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第十四話 教えてなくてごめんな

「おーこれは派手にやられたね!」


 鼻をつまんで、鼻声となったジアが面白そうに船の方へと駆けて行く。


 白い砂浜、壊れた愛船、そして放置され悪臭漂うクラーケン―――いやこれほんとに精霊と契約できんのか?


「ギ、ギャギャッ!グガァ!!!」


「こらっ、ドラッキー、大人しくしやがれ!」


 その腐臭にドラッキーも反応する始末だ。いつも残飯とか適当なもんだけ食わせてたせいか、ご飯の時間だと勘違いしたらしい。


 鼻とドラッキーを抑える野朗共を横目に、今回の主役様へと視線を移す。


「あんなガキが吸血鬼ねえ……」


 嬉々とした表情で、船とクラーケンを観察するジア。その無邪気な笑顔に、昨晩の出来事をつい忘れちまう。


「ああ、私も驚いている」


「そうなのか?」


 俺と並んでジアを見つめていたケターシャが、おかしいとは思わないか?と太陽を指差す。


「ウェイブス、お前達の吸血鬼に対するイメージが私と近いことを願うが……お前の知る吸血鬼は太陽は得意か?」


「あ?言われてみればそうだな」


 実際に見たことはねえが、話によると吸血鬼は日光を浴びれば灰になるんだったか。


 日光を浴びてピンピンしてるジアが、俺らの視線に気づいて駆け寄ってくる。


「ちょっと見てきたけど精霊との契約、大丈夫そうだよ!なんの話してたの?」


「お!本当かジア、助かるぜ!!なに、吸血鬼のくせして日光浴びてピンピンしてんなと――」


――バキッ


「こらアホ海賊!!お前にはデリカシーってものは無いのか!」


「ってえなこのアマ!!」


 容赦のないゲンコツに頭を抑えてブチギレていると、ジアがクスクスと笑い出した。


「ふっふ〜、船長さんはボクが吸血鬼だって知っても、変わらず接してくれるんだね?ケターシャさんも、そんなに怒らなくて平気だよ!ありがと!」


「そうか?こいつ本気で無神経なだけだぞ?」


「うっせえなこら」


 上機嫌な当人の姿に、本人がいいと言うなら、とブツブツ呟くケターシャ。お前は俺のオカンじゃねーんだからな!!この世話焼きめ!!


「そうそう、日光が大丈夫な理由はね?光の精霊と契約して、助けてもらってるからだよ!ボクが一番最初に契約した精霊でね、今回の儀式も手伝ってくれるよ。今はお昼だし、出て来てくれるかな……」


 そういって鞄から何か取り出すと、手のひらの上で転がして見せた。海の色をした輝く宝石だ。この商都の特産物だと言う、あの宝石に似ている。


『……なんのようだ、フリージア?』


「しゃ、喋りやがったっ……!!」


 覗き込んでいたところ、思いきりのけぞって後ろにいたケターシャにぶつかってしまう。


 男とも女とも取れる、威厳のある声だ。どうやら眠っていたらしい(宝石の中に住んでんのか?)、少し不機嫌そうな様子を感じる。


「ハッ」


 ふと視線を感じて振り向くと、ケターシャがクソむかつくニヤケ面で俺を見ていた。


「しゃ、喋りやがった、笑」


「――殺す」


「っ!まあまあ落ち着けってウェイブス!!」


 鞘に手を掛ける俺を、いつの間にか集まって来ていた野朗共が抑える。


「ん、これが精霊。綺麗……」


「ふっふ〜、そうでしょ。オーロラっていうんだ。名前は呼んじゃだめだよ?怒って焼き殺されちゃうから」


 実際に過去に何かあったのか、真顔で淡々と言うジアに皆ゾッとした。怖いもの知らずのアインでさえ、宝石から少し距離を取った。


「オーロラ、あの壊れた船と精霊を契約させたくてね!生贄はクラーケンなんだけど……手伝ってくれる?」


『ふむクラーケンか……海の化身とあのような大船なら相性は問題ないだろう。しかし……』


 何故だかもったいぶる宝石。なんだ?うちの大切な大切なオポジットノアちゃんに、何か文句でもあんのかよ?


『あの船は血を吸いすぎているな、浄化されぬ魂の怨念が渦巻いている。悪魔との契約なら容易だろうが……精霊は不浄を嫌う』


 どうやら結構文句アリらしいな!?


「血と怨念ねえ……」


 それはそうだろうなとは思う。今まであの船の上で一体何人が戦って死んでいったか……


 敵の血も、仲間の魂も、俺が生まれた頃から蓄えられ続けてきたわけだ。


 野朗共も同じ考えなのか、各々が亡き友と殺し合った敵の事を思い出している気がする。


「その悪魔とやらじゃダメなのか?」


「うーん、修復自体はしてくれるだろうけど、オススメはしないかな。それより船の浄化をしたほうがいいと思う」


「浄化?」


「うん、ボクはできないんだけど、正教会の聖職者に頼んでやってもらうんだ」


 正教会、と聞いてケターシャの肩がビクッと跳ねた。柄にもなく冷や汗をダラダラ流している。


 正教会?どっかで聞いた名だな。確かセリヒのやつがなんか言ってたな。


『―――取り敢えず、正教会の連中にばれちゃいけないよ。女神の寵愛を受けた勇者を薬漬けにしたと知れたら……余裕で殺されるよ?』


「あ、やべ」


 ケターシャの震える理由に速攻合点がいき、自分の蒔いた種に頭を抱えた。


『……待て、勇者の気配を感じるな?だいぶ近くいや、この場にいる―――なんだこの禍々しさは!?』


 ふっ、どうやら精霊さんもお気付きなさったらしい。俺らの抱えるデカすぎる爆弾にな!


「あー、そういえばドラッキーこと勇者くんがあんな感じだったね……まあ大丈夫!連れて行かなければバレないよ!きっと!」


「…それもそうだな!」


 正教会と勇者の関係を知らないで、ちんぷんかんぷんな野朗共をよそに、俺とケターシャは安堵のため息をついた。


『ああ、それがいいだろう。私ならば自身の愛し子を――フリージアを、あの様な姿にされたならば、きっとその者を殺してしまう』


 えへへ、とニヤけるジアの手の上で、クソ物騒なこと言うなこの精霊は!?


 暗にジアに手を出すなと言っているんだろうが(全然暗ではない)、ガキみたいなジアとは温度差がありすぎて、風邪をひきそうだ。


「なあキャプテン、俺らの知らないとこで盛り上がらないでくれよ?」


「あ?仕方ねえな。実はな、かくかくじかじかで――」


 どうやら俺は部下たちに何も伝えていなかったらしい。ドラッキーが勇者だってこと、正教会と勇者の繋がり、野朗共は終始目を丸くして話しを聞いていた。


「は〜、あのドラッキーが勇者ねえ……確かに尋常じゃない強さだったもんな」


 奴との死闘を思い出したのか、どこか納得した様子で頷く野郎共。


 ゲイルが、それなら…と口を開いた。


「ドラッキーは俺たちに任せて、ジアちゃんと正教会とやらに行ってくれ」


「ああ、そうだな任せた。ジア、正教会ってのはどこにあんだ?」


「うーん、多分見たことあると思うんだけど、街の真ん中にあるでっかい奴だよ。ギルドから近いからすぐ行けるよ!でも問題があってね……」


 精霊の宝石を胸元にしまいながら、言いづらそうにもじもじする。


「あのサイズの船を浄化するとなると、すごくお金がかかるんだよね……船長さんたちお金ないって言ってたし……」


「また金かよ!!」


 いつだって俺たちを苦しめる者、それは金だ☆


 教会なんだから、神様の慈悲とか何とかで、無料にしてくれたっていーじゃねーか!!


「ふっふ〜、これは遺跡に戻って稼ぎまくるしかないね!!」

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