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前編

 身分違いの恋は障害も大きくてロマンスたっぷり。胸がときめくたびに、世界もキラキラして見えて、幸せな気分になるの。

恋の微熱に浮かされながら、そんなことを考えているのはとある王国の第三王女だ。見目麗しいが平民からの成り上がりの騎士にこれでもかというほど熱を上げて、周囲の反対を押し切って王女は彼と結ばれた。

 けれど、と言うべきか、やはりと言ったところか。身分の差がありすぎたからか、王女と騎士の仲は次第に冷え切ったものになっていった。王女に対する劣等感と彼女に見合うために実力以上の権力を与えられた騎士の性格が歪んでいったことも原因の一つだろう。

 その死の間際、王女は願った。

「次は、平民の子に生まれたい。」


 彼女がとある王国の第三王女の生まれ変わりなのだと唐突に気付いたのは、第二の人生も終盤に差し掛かった頃だった。

 彼女は前世の最期で願った通り、この時代この国では極々平均的な市民の家庭の子として生まれ育ってきた。そうして今は豪商の本家の主人と結婚していた。前世のような身分違いの恋の果ての婚姻ではないが、普通の市民の娘と王室御用達として代々商いを続けてきた商家の息子とでは価値観の違いは明確にあった。前世の絶望的な身分さではない以上、謙虚さと努力さえできれば家族間の人間関係を今より良くできた可能性があった。

 何の因果か、前世を思い出す前の彼女には生来のものなのかどこか傲慢で我儘なところがあった。そうして、それを前世の記憶が助長した。

 そうして反省という言葉を身に着けぬまま、彼女はその死の間際に神に願った。

「また生まれ変われるなら、私と釣り合う人と出会えますように。」

どんな身分でもいいから、どうか神様、と。


 次に自分が何者だったのか気付いた時、彼女はとても貧しかった。貧しい農村のとある家族の末っ子として生まれ、実家と同じくらいの収入の家の息子と一緒になっていた。価値観は一緒であったが、貧しくて貧しくて、心まで冷え切っていたせいか夫婦間の諍いも絶えないような毎日だった。

 爪に火を点すような生活の中である日突然、前世とその前の一生を思い出した。死ぬ間際はどちらも不幸だったと彼女は感じていたが、少なくとも若い頃は幸せだった前世と前々世に今の惨状はとても堪えた。

「どうしてこんなことに‼」

農作業を放り投げて、彼女はヒステリックに叫んだ。そのまましゃがみこんだ彼女はおいおいと嘆き悲しんだ。周りの目などどうでも良かった。

「神様、私はただ幸せになりたかった! どうしてそれが叶わないのですか⁉」

涙を流して彼女は天を仰いだ。

 そのまま今世だけでなく晩年は不幸だったと前世と前々世の分の恨み言を彼女は滔々と天に向かって吐き出し続けた。彼女の家族たちは気でも触れたのかと慌てふためくだけだった。


「う、ぐぅ、い、いだいぃ!」

悲鳴のような声を上げて彼女は呻きだした。今まで味わったことがないほどの頭痛が彼女を襲ったのだ。痛みで朦朧とする中、稲妻のように過去の映像が浮かんでは消えていく。


「あ、ああ、そうだ、あたし。」

日本人だった。

 毒親に育てられて、やっと親から離れられるかと思ったら就職先はブラック企業で、過労で倒れて、そうして。

 大好きだった乙女ゲームのヒロインに転生したんだった。なんで転生したか分からなかったけど、一番好きだったゲームのヒロインに成れて凄く嬉しかった。前世の記憶を利用してゲームになかった逆ハーエンドにして、そうして。


「やあ、サヨさん。こうしてお会いするのは初めてですね。」

不意に声を掛けられ、彼女はその声がした方に視線を向ける。頭痛はいつの間にか治まっていた。

「あなたは? どうしてあたしの、一番古い名前を知っているの?」

「私は、君たちの言う神とか仏とか言う存在かな? そうして君を転生させたのも私だ。」

白い衣をまとった、壮年の男性は穏やかな口調で、彼女…サヨに答えた。

「ヒロインの後の生まれ変わりも、あなたが?」

「そうなるね。」

「なんで⁉ どうしてあんな! あたしヒロインだったのに!」

サヨは神に詰め寄った。


 そう。サヨは最初の転生でヒロインとしてこの世界に生まれた後、前世知識を利用して逆ハーエンドを迎えていた。が、前世知識が利用できたのは、所謂悪役令嬢を追放したところまでだった。

 ゲームの世界が始まる前の時間軸からいろいろなイレギュラー行動を起こしていたこともあって、少しずつ攻略対象や悪役令嬢たちの性格や行動にずれが生じ始めていると認識したサヨは、ゲームのイベントを再現するために裏で動いた。結果、悪役令嬢は濡れ衣も含めた罪状で国外通報されることになった。

 その後、攻略対象にちやほやされて、王子妃になる未来を予想していたサヨだったが少しずつ歯車が狂い始めたのか、一人、また一人と攻略対象はサヨから離れていった。まるで夢から覚めたように。

 そうしてサヨの裏工作が明るみに出て、断罪されることになったのだった。


「君はやりすぎたんだよ。分かるだろう?」

神は静かにサヨに答えた。

「だってだって! せっかくヒロインに生まれ変わったのに!」

「…君は、サヨとしての生から今世も含めると相当な年数を生きてきた。それでも、それが君の主張なのかい?」

「アンタ、ほんとに神なの? あたしのこと、バカにしてるの⁉」

みんなして、あたしをバカにして! と叫んだサヨは頭をかきむしる。


「…ふむ。失敗であったか。」

神は顎を摩りながら呟いた。

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