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第六話 ふふっ。……誰がガキだって?

「……!!なんだぁ?こりゃあよ」


 俺は妙に小洒落れた扉を開くと、驚愕で声を失った。あまりに現実味のないものがそこにはあったのだ。

 

 ……まぁ現実味の無いもの何てここ最近じゃ珍しくもねぇか。それにしてもこれはすげぇっ!!


「どうしたんだよキャプテン?さっさと入ろうぜっ」


 扉を開けた途端に硬直した俺に見かねたのか、()()に瞬殺された最近大人しいゲイルさん(笑)が俺を蹴飛ばしやがる。


 普段なら即刻顔面に新しいタトゥーでも刻んでやったところだが、俺はそれよりもこの感動を共有してぇ気持ちでいっぱいだった。


「ってぇなこのハゲがッ。……まぁいい、おら」


 思いっきり睨み付けたあと、屋内へと顎をしゃくってみせると、ゲイルはあからさまに目の色を変えた。


 俺に続いたゲイルの様子に、野郎共がもう待ちきれねぇ!といった感じでゾロゾロと入ってくる。


「「おぉ!!」」


 野郎共は揃いも揃って同じような反応をした。それもそのはず、このギルドと言う場所があまりにも神秘的すぎるからだ。


 壁や床、天井までもが、蝋燭やシャンデリアがついてるわけでもねぇのにキラキラと宝石のように輝いているやがる。


 青白いとも、薄い紫とも言える光の満ちるこの空間に俺らは目を奪われた。


 そんな俺たちの中で一人だけニヤケ面の女が口を開く。


「きれいだろ?ここを初めて訪れたものは皆決まってそんな反応をする」


「あぁ、きれいだ……っていうここが本当にお前の言う冒険者ギルドなのか?命を懸けた仕事をこなす荒くれ共ってのが、こんな小洒落たバーみてぇな場所に集まるとは思えねぇんだが」


 壁や床の素材にはよく見ると木目があり、この建物が謎に発光する木材で出来ていると分かった。


 受付と思わしき場所の奥に椅子とテーブルが構えてあるのが見える。どうやら皆同じ素材で出来ているようだ。


 あっ、ちょっと待て。()()()()なイカツイおっさん達が真っ昼間から飲んでやがる。いや、完全にバーみてぇだから、端から見ればただのかみさんから逃げて飲んでる親父だな。


「ギルドマスター、今からアンタらが話をつけようとしてるここ(ギルド)のトップの趣味でね。ここは酒も飯も安いから向こうの男達みたいなのは日常茶飯事さ」


「やっぱただのバーじゃねぇか……」


「あ、あのっ」


「?」


 もしかしたら今から会うギルドマスターとやらは面倒くさい相手なんじゃねぇかと身構えていると、たくさん書類を抱えた桃色の髪をした若い女が話しかけてくる。


「は、初めて冒険者ギルドに来られた方々でしょうか?」


「あ?俺達を一度でも見たなら絶対に忘れないはずなんだけどなぁ――」


「おっと、すまないシェリー、コイツ達が例の助っ人だ」


 明らかにビビってる女が面白くて、少し高圧的な態度をとってみると、スッとケターシャが俺と女の間に入る。


 額に青筋がチラリと見えたのはきっと気のせいだろう。シェリーとか言う女に向き合う笑顔が素敵だ。


「あ、そうでしたか。失礼しました!ではご案内しますね」


 もうケターシャが結構手順を整えてくれているようだ。シェリーはパタパタとどこかへと案内し始める。


「……可愛い娘だな」


「うぉっ!」


 ニュッと肩の後ろから生えてきたゲイルが、銃を構えたと錯覚させる目つきでシェリーを捉える。


 あぁ、ちなみにさっきまでこの空間に目を奪われてた野郎共は、金もねぇ癖に飯と酒を出している所に行っちまった。ここに入る前にケターシャに散々注意されてたから、多分騒ぎは起こすまい。


「お前の女好きは知ってるがもうちょい情報が集まるまでは大人しくしてろ?……(ロリコンがッ)」


「へいへい……何か言ったか?」


「ほら!行くぞ!見ろよケターシャが悪霊の如くだ!」


 そろそろ本当にケターシャの無言の圧が怖かったから話を強引にそらし、シェリーの案内に従う。


「それで?ケターシャ。俺達はそのギルドマスターと話すときどうしてればいいんだ?」


「……いつも通りにしてればいい。気に入ったら任せたい仕事があるとのことだ」


「気に入ったらって……ハードル高そうだなぁ……」


「まぁ大丈夫だろ。ギルド職員を脅したりしない限りは」


 ギンッとケターシャから送られた鋭い視線に、内臓がキュッとする。


 別に脅したわけじゃねぇんだが……遊んだのは確かだけど。


「こちらです」


「あ?ここか、階段ならあっちだぞ?」


 ほとんど移動しないうちに、シェリーは行き止まりの壁で足を止める。


 あれだけデカイ建物だったんだ。この場所のトップというからには一番上にいるもんなんじゃねえのか?


 それをわかっていたからゲイル以外の野郎共は堅苦しくなさそうで楽しそうな所へ行ったのだ。


 そう思ったのも束の間、シェリーが壁に近付きコンコンと二度叩くと、壁の木材は瞬く間にその形を変質させ、扉へと姿を変えた。


「…………ハハッ。これも魔法ってやつか?」


「……では」


 シェリーは一礼すると、そそくさとたいして遠くない受付へ戻っていった。


 ………っふう、よし!覚悟を決めろ!大丈夫、ミスってもなんとかなる。


 軽く深呼吸をし自分を鼓舞してからケターシャ、ゲイルと顔を見合わせ、同時に頷く。


「「「失礼します(するぜ)」」」


 いつも通りに――言われた事をそのままに、俺は尊敬も萎縮もしない普段の態度で入室した。


「お!君がウェイブス君かい?」


 凛としていてハッキリとした声が、なんとなく耳に馴染んだ。


 艶のある紫色の長髪に、エメラルドみてぇな瞳、貴族が着るような漆黒のコートに身を包んだ、二十歳行かないくらいのまだ幼さの残る女。


 どっかの貴族のお嬢様ってとこか?想像してたイカついのとは正反対だなぁ、おい。


 ワンチャン俺の後ろにいるハゲに、どストレートなくらいの見た目の女。正直少し拍子抜けだ。


 書類仕事でもしていたのだろう。俺達が部屋に入るのに気づくと、彼女は羽ペンを卓上に置いて、にこやかに微笑んだ。


「ふむ、あの勇者を倒したって聞いてるんだけど……ごめん、人違いだったかな?」


 彼女は細い指を顎に添え不思議そうに俺を見つめると、言外に、俺は勇者を倒したにしては弱そうだから人違い?と言いやがる。


 ……言ってくれるじゃねぇか。


「いいや、俺がウェイブスだ。冒険者になりにきた」


「ふふっ、からかっただけだよ。えっと、海賊業をしていて、船員も含めうちで働きたいんだったね?いいよ、君が船長なら大丈夫そうだ」


 ほとんど話さないうちに俺の何がわかったと言うのか、簡単にOKを出すギルドマスター。こんな簡単に話が進んでいいのかと流石に疑う。


 そういえばコイツまだ名乗ってねぇぞ。俺を試すために、本物のギルドマスターが寄越した奴なんじゃねぇか?


「おや、簡単に決まって拍子抜けかい?」


 俺の考えを見抜いた――いやちがう、顔に出てたな。


「あぁ。もしかしたらアンタは、ギルドマスターではないんじゃねぇかと思ってな」


「は?」


 女は目をパチクリとさせ、一拍空けて吹き出した。


 何が可笑しいのか、机に突っ伏して盛大にツボっている女。ブチッと来て堪えきれなかった俺は、愛剣を抜こうと鞘に手をのばす。


 実に反射的な行動だったのだが、ゲイルとケターシャはまるで知っていたかのように俺を押さえ込みにかかる。


「止めんなお前ら!!俺はこういうナメた態度のガキが一番気にくわねぇんだよ!!」


「いいから落ち着けこのアホタレ!!」


 暴れる俺達の前で、ようやくツボが引いたらしい女が、ひーひー言いながら話し出す。


「いやぁごめん。なんせ私を知らない世間知らずなんて久しぶりで!自己紹介がまだだったね、私はセリヒ、ただのセリヒだ。ここ冒険者ギルドのギルドマスターをやっている。……ガキと言っていたけど、これで結構歳いってるよ?」


 年齢、見た目については気にしてるのか、最後の部分だけ、目がいささか鋭くなる。


 誰が世間知らずだぁ!?確かに俺はテメェを知らねぇが、こんな小娘がギルドマスターたぁ信じられねぇなあ!!


 ケターシャとゲイルの腕を振り解き、俺が返答に不満そうにしていると、一瞬何か考えて、セリヒはそうそう、と切り出した。


「君はいつになったら()()に気づくんだい?」


 彼女は不適に微笑み、ゆっくりと俺を指さした。

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