[第6話]カーティ市襲撃④ 罵倒
「連合帝国軍の皆様方は、この窮状だというのに、随分と頼りないみたいね……!!」
「全くだ……! 覇権国家とやらの、程度が知れるぜ……!」
敵兵の2人は、口々に護衛たちを侮辱する。
これに対し、黙っていられない護衛達は、口々に、苦し紛れに言い返す。
「……なんですって?」
「お前らに我々の国の何がわかる!」
敵兵たちは、投げやりに言葉を放つ。
「やはりわからないようだな……元から感覚がイカれてんのか、はたまた悪臭に慣れきったのか」
「そうね。あちらの方々の国は中枢から末端まで腐敗しきっているというのに、気づかないなんて哀れね」
それに対し、護衛の1人が言った。
「お前らもこんなところに平然といて、死にたいようだな。何が目的なんだ」
放火の首謀者たる男女の敵兵と、オリビアの護衛達との間で口喧嘩が巻き起こっていた。
辺りに鳴り続けていたパチパチという音が強まり、そこにたびたび轟音が重なるようにして響き渡っている。
この瞬間にも徐々に屋敷が形を失っていくのが、わかる。
――今は決して、こんなことをしている場合ではない。
オリビアは、味方に対しこのくだらない真似をどうにかしてやめさせようと嘆願するのだった。
「あなた達、今は逃げ出す方法を考えないといけないわ、協力して頂戴」
敵兵の1人はオリビアを指差して言葉を放つ。
「逃げ出す……だと? どだい無理だな。お前は俺たちで捕らえて、ゼノワール様に献上するのさ』
「そんなこと、絶対させないわ」
オリビアは、出てきた名前には気にかけず、すぐに言い返す。そのとき――
|(ゼノワール、だと?)
――護衛達の表情は一瞬、ほんの僅かに硬直していた。
敵兵は、そんな護衛達の表情を見て、なおも挑発を続ける。
「その少女を捕らえたら、残りは突然皆殺しさ!
1人残らず死に、残った皮と肉も業火に焼かれるのさ!
『少女1人すら守れなかった』と後悔の念に苛まれながらな!
人としてのなごりは跡形もなくなり、骨だけがのこり、そばには国が与えてきた勲章がちらばる!
そこにやっとのことでたどり着いたお前らのお仲間達は、この惨状をみてこう口にするのさ!
『こいつら優れた兵士のはずなのに、いざというときには役立たずだったんだなぁ』
『俺たちは、こんな使えない奴らに税を払って、飯を食わせてやってたんだなぁ』
そんで、勲章を拾ったりなんかして、国そのものを疑い出すようになるのさ!
『この程度の兵士ですら持ち上げられるのはおかしい!』なんて言ったりしてな!
ああ! 想像するだけで胸が高鳴る!」
あまりにも長々と続いた敵兵の罵倒、これに対して、護衛が1名、応戦しようとする。
「適当言っていられるのは今のうちだ……覚えてろ……絶対にオリビア様は抜け出させて、後で必ず……」
血気盛んな護衛とは対照的に、ふたりのメイドは怯えた表情を浮かべている。そのうちの1人は、緊迫した表情でこう言った。
「この状況、どうしたら」
事態の収束は、困難を極めていたのだった。
【おわりに】
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【次回】[第7話]カーティ市襲撃⑤ 暑さと渇き