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第七話 お前、もうそっちが素だろ

 

「あ?何言ってやがる」


 まじで何言ってんだコイツ?人様をそんな指で差しやがって。一体なにに気づいてないって―――俺の首を指さしてる?


 なんとなく女の指す場所を追うように、首に手を添える。宙を切って首に触れるはずだった右手に、尖った()()の感触を感じた。


「ッッ!!」


 一瞬で血の気が引くのを感じつつ、バッ!とそこにあるはずのなかった物を見やる。


「は、針?」


 他に例えるなら刃だけの小さなナイフ。確かなのは、ペンほどのサイズのそれが、宙に浮いて俺の首筋を狙う凶器だってことだ。


「ギルドマスターなんかやってると、私を狙う輩がいるにはいてね。この部屋に初めて入る者には、入った瞬間から保険をかけているんだ」


 入った瞬間から、だと?違和感も何も無かった……


 ずっと命を握られていたという実感が沸き、冷や汗をかきながら、目の前の得体の知れなくなった女を戦慄する。


 俺の戦慄の目に満足したのか、セリヒが指をパチンと鳴らすと首元の針は霧散した。


 完全に消えたことで少し肩の力が抜け、ふと後ろを振り返ると、案の定ゲイルが顔を青くしていた。ケターシャはというと……してやったり、という風に死ぬほどムカつく面してやがる!


「さて、認識は改まったかな?」


 ケターシャ程ではないが、ニヤニヤしながら俺を見つめるセリヒ。彼女が俺に求める答えは明白なわけで、


 あーもうわかったわかった!俺の負けだ!


「……ガキだなんて言ったのは訂正する。アンタは立派なここのトップだよ。……すまなかった」


「ふふっ。よろしい」


 ゲイルが俺に戦慄の眼差しを向けているのが、背中越しにもわかった。俺だって、謝罪くらいするんだが?


「丁度君たちにうってつけの仕事……クエストがあるんだけど、うけてくれるかい?」


「あぁ、もちろんだ。感謝する」


 俺の承諾の言葉に、彼女はうんうんと頷きながら、何か紙を取り出して簡単なサインをする。


「ほら、これを受付の子に渡せば、後は説明してくれるから」


 セリヒから差し出された紙を数歩前に出て受け取り、一礼する。


「ありがとう。じゃあ、またな、セリヒさん」


「私からも、こんな奴にわざわざありがとうございます」


「うん!じゃあ気をつけてね」


 ひらひらと手を振って、書類仕事に手を付け出すセリヒを背に、俺達は部屋を後にした。


 扉を閉めると、扉は入った時と同じように変質をはじめ、やがて元通りの壁になった。


「……っはぁーなんかどっと疲れたな」


「見てて面白かったよ」


「お前なぁ!!マジでもうちょっと俺に教えておいても良かったんじゃねぇのか!?」


「ギルドマスターの事か?いや、教えたらつまらないかと思って」


 コイツのド畜生根性に、もはや尊敬の念すら湧いてくる。


 尊敬の念を込めて1発叩き込んでやりたいところだが、見ず知らずのこの地で仕事にありつけたのはこいつのおかげだ。


 だから握った拳はゆっくりと下ろし、ずっと気になっていたことを尋ねた。


「あれが魔法ってやつなのか?あんなの対処できなさそうに思えるんだが……」


「あぁ、アレは魔法じゃない。魔法ってのは大抵口頭での呪文や道具を使ったりするから、見れば分かる」


「じゃあ一体なんなんだ?」


「そうだな、私がアンタらの拘束を破るのに使ったのが同じだ。そんなに使い手が多いわけじゃないから安心していい」


「「結局なんなんだよ……!!」」


 面倒くさいのか話したくないのか分からないが、とにかくこれ以上問い詰めても意味のない気がした。


「そういえば……ゲイルお前居たんだな」


 声がハモったことで、セリヒの前では全く発言していなかったゲイルの存在を思い出す。


「うるせぇなあ!あんな化け物相手に気軽に話せるのがおかしいんだよ!」


 命を握られていたことを思い出したのか、両腕をさすりながら怒鳴るゲイル。


 俺とゲイルのやり取りを見て、もうこっちが素なんだろうなと思わせる顔で面白そうに言う。


「そういえば、アンタ達を狙ってた刃はただの刃じゃなくてな。少しでも切先が刺されば、その箇所が爆散する仕様なんだ」


「「……」」


 受付からほとんど歩かない行き止まりだったから、少し喋っているうちに野朗共を置いてきた場所に戻ってくる。


 別に動かずに待てとは言ってなかったから、そこに野郎共の姿はなかった。


 あれ?アイツらどこ行った?ああ、確か酒場っぽい所に行ってたな


「「「〜〜っ!!〜〜!!!」」」


 明らかにさっき通った時より賑やかに、いや、騒がしくなっている酒場。何がどうあっても野朗共はあそこだと確信しつつ、ため息と頭を掻く動作をセットにして近づいていく。


 ったく面倒くせぇなぁ。一気飲み、飲み比べでもしてんのか?やけに盛り上がってるから、外野は賭けでもしてんだろう。


 1つのテーブルを囲って、ちょっとした人だかりが出来ている。ゲイルとケターシャは待たせて、俺はその集団に入って行く。


 その中心にいる奴を覗きこむと、ブロッコリーみてぇな頭で右目を眼帯で覆った屈強な男が、一気に飲み干したジョッキをテーブルに叩きつけていた。


「〜〜〜っプハァ!!あーったく、昼間っから飲む酒はうめぇな!!」


 卓上には既に飲み干された様子のジョッキがいくつも並んでいる。酒をうまいと言える範囲を超えていそうなんだが……周りの様子からコイツが賭けの本命らしい。


 金があれば俺も乱入して勝負してぇ所だが、あいにく今は持ち合わせがない。


 当たり前だが、金がねぇと不便なことだらけだな。折角仕事にもありつけたんだ、さっさと稼ぎに行きてぇ


 そんなことを思いながら、もう誰だか分かっている、ブロッコリーの向かいに座る奴へと意識を向ける。


 赤い長髪に美しい金眼の女―――アインが、頬を紅潮させ、男よりは控えめに、だが確かに飲み進めていた。


 両手でジョッキを持ち、コクコクと喉を鳴らす様は不覚にも可愛らしいと思ったが(ユートに口を滑ったら殺される)、ブロッコリーと同じく、彼女の前に並んだ空のジョッキの数は可愛らしくねぇ。


「最初挑んできた時は調子こいたただのガキかと思ったが……意外とやるな!!嬢ちゃん!!」


「あなたも、なかなか」


 アインから挑んだんかい!!


 アイツ金はどうするつもりなんだ?まあ、今更止めたところで金は払わされるだろうし、何より周りからしたら興ざめもいいところだ。


 2人を取り巻く群衆の中に、しっかり野朗共が混じっているのを確認して、アインが潰れたらまかせるとサインを送る。


 野朗共から了解のサインが帰ってきた所で、アインが飲んでいるのに側にいない=潰れている、ユートを探す。


 周囲を一瞥すると、端っこでうずくまっているユートを発見する。近づいてみると……ゲッ、コイツ寝息たててやがる。


「おーいユートぉ、起きろー」


 揺さぶりながら声をかけるも、完全に出来上がって起きる気のしないユート。


「お前は酒豪(アイン)と違って下戸なんだから飲むなよな!」


 うちで死ぬほど飲む奴はアインの他にトードがいるが、アイツは腹へって動けねぇとかなんとかで留守番だ。逆に飲めねぇのはコイツくらい。


 ブツクサ文句は言いつつも、放っておけねぇからしっかり背負って、一旦待たせていたゲイルとケターシャの所に戻る。


「あの分だとまだ長引きそうだから、先に受付済ましとこうぜ。おらゲイル、なにボケッとしてんだ、代われ」


「へいへい。アイツら俺がいねぇ間に楽しみやがってッ」


 未だ喧騒とした声が聞こえてくる方を羨ましそうに見つめながら、ゲイルはユートを受けとる。


 荷物を押し付け俺が早速受付に行こうとすると、ケターシャが待ったをかけた。


「待て、もう渡して説明も聞いてきた」


「はぁぁあ!?テメェいつの間に!!」


 セリヒからうけとった紙をしまった場所をまさぐるが、確かにねぇ!!


「アンタがまた受付(シェリー)で遊ぶのが目に見えていたからな」


「ケッ、余計なお世話だ!!……それで、内容は?」


「まさにアンタらにピッタリ、クラーミアン海域の調査、だとさ」


 へぇ?聞く感じ、船を持ってる俺たちにうってつけってわけか。しかし調査ね、そういうのは普段の海域に詳しい漁師にでも頼むもんじゃねーのか。知らねーけど。


「調査っつっても具体的に何を調べるんだ?」


「そこら辺は向かいながら話す」


「話すのが手間なら俺に受付させろよ……」


 ていうかコイツ俺らと一緒に来るんだな、仕事を紹介して終わりの関係だと思ってたんだが。いる分には困らないから連れていくけど。


 向かいながらと言ったから、もうここ(ギルド)からは撤収しようかと野郎共を回収しに向かう。


「お、勝負ついたみてぇだな。勝ったのは……アインか。あのウワバミめ」


 歓喜2割、絶望8割ってとこか。賭けの結果が決したことで、勝負師達の思い思いの声が聞こえてくる。


 勢い良く立ち上がったブロッコリーが、口を押さえながら便所にトルネイドしに行った所で、残ったアインを取り巻く群衆は散り散りになった。


「おらお前ら、話つけてきたぞ。金は一体どうした?まさかこれからバックレるってことは……」


 さすがにあのセリヒがトップにいるギルドから食い逃げはしたくないんだが。


 こいつらのことだから、割と心配していると、野郎共はフッフッフッと一同笑い出す。


「さっきの男の人、全額負担」


 と、サムズアップするドヤ顔のアイン。なるほど、さっきの飲み比べはそういうことか。……いやそれ負けたらノープランだったんじゃねーか!?


 ……勝ったもんはいーか。


「うし、じゃあギルド出るぞー、潰れた奴は引きずってでも連れてこい」


「「「アイアイサー」」」


 コイツら完全に宴会終わりの雰囲気だな。朝一でここ来たからまだ昼だぞ?ここがバーみたいだからって雰囲気に流されやがって。


 俺らみたいなのから酒代を毟り取るセリヒの策略かもなと笑いつつ、俺達はギルドを出て港へと直行する。


 眩しい太陽に目を細めながら歩いていると、なにやら騒がしい声が、ギルドの方から追いかけてくる。


「そこのアンタ達ーー!!待ってくれーー!!」


 誰かと思えば、さっきのブロッコリーが手を振りながら走りよってくるじゃねーか。


 息を切らしながら辿り着いたそいつに、内心驚愕する。


 あんだけ飲んでたくせに走ってきやがった!どんな酒豪でもそれだけ動けば酔いも回るだろーに。


「なんだ?ブロッk、んんッ!……俺達に何か―――」


「俺も連れていってくれ!!」

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