第二話 そして北極星は消えた
大砲が用意されるまでの時間稼ぎに、俺は直接戦うことなくピストルのみで対応した。
疲弊した今の青年なら、アインとユートで前衛が務まると判断したのと、ロープの上から的確に指示を出すためだ。
「クソッ!バケモンが!」
中々有効打に欠けジリ貧の戦いに、一人が悪態を吐く。
目が馴れてきたのか、あるいはいつまでも殺せないことの焦りか、前衛が退いた後の弾幕は、青年に当たらなくなってきていた。
大砲が来るのは間に合うのか?大砲が間に合ったとして奴には効くのか?そんな疑問に思考を割けるほど、余裕が無いのが俺にとって救いだった。
意味があるのかさえ分からない時間稼ぎに、耐えられなくなった野郎共が気を抜いた瞬間、誤って接近を許してしまう。
「あっ」
一振りで数名が吹き飛び、包囲網が崩されたその瞬間、誰もが終わりを悟り、実際残り五名になるまでそう時間はかからなかった。
……もう、潮時なのかもしれな―――
――ドゴンッ!!
腹にまで響く爆音と共に、何をしても効かなかった青年が大きく吹っ飛ぶ。
細い糸のようだった光が、確かに掴み取れる希望へと変わり、そこから先は俺らに指示と言葉は必要なかった。
残った五人は全速力で三丁の大砲を勇者を囲うように配置につけ、同時に砲弾を射出する。
俺は目眩ましに船の帆を落とし、タイミングを見計らって、トドメを刺しにロープから飛び降りる。
奴に斬撃は効かない……、だが衝撃は通る。目眩ましで反応を遅れさせ、【何か】が頭に密着した状態で攻撃すれば、衝撃は直接頭に届き、気絶させれるはず!!勘だけどな!!
攻撃が届く範囲にまで落下して近づく。帆が身体に被さって、ジタバタもがいてる青年の頭部を、俺は的確に打ち抜く。
「シッ!」
カンッ、と少し剣先が弾かれたが、衝撃は加わったようで青年はグラッとよろける。
普通ならこれで十分に倒れる。だが一連の出来事で裂けた布越しで見える青年の瞳からは、まだ強い意思が感じられた。
「フハッ!」
こんなに楽しく闘ったのは久々だ!!お前最高だよっ!!
俺は両手から剣を捨て、空いた手で着地し、そのまま顎を蹴りあげた。
それがトドメとなり青年は意識を手放した……
――そして、今に至る。情報整理が完了次第、俺は青年にたらふく酒を飲ませた。
本来なら即刻殺すべきだが、何故かこいつを殺すのは惜しいと感じたのだ。
目を覚ました野郎共は青年を目にした途端、目が死に、そんな野郎共の反対を押しきって、結果的に五丁の大砲で囲んで眠らせ続け、見張り五人という形で落ち着いた。
それはそうと酒だけでは流石に起きかけたから、色んな薬をゴチャ混ぜしたのを直接腕に打ったら、ビクンッビクンッビクッ、ってヤベェ顔で痙攣して五秒くらいで静かになって焦った。
死にはしなかったが、ゴチャ混ぜした物のなかに、王家の暗殺に使われたと言われる劇薬も混ざっていたのを後で気づいて、こいつ毒でも死なないのかと皆で戦慄した。
――――――
「あ゛ーー暇だーー」
激しい死闘から三日。ずっとあてもなくただ流されている。それもそのはず、
「大体の現在地を計ろうとしても北極星はねぇし、コンパスは北を指さず回り続けるってどう言うことだよ!!」
青年と対峙してから、いつも通りに動くのは太陽くらいで、あとはめちゃくちゃだ。
風が常に一方向からしか吹いてこないし、舵をとらなくても何故か船が真っ直ぐ進むしで、もうメチャクチャなのだ。
意味不明なことの連続で溜まりに溜まった鬱憤を叫びにかえるが、全くスッキリしない。
「ったくうるさいなぁ。これ以上は海の底にでも行ってからにしてくれないかい?」
「テメェが俺の側を離れればいいだけの話だろーが!?」
酒樽に腰掛け、俺を睨む茶髪の青年―――ユートは更に続ける。
「久々に話かけられたかと思えば逆ギレかよ!?あと僕が船長に近いのは、船長がアインの顔を蹴るからだろう!?」
ユートが甲板で海を眺めている、暗めの赤い長髪が、金色の瞳と、落ち着いた雰囲気によく似合っている女性―――アインを指差して顔を真っ赤にする。
アインとこいつは恋仲だ。
俺がアインを蹴ったというのは、戦闘時のこと。あの時は少しでも手を抜いて蹴っていればお互い重症を負っていた。
それに直接顔を蹴ったわけじゃなく間に剣を挟んでいたし、蹴る以外じゃもうどちらかが犠牲になるしかないほど余裕のない状況だったのだ。
そのことで反論すると、
「じゃあ船長が死ねばよかっただろう!」
「ふざけた事抜かしてんてんじゃネェぞこの野郎!テメェが死―――ってアレ、なんだ……?」
もう少しで取っ組み合いになりそうな所で、俺はユートの背後に何か見えた気がして一旦目を凝らして見てみる。
その動作にユートも真似して同じ方向を睨み、何処か驚いた反応を見せる。その反応で自分が見たものが幻ではないと分かった俺は、最近ずっとマストに居る、包帯を巻いたゲイルに何が見えるか聞いてみる。
先日思いっきりやらかして、野郎共に冷たい目で見られていたゲイルは、やっぱり肩身の狭い思いをしていたらしい。
話しかけられるのも久しぶりなのか、少し目を輝かせて、よっこらせと立ち上がる。
「北東、三時の方角だ、何が見える?」
「…し……だ」
「大きな声で言ってくれ!」
「島だ、島だぜ船長!それもどうやら人が住んでいるらしい」
「「「ッ!!」」」
俺とゲイルのやり取りを聴いていた奴も、聴いていなかった奴も、島、と聞いて一斉に立ち上がった。
「野郎共ォ!上陸の準備だァ!」
「「「アイアイサー!!」」」
この船、「オポジットノア」は特別速い。あの島までは本当にすぐだろう。
普段は殺し合いくらいでくたびれる野郎共じゃないが、今は心身ともに疲れきっている、休息が必要だ。
今いるのがどこらへんで、あの島は何と呼ばれているのか全く検討つかないが………今は取り敢えずうまい飯が食いたい。
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