある。
ミスティックヘヴンの食料は、大体がそのシルバーレイクから仕入れているのだ。シルバーレイクまでも被害にあってしまうと、一次被害だけでは済まなくなってしまう。
それにしてもここまできてから、生物の姿が見受けられるようになった。昨夜の内に、村周辺の餓鬼や人鬼を弔ったのが幸いしたのだろう。
まぁ正確には、リアが召喚した魔族が弔ったと言うのが正しいが。
動物達の生存。これはかなり大きい。サランもシルバーレイクも、まだ被害にあっていない可能性が高まるからだ。辿り着くまで油断はならないが、少しだけ肩の力が抜ける。
次の町まで、どんなに急いでも二日はかかる。俺たちは例のごとく、自分の身長ほどある巨石や山影で野営をすることにした。
「バカ鳥、ちゃんと仕事するのにゃ」
「バカトハナンダ!コノ、ニャンタ!」
「わたしは、ニャンタではにゃいのにゃ。お前がバカだと再確認したにゃ」
「ナンダトー!」
道中も相変わらず黒猫と青い鳥は、じゃれ合いとも取れる喧嘩を飽きることなく続けていた。楽しい遠足、とまでは行かないがリアも俺もその二匹の姿に、心を落ち着かせられるひと時の間であった。
騒がしいものではあるが、それすらもありがたく感じた。
二日かけようやく辿り着いた町を見て、俺はホッと胸を撫で下ろす。
そんなに大きくもない、石造りの門を守るように門兵が二人立っている。
3メートル程ある杭が町の周囲を囲うように等間隔に打たれていた。恐らく餓鬼の侵入を防ぐためだろう。
門をくぐると、そこには木造建築の家々、舗装された道、行き交う人々の姿があった。
被害にあっていなくてよかった。
俺たちは安堵した。
しかし、これから奇襲を受ける可能性だってある。油断は禁物だ。
とはいえ、今はまだ日が昇っている時間帯。この時間に実行する可能性は極めて低いだろう。犯人の目的は分からないが、人を人鬼と化すのが目的なら、今は何もしてこないはずだ。
しばしの休息をとりたい気持ちもあるが、そうは言っていられない。
木製で出来た簡易な門構えを通り、町へと入る。一応見張りが居たので、どこから来たのかと尋ねられたが、そこに嘘をつく必要は無い。
ちなみにリアは、銀髪の姿に変えていた。さすがに赤髪に赤目は目立ちすぎる。と言っても、今のこの姿もある意味、ちょっとした騒ぎにはなるのだが……。
案の定、門兵から熱い視線を受けている。本人は気づいていながらなんでもないように振舞っていた。歩いているとすれ違う人々にも老若男女問わず、あらゆる視線を受けている。
こちらの方が恥ずかしくなってきた。
チュンとシャミィは、見た目はただの鳥と黒猫だ。喋らずにいれば、ただの変わった動物を飼っている一行と思われるだけで済む。
こうやって冷静に考えると、俺達はかなり異質な一行ではないだろうか?
何はともあれ、とりあえず向かった先は餓鬼狩り協会だ。そこならなにかいい情報が見つかるだろう。と、思っていたのだが、予想に反して特に有益な情報は得られなかった。
周りで異変が起こったことも、もちろん町に餓鬼が大量に襲ってきたこともないと言うのだ。ある意味これが有益な情報とも言えるのかもしれない。
かなり奇妙な話だ。
すぐ隣の村は、既に被害にあっていた。餓鬼や人鬼が、この町の近辺を徘徊していたって全くおかしくは無い。
しかし、その目撃情報は一切報告されていない。不自然にも程がある。
「一体どういうことだ?餓鬼が人里を目指さなかったのか?」
俺たちは一旦情報をまとめる為、宿に来た。二部屋にしようとごねたのだが、我は部屋には泊まらぬとか言って聞かなかったため、1部屋しか借りなかった。
まぁ今夜は寝ることは出来ないだろうから、単なる情報をまとめる為だけの部屋となるだろうが。
「それはありえないよの。飢餓感に耐えられるはずがない。血の匂いに誘われて人里に寄ってくるはずだ」
そういえば、人鬼達は一体残らずあの村に居座っていた。そもそもそこが不可解なのだ。
人鬼の生態は餓鬼とは違うのか?それも無くはない話ではある。もしかしたら人鬼になっても尚、あの村で普段と同じ暮らしをしていた、と考えられるのかもしれない。
子供をいつまでも抱いていた彼女がいい例だ。
だが、ここでは餓鬼すらも遭遇していないと言う。ある時から、ピタリと見なくなったそうだ。
何故だ?ある時からとはいつだ?
この町には、他とは違う何かがあるというのだろうか?見なくなったその時、この町ではなにが起こったのか?
謎は深まるばかりである。
「この町をわざと避けているようにも思えるの」
避けている……?
リアは、顎に手を添えたまま独り言のように静かに話し始める。
「付近に餓鬼や人鬼の気配を感じられる。しかし、一定の距離からこちらには一切気配がない。まるで敢えて避けて、機が来るのを待っているかのようだの」
「まだ日が昇っているから、とは考えられないか?」
自分でも分かってはいるが、一応問うてみる。
町の周辺は、木々が伐採されており陽の光が差し込んでいた。そこに餓鬼が来ることはまずない。だが、その先には木々が生い茂っている。その中に隠れていてもおかしくは無い。
「いや、それがかなり遠くなのだ。人間には決して気配を察知されないようなギリギリの距離。この町を囲むように半径三十キロ地点を円形状に取り囲んでおる。まるで意思疎通を取ってわざとそうしているかのように……!?」
リアは突如として立ち上がり、窓の外を見た。
外は、日が沈みかけていた。そろそろ餓鬼が動き出す頃合いだろう。
いや、待てよ。この町を囲むように餓鬼が円形状に取り囲んでいると言ったか?まさか……!?
「リア、行こう」
「うぬ」
リアは大きく頷き、窓を開け飛び出した。
「あ!おい、ちょっ!……ったく仕方ない」
俺は、扉から出て階段を降り外へと出た。さすがに二階の窓から外に飛び出して、隣の屋根を伝っていくのは無理がある。吸血鬼程の身体能力を、俺は持ち合わせていない。
「人間は難儀にゃ」
「シャミィ?チュンまで……リアについて行ったんじゃないのか?」
青い鳥は俺の頭に飛び乗り、黒猫は後ろから小さい体を一生懸命走らせて着いてくる。
「チュンガ、イナイト、ニンゲンシヌ」
「リア様の命にゃ」
「そうか」
正直心強い。俺だって決して弱くは無いはずだ。腕にもそれなりに自信はある。が、数に押し切られてしまう可能性は無くはない。俺には魔法がない分、範囲攻撃には限界があるのだ。
リアがどこに向かったかは分からない。しかし俺がやるべきことはただ一つだ。
舗装された道をひたすら駆け抜ける。建ち並ぶ家々を通り抜け、向かった先は町の入口だ。
入口にある門のそばには、それを閉じようとしている門兵がいた。
「おい!今晩、餓鬼がこの町を襲いに来る。しかも大量の餓鬼がな。備えてくれと他に伝達してくれ」
「貴様いったい何を言っている。最近この近辺には餓鬼など見つかっていないんだぞ。そんな狂言聞くわけないだろ」
「それが一斉に襲い来るって言ってんだよ!もう、すぐそこまで来てんだ!」
俺は胸ぐらをつかみ、この分からず屋に怒鳴りつける。
見張りの男は一瞬たじろぐが、まだ半信半疑の様子だった。
「言い合っている暇は…」
「ぐぉぉぉおおおおおおお!!!!」
森の奥から叫ぶ声が聞こえてきた。それも無数の。
「ヒッ」
「早く行け」
見張りの男が縮み上がり、俺の掛け声と共に逃げるように去っていった。
あいつちゃんと報告するだろうか。
例えしなかったとしても、俺のやるべきことは変わりはしない。
というか、よくあんなやつが見張りなどしてるものだ。それ程人手が足らないと言うのは、ここも同じか……。
俺は来る襲撃に、鞘から剣を抜き身構える。
いったいどれだけの数が来るだろうか。百ならまだ対応出来るかもしれない。しかし、四方から来るともなると……百じゃ足らないだろう。全てを守り抜くのは無理か……。
日は完全に落ち、世界が闇に包まれる。
まだ、餓鬼の姿は見えないし気配もしない。いつ来るか分からない襲撃に、俺は唾を飲み込む。
すると上から何者かが降ってきた。ギョッとして剣を構えるが、直ぐに何者か分かりホッとする。
赤い髪に深紅の瞳、真っ赤なドレスを靡かせている。リアだった。
「驚かせるなよ」
「仕方なかろう。この姿では人を驚かせてしまう」
俺は再び、木々の生い茂る森を警戒する。
「凄い速さで一斉に動き出しておる」
「どれくらいだ?」
「残り15キロ……お主、死ぬでないぞ」
「あぁ」
リアはどこかへと消えていった。しかし、居場所は分かる。ちょうど町の反対側に気配を感じるのだ。これもチュンのおかげだな。
反対側は心配することは無い。俺は目の前のやつらを弔うことだけに集中すればいい。
「カズガ、オオイ!」
「仕方にゃい。リア様のご命令とあらば、この人間くらいは守ろう」
「心強いよ」
それでも、冷や汗が滴り落ちる。
「ぐぉぉぁああああ!!!」
冷や汗が地面にポタっと落ちた時、大量の餓鬼が森から姿を現した。
百どころか千はくだらないか……。正面だけじゃない。右からも左からも襲ってくる。
俺は近づいてきた餓鬼へ刃を向ける。次から次へと襲い来る餓鬼全てに対処するのは至難の業だ。
チュン自体に攻撃の能力は無いが、シャミィにはあるようだ。
大声を出すと拡声器のように反響し、後ろの方まで灰と化した。範囲は広くはなく、直線距離のみのようでこの数に対してはほんの僅かではあったが、全くないよりは断然マシだ。
これはまるであの時と同じだ。いや、あの時より酷いかもしれない。
まずい。
グランの最大級防御魔法のないこの町が、この襲撃に耐えられるとは思えない。
対応出来ない餓鬼が、町へ牙を剥く。
くそ!これでは間に合わない!
そんな折、町の中から槍が突き出し餓鬼は灰となった。
兵士や餓鬼狩り達が町を覆う杭の間から槍を突き刺しているのだ。小さい町なりに知恵を絞り、できるだけ人員が欠けないよう工夫されていたのだな。
「こちらは心配するな!」
先程の見張りがこちらに向けて叫ぶ。俺は大きく頷いた。後ろのことは町の者たちに任せよう。
俺は目の前の餓鬼に向き直る。苦しみから早く解放してやるのだ。
草木が生い茂るこの森に、多数の餓鬼が出没する。それは木々の隙間にびっしりと埋まってしまう程であった。
「これはあの時より数が多いの……」
チュンとシャミィを置いてきて正解だった。あやつらがおればカインを少しは心配せずとも良いだろう。
とはいえ、長期戦は避けるべきだ。速やかに対処する必要がある。
我は町に一体も行かせないよう、丁重に弔っていった。
しかし、これで終わりだろうか。なにか引っかかる。
この襲撃は、何者かに仕組まれた恐れがある。餓鬼には自我がない。故に他の餓鬼と意思疎通を取って、このように一つの町を一斉に襲う知恵など持たぬのだ。
どうにかして餓鬼を操っているようにも思える。
それは無理な話でもない。元より餓鬼は吸血鬼だ。そして吸血鬼は、魔界に住んでいた。つまり吸血鬼も魔族と同じとも言えるだろう。
魔族は、契約さえすれば従わせることも可能だ。さすがにこの量はあまり例がないが……もしかすると餓鬼には自我がない故に、従えやすいという特性があるやもしれぬ。
我はそんなことを試したことは無い。永遠とも言える苦しみを負った者を従わせてまで生かし、更なる苦しみを与えようなどという愚行を行えるはずもないのだ。
やはり解せぬ。
このような愚行、早急に止めるに越したことはない。
必ずどこかでこの惨状を観察している者がおるはずだ。どこだ。どこにいる……!?
「!?しまった!」
突然、町の上空から凄まじい魔力を感じた。なんだこれは!?
こんな凄まじい魔力は、我が放つ魔法以外感じたことは無い。それになぜ突然あの場所に……異空間魔法か!
我は一瞬にして付近の餓鬼を弔い、町まで瞬間移動魔法を使った。
なんだこの気配は!?
突如として町の方から凄まじい気配を感じた。いや、正確には町の上空か?
「なにかまずい予感がするにゃ!逃げるのにゃ!」
逃げる?しかし何処へ?
俺は、上空を見上げることしか出来なかった。
それは黒い霧のようなものだった。上空を覆い、物凄い勢いでそれが降りてくる。あっという間に、町に到達し町は霧に覆われた。
それが次はこちらに向かってきている。
そして、次に俺が目にした物は森の生い茂る木々だった。
「え?」
読んでくださりありがとうございます!
「いいねや感想、ブクマ?とやらをすると作者が喜ぶらしいの。我もしてやらないこともない」
次回もお楽しみに♪




