二日目
同じクラブに二回目ともなると、djとも顔馴染みであるし、そのお店にほとんど同じ客がいないことを分かってきた。その客の大部分は、観光目的で日本に来た外国人なのだ。
面白い。一晩だけの関係、一晩だけ蝶のように舞って、また別々な人生を歩んでいくのだ。
さすがに二回目なので、踊ることにも慣れ、回りを見る余裕ができた私は、つい、いつもの癖で人の真似をした。(私のような人間は日々、存在を稀薄にするために、皆の様子を観察して同じように行動している)
毎日やっていることなので、回りの人間に溶け込むのは速かった。まるで、もとからそこにいたかのように溶け込んだ私は、奇妙な体験をすることになった。
目の前に美形の女がやってきて、なにか言っている。クラブハウスは基本的に重低音が爆音で流れるため、人の声はほとんど聞こえなかった。
耳を近づけて聞き直すと
「一緒におどろう!」
と女は笑顔で言っていた。
私は日本人なので、ダンスと言えば体育祭で行ったフォークソングなる、おままごとが最後である。まさか、まさか、顔の良い女に、それこそ男に困っていなさそうな女に向こうから誘われることなど全く無かった。
緊張して喉が渇いた。
天井のミラーボールが赤いレーザー光線を反射して俺達二人以外を抹殺しようとしているみたい。
世界と音が遠退いて、まるで、世界が終わって様ったかのような妄想にとりつかれてしまった。
勿論ダンスはボロボロだった。誰かと踊った事がなかったのだ。それを笑うこともなく、彼女は一緒に来たらしい女の子に引っ張られて最前列まで行ってしまった。
誰かが酒をこぼしてベタベタする床みたいに、俺の心はすっかりとその一陣の風に持っていかれてしまったのだった。
次は別のクラブに行こうと思っていたけれど、もう少し、もう少しだけ通ってみたいと思った。