第四話 ジャンキーと食い意地ちゃんの後始末
ケターシャからの情報をまとめてみるとこうだ。まず今いる場所は海の都エルレイと言うらしい。
案内してくれた少女、ジアの情報通りだ。詳しく聴いてみると、タートレイ王国の南西に位置する有名な商都なのだとか。
もちろんタートレイという国を知っている奴は身内に一人も居らず、謎は深まるばかりだった。
次に、店内での出来事について聞いてみた。あの爆発は、悪酔いした冒険者?のダル絡みに耐えられなくなって彼女がやったらしい。
どうやって爆発を起こしたのか、あの音でなぜ被害がほぼ無かったかのか、聞いてみたが教えてくれなかった。
「……なにを言ってるの。自分のしたことを思いだして。ご飯を台無しにしただけじゃなく、犯行を隠すの?」
「……」
黙秘するケターシャに、爆発による被害(飯)について一番怒っていたアインが納得いかなそうにしていた。
「アイン、自分のしたことはお前も思いだしたほうがいいぞ」
「なぜっ!?」
呆れたゲイルの言葉に、ユートを除く俺ら全員が頷いた。
ついでに、今も目を覚まして暴れているやつが使っていた、不思議な力についても聞いてみた。
こっちは正直答えられないと思っていたが、魔法と呼ばれているらしい。魔法とは具体的にどんな事が出来るのか尋ねると、『本人の魔力と知識量次第であらゆる事象を起こすことが可能』と言われた。
それだけじゃ分かりにくかった俺達は、彼女に実演してもらおうかと思ったが、彼女は魔法が使えないそうだ。
結局自分達が知らない場所にいて、不思議な力はもっと不思議ということくらいしか分からなかった俺達。
自分達の置かれた状況に少しながら危機感を感じていると、不意にケターシャが口を開いた。
「……船長さん、アンタらどこから来たんだ?」
甲板に集まっていた奴等の視線がケターシャに寄せられる。
「ここいらじゃ有名な大国タートレイも知らず、魔法も初めて知った様な海賊がいたら、どこの田舎者なのか気になるだろ?」
「そうだな……俺達はスペインから来た。ヨーロッパだ、分かるか……?」
寄せられた食い入るような目と静寂で、野郎共が期待と緊張の入れ混じった複雑な心境にあるのが分かった。
今にも「頼む」「お願いだ」という声が聞こえてきそうだ。
「……いや、悪いが知らない」
明らかにガッカリした野郎共が顔を伏す。
かくいう俺もガッカリしているいが、予想できていたことだし、未知の土地で食料装備もなく一人、何てことも幼い頃にあった。
これ以上の質問は無意味だろう。ケターシャに青年の扱いもそうだが、これからの方針を決めていかないとなるまい。
「ユート、アイン、ちょっと来い―――」
―――
船長室に移動した俺達三人、いつもは幸せそうにイチャついてる2人も、さすがに暗い面持ちだ。
だが今はしっかりしてもらわないといけない。頼むぞ?俺の頼れる両腕さんらよ
「お前らの意見が聞きたい。これからの方針をどうするかだ」
「どうするもなにも……私達が海賊業を続けていくにはまず情報が必要。……幸い言葉は通じる、徹底的にこの辺りの常識を調べ尽くすべき」
もとから答えは決まっていたかのように即答するアイン。だがまだ結論を急ぐことはない
「ごもっともだが、俺らが海賊業を再開するまではどうする?三日三晩で情報収集が終えれると思えねぇ」
「食料が足りなくなるということかい?魚でも採っていればいいだろう。商都というくらいだ、海の幸も豊富さ」
「いいやダメだ。いつまでも自給自足の生活で賄っていける人数じゃねぇ」
「否定ばっかりだなぁ!少しは案をだしてみたらどうだい!?」
ユートの怒声に場がシーン……と静まり返る。ダメだ、どうしてもピリピリしちまう。
いっそ危険を承知で港の荷船を襲うか?エルレイを丸々敵にまわすことになるが、敵が俺達と大差ない人間だということを野郎共に教えてやれれば、十分海賊業でやっていける。……いや、でもまだ問題が―――
「―――お困りの様だ」
「!?てめぇっ」
拘束していたはずのケターシャが堂々と船長室に入ってきた。剣を抜く俺らにケターシャは待て、と手で示して見せる。
「野郎共はどうした?」
「今頃おねむだ」
「魔法は使えないんじゃなかったのか?」
「魔法はな」
チッと舌打ちする。全てを信じていたわけではないがどこか騙された気分だ。
荷物は全て没収したはずだが(拉致しといて理不尽とは思う)一体どうやった?
「……アンタら、仕事に当てがなくて困ってんだろ?私は結構顔が利く。私が紹介してやっても良いぞ」
「ハッ、罠に嵌める気だろ。何故いつでも逃げれたのに逃げなかった?」
そうだ、怪しすぎる。今に限らず逃げるタイミングなんていくらでもあったはずだ。
それに目にはアインへの敵意がこれでもかというほど映っている。
拉致した理由を聞かれたとき、正直に言ったのは流石にまずかったか?
「……逃げなかったんじゃない、逃げれなかったんだ。……あいつがいるからな。つくづく思うが、私はあんな風になるのはゴメンだ」
あいつ、と言われ一瞬誰だか分からなかったがあんな風、で今ではすっかり薬中の青年のことだと分かる。
「なるほど、取引ってことかいケターシャさん」
冷静さを取り戻し、ケターシャの言いたいことを予想するユート、ケターシャは無言で、へぇ、といった感じで頷いた。
ケターシャが喰えん女だということは一連の流れでわかった。だがユートや本人の口振りから、流石に今俺達を罠に嵌めるということはないのだろう。
俺としてはほかに手がないので了解の意を示そうとするが、ユートが目配せで、任せろという。
なにか良い策があるんだろう。さっきの取り乱した姿を忘れさせるような自信に満ちた目に、任せてみることにする。
「ケターシャさんは僕達に仕事を提供する代わりに、解放してほしい、ってことでいいのかな。でも僕達も貴重な情報源をあまり手放したくないんだ。魔法を使えない貴女でさえ、かなり厄介なんだからね。そこでどうだろう、貴女の仕事を僕達に無代で手伝わせてほしい。その過程で得られるものが僕達のメリットとなる」
「解放するのはいいが、定期的に接触しろってことか?随分欲張りなもんだ。でも私も今の自分の立場をわきまえている。よく分からない理由で拉致された私にメリットもあると……分かった。速く陸に上がらせてくれ」
根に持ってるな……当たり前か
「交渉成立だね」
貯蔵していた食料が尽きかけていた俺達は、本人の希望もあって、2日以内に戻るという条件付きで、その日の内にケターシャをエルレイに送り出した。
俺達がついていけなかったのは、仕事先に話をつけたり、自身の仕事があるからだとか。
2日以内に戻って来なかったから薬中を放つと言ってあるし、すぐ帰って来るだろう。
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