[第7話]カーティ市襲撃⑤ 暑さと渇き
その時だった。
ガラッという音とともに、壁が一枚剥がれ落ちた。
火は段々と屋敷のいろいろな場所へ燃え移り、彼らの運命を終着点へ導こうときていた。
メイド達の間には、ますます恐怖が募る。
しかし、そんな危機の中でも、オリビアはただ1人落ち着いた表情で、周囲を見渡す。
――確かに、内心は怖い。
オリビア達のいる3階の部屋にも段々と炎は燃え移り、焦げ臭い匂いが段々と強まるのがわかる。
室温は急激に上がって、真夏の昼間のようになっていた。
――死の瞬間が、刻一刻と迫っている。
こんなありえない光景を目の前にして、怖くないはずがなかった。
だが、彼女には、怖さよりももっと厄介な感覚が襲っていた。
|(暑い……。とにかく暑い)
今まで出したことのない量の汗が、額、頬、胸、下肢……と身体のあらゆる部分を流れていき、喉はかつてないほどカラカラに渇いていた。
この国では珍しく、いつでも好きな時に綺麗な水を飲むことのできていた彼女にとってそれは、13年の人生の中で一度も感じたことのない不快感であり、まさに耐え難い苦痛といえた。
頬は仄赤く紅潮し、全身はじりじりと熱を増していく。
オリビアは、上着を1枚脱いでしまおうかとも考えたが、ためらった。
――敵兵の前で薄着に着替えるなど、屈辱でしかない。
オリビアはふと、自分の両手に白い手袋をつけているのを思い出す。
――これを外せば、いくらか暑さが和らぐかもしれない。
オリビアは、まず左手の手袋を、右手で取ろうとしたが……。
「んっ……あぁっ! 」
彼女は倒れる。
一瞬、視界が真っ白になりかけた。
彼女の耳に、女声の驚いた叫び声が聞こえてくる。
「オリビア様……!?」
オリビアには、誰の声かを判別する気力は、もはや残っていなかった。
【おわりに】
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【次回】
[第8話]カーティ市襲撃⑥ オリビアの脱衣