表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

誇りある悪役令嬢になりたい

作者: 華音♪

私は、生まれ変わったら悪役令嬢になりたい。

自分が自分であることに誇りを持って胸を張れる生き方がしたい。

迫り来るヘッドライトを見ながら、そう思ったー




「ふぁ・・・」

長い夢でも見ていたように目が覚めると、レースのカーテンの向こうに人の気配がした。


「!お嬢様!お目覚めですか?」

姉妹のように育った侍女モモイの声だ。


「すぐに奥様とお医者様を呼んでください!」

「お嬢様、痛い場所や不調は無いですか?」

心配そうに声をかけるモモイによると、私は3日間寝込んでいたらしい。


そうか・・・私は婚約者が他の令嬢と親しげにしているのを見て、逃げるように帰って来て、部屋に閉じこもったのだった。


私ユーカロッテはレッケンベル公爵家の一人娘だ。

一人娘である私は、婿養子になってくれる予定のジュノー侯爵家の三男、スウォーツ様と婚約していた。

相思相愛で仲睦まじい、とまでは行かなくても、お互い不満もない良好な関係だと思っていた。


しかし、長い夢ーではなく前世であると思い出したユーカロッテは、婚約者と自分の間に愛や信頼は無かったと気付いた。


前世のユーカロッテは、ゲームが好きだった。

と言っても、乙女ゲームではない。

転生系のラノベやマンガが流行っていたので、流行り物は見た程度の知識であり、ユーカロッテの前世、ユカはRPGゲームのプレイヤーだった。

モンスターなんかをバッタバッタ倒すようなゲームである。


ユカのやっていたゲームはプレイヤー同士でパーティーをくんでクエストやモンスター討伐を行うゲームで、

ユカにはいつもパーティーを組む、いわゆる相方がいた。

ユカのキャラクターは万能で人気な職ではなかった。

しかしユカは、攻撃が強いわけでもない、聖職者のような回復ができるわけでもない、他プレイヤーをささやかにサポートする職を気に入っていた。

遠距離攻撃職の相方となら何処へだって行けたし、いつだってユカを優勢してくれて、いつだってユカの望むようにしてくれた。

そんな彼にユカが好意を持つのはあっという間だった。


もちろんゲーム仲間で、実際に会ったこともない彼に本気で恋をしていたわけではないだろう。

しかし、いつしか次第に彼もユカの事を恋人のように扱い、恋人になれたら・・・と語った。


しかし、突如ゲームが出来なくなり、2人はサヨナラも言えずに連絡も取れなくなってしまった。

ユカは2週間泣いた後、なんとか連絡をとれないかと試行錯誤するも、実際会ったことも名前も知らない彼を探すのは難しかった。


不慮の事故であり、断じて失意の果てに迎えた最期ではない。

しかし、ユカは、彼と過ごしたゲームの中のように、自分らしく自分に自信を持って生きたいと、最期に願ったのだった。


前世のゲームである相方の彼のような信頼できる人と結ばれたいと願ったユーカロッテは、医師が「お嬢様の体調に問題は見当たりません」と告げて退出してから母に相談してみた。


「お母様、スウォーツ様の事なのですが・・・」

婿入り予定の婚約者が、学園で男爵令嬢と親しすぎるのは、既に母の耳にも入っていたようで

「娘を大事にしない婿を迎えるつもりはないわ」と言われてユーカロッテは安心した。

愛のない政略結婚という設定の転生物は多かった。

しかし、希望した(?)悪役令嬢のような展開である。

ユーカロッテは3日後から学園に復帰する予定を組んで、準備を始めることにした。


両親とも話し合い、ジュノー侯爵家とベインス男爵家へは抗議の手紙を送った。

そのため、5日ぶりに登校したユーカロッテの元に婚約者であるスウォーツがやってきた。

イズミール(ベインス男爵令嬢の事らしい)とはそういう関係ではないとか、実家の権力を使うなんてとかごちゃごちゃと言い訳していた。

どうやら家で父である侯爵に叱られたようだ。


しかし、2人は逢瀬をやめる気はないようで、親切を装った友人気取り達から目撃情報が入ってくる。


どうやらスウォーツは公爵家の人間になれるから婿入りはしたいようだ。

そしていずれは愛人になって贅沢したいイズミールもスウォーツと離れる気はないようだ。

学園内のテラスで同い年のアルデバラン公爵令嬢であるリョクリン様とお茶をしていると、中庭のベンチに2人がいるのが見えた。

リョクリン様のお兄様は第二王子殿下と同級生で幼馴染でもあるため、リョクリン様が第二王子殿下の婚約者になるのでは、と噂されている。

リョクリン様ご本人は否定されているが、第二王子であるコウハルト様と、リョクリン様のお兄様であるカヤート様がテラスにやって来た。


「ここ良いかな?」コウハルト殿下は、テラスには他に誰もいないし、テーブルは他にもあるのにリョクリン様の隣に座った。


ふと横を見ると、イズミール様と目があった気がした。

一瞬なので気の所為と思って気にしないことにした。


「いつもありがとうね」と言いながらカヤート様は私の横に座った。

イズミール様もスウォーツ様も見えなくなってちょっとホッとした。


いつも、という言葉が出るくらいに、コウハルト殿下とカヤート様は、私とリョクリン様の席へ来るのだ。

何度も言うが席は他にもあるのにだ。

そして、カヤート様はいつも「ごめん」ではなく「ありがとう」と言うのだ。


「こちらこそありがとうございます」というと、「ん〜?なにが?」とにこやかに返される。

カヤート様は入ってきた入り口側の席ではなく、中庭側のあいていた席に座られた。

スウォーツ様達が見えなくなる、そんな位置にいつだってカヤート様は来るのだ。

そして敢えて言ったり聞いたりはしないが、きっとこの方の優しさなのだ。

スマートで大人な対応に、素直に尊敬できる方だとユーカロッテは常々思っている。

「私の婚約者もこれくらい尊敬できる方だったら良かったのに・・・」カヤート様の優しさを感じると、ユーカロッテはいつもスウォーツ様が器の小さい人間に思うのです。


レッケンベル家が抗議しかしないのでだんだん強気になったのかスウォーツ様はイズミール様といる時間がどんどん増えているようです。

学園でも、街でも腕を組んで歩く様子が頻繁に見られ、遂には学園のパーティーでエスコートするようになりました。


学生は王宮の夜会などには行きませんので、国を挙げた行事等の日は学園内のホールで昼間にパーティーが行われます。

今回の建国パーティーにもきっとスウォーツ様はイズミール様を伴うでしょう。

私は学園に許可を取り、レッケンベル公爵である父と、

ジュノー侯爵を招待いたしました。


学園でのパーティーは貴族としての学業の一環ですので、

主催も持ち回りなのですが

今回の主催はコウハルト殿下のクラスだったようで、コウハルト殿下がステージでご挨拶されています。

「今回のパーティーは、みなさんの学びを披露すべく・・・ゲストをお迎え致しました!」

殿下がおっしゃるとなんと保護者の皆様が続々といらっしゃいました。

私達の父親だけではなく、多くの生徒のご両親がいらっしゃったようです。

「あなた方のご両親だけでは目立つでしょう?辺境伯など来られなかった遠方の方もいらっしゃるけどね」と隣でカヤート様がおっしゃるのでびっくりしてしまいました。

そんなカヤート様の向こうでは、床に頭を擦り付けるベインス男爵と、ジュノー侯爵に怒られているスウォーツ様がチラッと見え、もっと驚ました。


このパーティーがキッカケになり、ユーカロッテとスウォーツ様の婚約はジュノー侯爵家側の有責で破棄となりました。

スウォーツ様は三男ですので侯爵家を継ぐ事はできませんから、ベインス男爵家へ婿へ行くか、平民になるのでしょうか。


スウォーツ様が侯爵に謹慎させられて平和な学園のテラスで、いつものようにリョクリン様とお茶をしていると、いつものようにコウハルト殿下とカヤート様がやってきました。

いつものように「ここ良いかな?」と言って座るコウハルト殿下。

しかし、入り口側で立ち止まって動かないカヤート様。

ユーカロッテが「座られないのですか?」と尋ねようとすると、コウハルト殿下とリョクリン様がそっと立ち上がってテラスを後にされました。

ユーカロッテが困惑していると、カヤート様は向かいの席に座られました。

いつも隣に座るのに向かい合って2人きりで座るのは初めてだし不思議な気分。

でもユーカロッテはなんだか懐かしい気持ちもするのです。

「カヤート様、大好き!」とユーカロッテが言うと

「しってる」とカヤート様が笑います。

その返しにユーカロッテは何も聞かなくても幸せな気持ちになりました。


しかし、驚く事はそこで終わりませんでした。

たとえ想いが通じ合っても、カヤート様はアルデバラン公爵家の跡取りのはずです。

しかし、アルデバラン公爵家はリョクリン様と婿入りするコウハルト殿下が継ぐのでカヤート様はレッケンベル公爵家に婿入りしてくれると、既に双方の公爵家と王家の間で話はついてると言うのです。

「カヤート様愛してる!」

「俺も愛してます」


悪役令嬢にはなれなかったけど、ユーカロッテは公爵令嬢として、公爵夫人として、誇りを持って、そしてそんな自分がやっぱり気に入っているのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ