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第三話 エルレイっていうらしい

 無事に上陸し砂浜に船を泊めた俺達は、久しぶりの陸に歓喜していた。

 

 だが、容易く喜べないこともあったのだ。砂浜で一人で遊んでた子供を見つけ、ここが何処か聞いてみたところ、エルレイ、というらしい。


 俺達全員が知らなかったから、スペインのどこらへんなのか聞いてみると、


「すぺいんってどこー?」


だと。


 子供に話を聴き続けたところ、もう少し進んでいくと街があるそうだ。余計なトラブル防止のためにも、子供に案内してもらうことにした。


「なあ船長、おかしくねぇか?」


 俺達のなかでは取っ付きやすかったのか、ユートとじゃれ合いながら案内する子供。


 案内されるままついていっている中、ゲイルがおもむろに口を開く。


「あのガキ、俺達を見て全く怖がってねぇ。海賊を見た反応ってのは、もっと、こう、………違うじゃねぇか」


「ふむ」


 青年にやられた時のことをしっかり反省しているのか、かなり慎重になっている様子のゲイルの言葉に、確かにと頷く。


 確かにそれは俺も思っていたことだ。身長の近い(笑)ユートと楽しそうにしている姿からは、年相応のものを感じる。


 だがコイツは大人、というか戦闘になれている、これは絶対だ。武術を嗜んでいるのか、華奢な体とは裏腹に、細かい動作に隙、無駄がない。


 ふと子供の容姿に思考を向ける。歳はギリ十くらいか?そのくせ短い白髪で、瞳は赤い。シャツとズボンで分かりにくいが、多分女だ。


「普通かおかしいか聞かれたら……おかしいな」


「だろ」


「だけど気にするほどじゃねぇ。今から行く町じゃ普通かも知んねーぞ。……ああ、()()()()()かも知んねーな」


「……」


 考えても仕方がない事に悩んでいるゲイルと、未知の土地にすっかり馴染んではしゃぐ野朗共が対照的だ。


 子供……少女の案内先は思ったよりも近く、気づいたら到着していた。


 白髪に赤い瞳という姿の人間が溢れかえってるわけでもなく、町はどうってことなく普通。別に警戒するようなものでもない。露店が立ち並び、道を行く人々で活気のある町だ。

 

「……フ、フヒャヒャッ!」


 ……今では完全に目が逝ってるこの男の方が警戒対象だ。薬で完全に壊れちまった。定期的に薬やんねーと、血が出るまで喉掻きむしって、叫び散らかすんだよな、こいつ。


 俺が監視兼子守りをしている間も、見たことのない食べ物の並んだ露店に、はしゃいだ野朗共が「あの居酒屋を襲って酒奪おうぜ」とか騒ぎだす。


「ふっふ~。この街は気に入った?」


「おう、案内ありがとな」


「うん!じゃあボクはもう行くね!」


「ああ。……お前名前は?」


「フリージア、ジアでいいよ!じゃまたね!」


 そう言い残すと、やることでもあったのか、ジアは足早に去って行った。野郎共は気にも止めてないが……ジアか、また会ったらなにか助けてやろう。


「良く見ると可愛い子だな………」


「だまれ」


 いつになく目が鋭い、ハゲの頭をピシャリと叩き、これからどうしようかと考え出す。


「なあよ、あの店よ、騒がしくねえかよ?」


 俺が少し黙っていると、デブで上半身サラシ姿の男―――トードが、野郎共の騒いでいた居酒屋の方を指差す。


 トードの指差す先に、全員の視線が集まる。


 あ、おっさんがウエスタン扉を突き破って、店外に吹っ飛んだ。おっさんの様子を見れば、頭を打ったのか意識が朦朧としている感じだが、酒で酔ってはいないようだ。


 まともな姿だし、泥酔した客にマスターが悪絡みされたとか、その辺だろう。別に気にすることでも無い――


――ボンッ!!


「「ッ!」」


 居酒屋の中から聞こえた爆裂音に、野郎共の大半は身を伏せ、アインとユートは咄嗟に剣を抜いた。

 

 今の爆発はピストルの暴発とか、火薬に引火したとかそういうレベルの物ではなかったのだ。建物を崩す程の威力はあったはずだ。


 だというのに、店内はさっきまでの騒がしさがシン、と静まり返っているだけで、何か被害があるようには見えなかった。


「お前らッ!!」


「「「ッ」」」


 アインとユートの様にすぐ爆発に反応出来なかった奴にも、一声と視線で警戒するよう指示する。


 こんな町中でドンパチすることになるとは思わないが、警戒するに越したことはない。


 馴染みのない土地だが、賊や犯罪者を取り締まる団体くらい居るだろう。巻き込まれてはかまわない。


 全員に指示が通り、居酒屋の方面以外にも、個々目を光らせる。


 俺自身、怪しい奴がいないか周囲を一瞥する。だか俺は、一番身近の危険人物から意識を離してしまった。


『キャアッ!』


 全身を走りぬけた嫌な予感に、居酒屋の方を振り向く。爆裂音に集まってきた観衆を押し退けて、青年が店内に突撃する所を、目撃してしまう。


「……あのジャンキーまじでっ」


 ちょっとキャパオーバー気味で何をすれば良いかわからなくなった俺。居酒屋と、一緒に目撃したらしいゲイルに視線を左右させるも、他に誰も気付いてくれない。


 ど、どうする?もう放っておくか?いやでも、やつを生かすと言った俺が、逃がしたとなると、船長としての面目が立たねぇ。


もうこうなりゃヤケだ!俺も突撃しちゃうもんね!!


 決断した俺は野郎共のことをゲイルに任せ、愛剣らを抜いて居酒屋に駆け込む。


「グッ、ガッ……はっ、なせ……」


 店内では、机椅子が粉砕されて隅に退けてあり、青年はそのど真ん中で女の首を掴み上げていた。


 その周辺は女の抵抗の結果なのか、所々焦げていた。恐らく店内の爆裂音はこの女の仕業だろう。


 取り敢えず女が限界に見えた俺。いつも常用させていたものよりも、毒物多めの薬を背後から青年の首に打ち込む。


「グギャ!?ギャッ、ギャギャッ、ギャア……」


 ビクンッ!ビクンッ!と痙攣を繰り返したあと、床に倒れ込む。完全に意識が飛んでいることを確認したところで、喉を解放され、咽る女の側へと行く。


「おい、大丈夫か?」


「ガッ!ハッ、ハァ……た、助かっ――」


「――シッ」


「あ?」


 俺が手を差しのべ、女が手を取ろうとした瞬間、何者かが間に割り込んできて、女の頭を殴りとばした。


「おまっ、何やってんだよ……!!」


 女を気絶させたのは、俺に遅れて店に入ってきたユートの恋人―――アインだ。アインはさも当然かのように、


「むかついたから」


 と、店内に散らばる、引っくり返った飯や酒を指差す。


 ああご飯な!粗末にしちゃダメだよな!!この食い意地ちゃんめっ


「お前な……」


 多分この女が原因だけど、一応まだわかんねーだろ……


 冤罪かも知れないのに床に突っ伏した、哀れな女を見下ろす。知らない町で面倒事は勘弁してほしい。


……もう遅いか 


 同情する時間が惜しいため、至急青年の手足を、続々と中に入って来た野郎共に縛らせ、すぐにでも店を退散しようとする。


「お前ら!面倒なことになる前に………もうなってるけど!!一旦船に戻るぞ!」


「ちょっとまってキャプテン、アインがこの女も連れてくって……」


 振り向くと、遠慮がちなユートが、背後へと顎をしゃくって見せる。


 見れば、床に突っ伏した女をアインがせっせと縛っていた。


「なんでだよッ!!それこそ面倒……いや、もういいから早くしろ!!―――」


――


―――


「――ハァ~~~~……」


  帆の支柱に括り付けられた女を見て、思わず溜め息を吐いてしまう。


 わざわざこの女を連れてきたのは、この町やさっきの出来事についての情報を聞き出すためらしい。(アイン)


「……」


 そんなみつめられてもなぁ、可哀想だとは思うが。女は布で口を塞いでいるから、声を出して暴れたりはしない、ただ静かにジッと見つめてくる。


 ……もう一度女の容姿を見直してみる。目の色は金。髪の色はグレー、後ろで短く纏められている。


 肌は雪のように白く、全く日光に当たっていない不健康で、不気味な感じではなく、天性的なものを感じた。


 全体的に控えめな雰囲気で、物凄くアインに似ている。見つめられれば狼狽えてしまう様な、その黄金の瞳に、アインと同等の意思の強さを感じた。


 当の本人は自分を拉致しようと提案した人間と一緒にされたら癪だろうけどな(笑)


 女の容姿を見ていて、ふと気になったことがあった俺は、会話するため、女の口の布を外してやる。


「アンタ、名前は?」

「……ケターシャ」


 答えるまで若干の間があった。渋々答えたと言うよりは、何かを考えていた間だ。恐らく偽名、本名だったとしても、普段は名乗っていない名だろう。


 普通に呼び名がなくては不便だから聞いたんだが、全く信用されてないらしい。


 まぁ、拉致したのは事実だし、俺達は()()()()を連れているしな。


 よし、ここは俺のトークスキルで懐柔するとするか。


「そうか。ケターシャ、アンタ結婚してんだな。夫さんは良い人か?」


 彼女、ケターシャは左手の薬指に銀製の指輪をしていたのだ。


「……何が言いたい?」


「これから俺のする質問に答えなければ、運悪く夫さんが拐われちまうかもって、教えてやりてぇのさ」


「!」


 あ、悪い癖が……つい。世間話だけするつもりが。


 すぐ隣にいた、アインがムッとした顔をする。アインの横顔を見てつられたのか、ユートまでムッとしだすから堪ったもんじゃない。


「ハッ、船長さん、残念だが私にその手は効かないよ?夫は二年前に死んだ。二人いた子供なんか今何処に居るのか、生きているのかすら分からない」


「……」


 ほら~空気悪くなったじゃない、と言わんばかりのアインの無言の視線が痛い。


 意外にユートが助け船を出してくれた。


「そうなんだ、それはとても辛い出来事だっただろう。ただ、家族に手を出せなくなっただけで、情報を聞き出すために出来ることなんか、拷問でも何でもたくさんある。だから、今からする質問に素直に答えてくれると嬉しいな」


「……何が聞きたい」


 ナイスだユート!!さすが俺の部下、恋人と船長の行動はカバーするってか!


 そんなしょうもないことを考えつつ、野郎共と皆で優先順位の高い質問をまとめていくのであった。

読んでいただきありがとうございます!評価、ブックマーク頂けるとめっっっちゃ嬉しいです!!

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