この名前で売れます
僕は小説家を志望している高校生だ。
僕には想像力という強力な武器がある。想像力だけは、誰にも負けない自信がある。それ以外はまずまずだが……。
僕はその強靭な想像力を活かして、小説家になることを決意した。しかし急に小説を投稿しても注目されないのではないかと予想した僕は、僕の小説を少しでも多くの人に見てもらえるようにするために、僕の小説の布教活動をすることにした。
最初に友達に僕の小説を布教した。
「小説? え? 何? お前小説始めるの?」
「うん!」
「マジか……」
「絶対に成功させるから! あ、これ僕の芸名!」
僕はポケットから僕の芸名と小説投稿サイトの名前を書いた紙切れを取り出し、友達に見せた。
「ふーん……これがお前の芸名……」
「ああ……僕ね……この名前で売れるから」
「まあ……頑張れよ……投稿されたら読んでやるからさ」
「ありがとう!」
次に僕は担任の先生に僕の小説を布教した。
「え!? 小説始めるのか!?」
「はい!」
「難しくないか? 小説だぞ?」
「大丈夫です! 僕には、強靭な想像力がありますから!」
「そうか……なんか……ペンネームみたいなのはあるのか?」
「あ! ありますよ! えっと……これです!」
僕はポケットから僕の芸名と小説投稿サイトの名前を書いた紙切れを取り出し、先生に見せた。
「ふむふむ……まあ悪くないんじゃないのかな? なんか上から目線で喋っちゃってるけど……」
「僕……この名前で売れますから! 期待しておいてくださいね!」
「うん、読むわ! 頑張れよ!」
次に僕は彼女に僕の小説を布教した。
「小説? いよいよ始めるの?」
「うん!」
「私は正直食べていけないんじゃないかなあ……って思っているよ?」
「大丈夫! 僕には、誰にも負けない想像力という武器を持っているから!」
「本当に……大丈夫なの?」
「大丈夫だって! 心配しなくていいよ!」
「……分かった」
「あ! これ、俺の芸名!」
僕はポケットから僕の芸名と小説投稿サイトの名前を書いた紙切れを取り出し、彼女に見せた。
「これが君の芸名なの?」
「うん! 僕、この名前で売れるから!」
「……頑張ってね」
想像以上に皆僕が小説を書くことに期待を抱いてくれた。
その後も人と話す機会があれば速攻で僕の小説と僕の小説を投稿して行く小説投稿サイトを布教した。
私は小説家を志望している高校生だ。
ただ、勇気が無くて、まだ小説は投稿していない。
考え過ぎてしまうのだ。
酷評されたら……人気が出なかったら……考え出したら本当に止まらない。
しかしこのまま私が表に出ないのも何だか落ち着かない。
もしかしたら、誰かが私の小説とほぼ同じ内容の小説を投稿してしまうかもしれない。
私は葛藤した。そして今日、その葛藤に決着をつける。
勇気を振り絞って、小説を投稿した。
驚愕した。
私の小説は、想像を遥かに上回る注目を浴びた。
日に日にリピーターが増えていき、人気もどんどん上がって行った。
良かった……最初から自分の腕を信じていれば良かったんだ……。
布教を始めてから、もうすぐで一ヶ月が経過する。
僕は小説投稿サイトに僕が前々から決めていた芸名でアカウントを作ろうとした。
しかし何故か画面が進まない。それどころか画面に小さな赤い文字が出てきた。
『※この名前は既に使われています。他の名前を入力して下さい』
油断していた。
僕が利用しようとしていた小説投稿サイトは、他と同じ名前を投稿することが出来ないようになっているのだ。
放心状態になっていると、僕のスマートフォンに友達や彼女からメッセージが届いた。
『小説読んだよ。お前才能あるじゃん。人気も出しやがって。これからも読むわ』
『小説読んだわ。凄い面白いよ! 人気も出てるみたいじゃない! これからも頑張って!』
恐らく皆は、僕の布教した芸名と同じ芸名の小説家が書いた小説を読んでいる。
僕は涙目になりながら皆にこう返した。
『ごめん……それ……僕じゃない……』