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プロローグ

吸血鬼物が書きたくて、書きました。

ほかに手がけているものがあるため、投稿速度は遅いと思われます。ご容赦を。

それではお楽しみください。



 腹がとても熱い。

 

 下を向くと、そこには腕が生えていた。もちろん自分の腕では決して無い。

 

 不覚だ。

 一瞬の油断をつかれてしまった。

 

 自分の実力に、自惚れていた訳では全くない。いつだって、何者にも警戒は怠らないよう努めていた。

 

 自我を失った吸血鬼(ヴァンパイア)――餓鬼(ガキ)――に、この街ミスティックヘイヴンは包囲されている。数え切れないほど前代未聞と言えるこの襲撃は、充分警戒するに値する大事件だ。

 

 だと言うのに、不覚にも後ろを取られ攻撃を許してしまうとは……

 

「くっ……」

 

 しかしこれでも俺は、餓鬼狩り(ハンター)の端くれ。たとえ殺されようとも、一体でも多く餓鬼を弔い続ける……!それが俺の使命である。

 

「ぅりゃぁぁあ!!」

 

 痛みに負けじと力を込め、手に持っている剣を右から後ろにかけて振り上げる。その首を掻っ切るために。

 

 狙い通り俺の愛剣は、餓鬼の首を抵抗なく切断した。首は血を吹きながら、地面へと転がり落ちていく。そして同時に身体も崩れ落ち、俺の腹に突き刺さった腕も抜けていく。

 

 そして餓鬼の身体が地面に触れた瞬間、灰へと変わり跡形もなく消えてなくなった。

 

 俺の腹からはドバドバと血が滴り落ちている。それを止める術を、俺は持ち合わせていない。腹を押える手には、真っ赤な血がべっとりと媚り付いていた。

 傷口が燃えるように熱い。まるでそこに心臓があるかのようだ。

 

 治癒士は、近くにいるだろうか。周りを見渡すが、見えるのは沢山の餓鬼と倒れゆく兵士達のみ。

 段々と目が霞んでくる。


 考えても見れば、この傷ではもう手遅れだろう。例え最高の治癒士であっても治すことは出来ない。それに、こんな戦場の真っ只中に治癒士がいるはずも無かった。

 

 俺は膝から崩れ落ち、前のめりに倒れ込む。

 愛用の剣を握る力さえ、もうない。

 

 こんなことなら、もっと弟妹にいろいろと教えてやればよかった。

 弟のクエンは、剣術を極めれば最高の剣士になれるだろう。キーラには、まだ教えていない菓子のレシピもまだまだ沢山ある。

 

 俺がいなくなっても、2人は上手くやって行けるだろうか。いつも喧嘩ばかりしているからな。俺たち兄弟しか居ないのだから、仲良くやっていってほしいと願う。

 

 心配なのは、なにも弟妹だけではない。この街の住人からも、ことある事に依頼を受けてきた。家の排水溝の掃除、屋根の修理、庭の草むしり、飼い猫の捜索など、他の餓鬼狩り(ハンター)が嫌がる仕事も、率先して請け負っていたのだ。

 そんなことをしていたばかりか、この街に俺を知らぬ者は居ないというほど知れ渡ってしまっていた。

 

 こんなところで死ねない。

 まだ街の脅威は過ぎ去っていないのだから。

 

 俺の思いとは裏腹に、瞼が段々と重くなっていく。


「よう持ちこたえてくれたの人間。あとは我が相手する。安心して眠るが良い」


 

 突然の声に驚き、重い瞼を無理やりこじ開けるとそこには、全身血に染まったような真っ赤な姿をした、小さな影が見えた。

 怪我をしているのか?目が霞んであまり良く見えない。認識できるのは、()()だと言うことと、()()ということだけ。


 それにしても妖精が発したような可憐な声に、傲岸不遜(ごうがんふそん)な言い回しが、なんだか不自然だと内心首を傾げた。

 

「…ぅ……ゴホッ……」

 

 だめだ。ここは戦場だ。子供が来るところでは無い……!

 

 そう伝えようとしたが、上手く言葉にならない。

 

 早く、ここから逃げるんだ……!

 

 しかし、俺の願いは叶わず、女児はここから全く離れない。

 そうこうしているうちに、大量の餓鬼が集まってきた。今にも女児に襲いかかろうと、牙や爪をギラりと輝かせる。

 

 危ないっ……!

 

 数体の餓鬼が動き出し、鋭い牙で鋭い爪で、女児のか弱い身体に傷を入れようとしている……!

 それらが身体に触れようとしたその刹那、餓鬼は一斉に四肢が別れ地面へと落ち、灰と化す。


 一体何が起こったというのか。瞬きすらしていないというのに、目の前で何が起きたのが全く理解できていない。

 

 残った餓鬼は、一歩後ずさりした。恐怖を感じないはずのあの餓鬼が、恐れを成したと言うのか。

 

「哀れな餓鬼(ヴァンパイア)達よ。我の手で終わらせてやる。安心して眠りたもう」

 

 俺たちを囲むようにいた数多の餓鬼は、瞬く間に灰となった。

 一瞬のことに何が何だか分からない。女児は一体何をしたのだろう?

 

 どちらにせよ、大事にならなくてよかったと俺はホッとした。

 女児は振り向き、俺の方へと向かってくる。なにか声が聞こえる気がするが、耳鳴りのせいで何を言っているのか少しも聞き取れなかった。


 

 正直もう限界である。重い瞼への抵抗を諦め、閉じゆく瞼に身を委ねる。



 

 瞼の隙間から最後に見えたものは、俺を覗き込む女児の燃えるような朱い瞳だった。


読んでくださりありがとうございます!

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