[第3話]カーティ市襲撃① 事件発生
序章は偽名ヒロイン・オリビアを中心に描きます。(主人公は第1章で登場し、ヒロインと運命的な出会いを果たし、本名「ミラーナ」を明かします!)
普通のなろう小説と比べて展開がイレギュラーかもですが、そこも含めて楽しんでいただければ!
それは、あまりに唐突な出来事だった。
――とある快晴の日の昼間。
――場所はヨーゼンシア連合帝国・カーティ市郊外の屋敷。
コートを羽織り、薄手の白手袋を身につけている少女オリビアと、そこに付き従う側近達(――メイド2名、護衛3名)。
合わせて6名が暮らしていたその屋敷は、その日、ほんの一瞬にして、地獄絵図に変貌した。
――異国の兵士の放火によって。
◆
――屋敷が、燃えている。
オリビアの艶やかな黄緑髪が揺れる。
目鼻立ちのすっきりした、整った顔立ちの少女オリビアは、引き締まった表情で、それを見つめていた。
(どうしても、死にたくない。)
彼女は、心の中で強くそう願った。
◆
――この事態には、ちょっとした予兆があった。
オリビア達6名の住む庭付きの屋敷は、このあたり(――カーティ市内)でも一際飛び抜けた大きさであり、また高台に建っていることもあって目立っていた。
だが、ふだん見物者や野次馬などは滅多になく、人気もなかったためそこでの彼女らの暮らしは平穏そのものであった。
しかしながらこの日は、ふだんと異なる、見慣れない光景が広がっていたのだった。
――その屋敷を取り囲む塀の周りに、見慣れない3人の男女が集っていたのだ。
3人はいずれも緑の迷彩柄をした異国の隊服らしきものを着ており、手には真っ黒の軍用手袋を着け、腰には銃を携帯していた。
どうやら、少女達の国・ヨーゼンシアの軍に所属する兵ではないらしかった。
3人のうち1人だけが、四角い眼鏡をかけていたが、その男の服のみ、残りの男女2人とは少々色合いが異なっていた。
灰色の髪が特徴的なその男は、服の見た目だけでなく威圧感も明らかに異なっており、2人になにやら命令をしていた。
――つまるところ、その“眼鏡の男”が残りの2人を従わせていたのだ。
3人は、明らかに屋敷を標的とし、明確な敵意を持って、何かを起こそうとしていた。
当然、屋敷の側も、厳重に警備を行なってはいた。
全部で3名(男2名、女1名)いる少女の護衛のうち2名(男1名、女1名)が屋敷の敷地の外で見張りをしていたのだ。
しかしながら、最悪なことに、いずれの護衛もこの光景を目撃することはなかった。
なぜなら、護衛ふたりのいる位置からは、異国兵3人のいる塀の辺りが死角になっており、見えなかったからだ。
彼らは正門の付近を重点的に見張っていたのだが、そこから塀のそばを確認することは構造上、不可能だった。
――もしも、護衛2名が異国兵3人を視認できていたら――。
それに気づいた異国兵はそそくさと立ち去り、屋敷に火は放たれるのも少しだけ先延ばしになっただろう。
オリビアたちの生活はもうしばらくの間、平穏を保てたかもしれなかった。
……ただし、護衛たちが視認に成功していたとしても、その瞬間に異国兵3人が強硬突破を図ってきていたら……。
火が放たれるのを防げていた可能性は高くなかった。
オリビアと護衛達には、直近の戦闘経験が不足していたからだ。
オリビアたち6名はその身分柄、軍服を着た人や例の“眼鏡の男”のような強い威圧感を放つ人物とも、これまで幾度となく顔を合わせてきたが――それらは全て戦場ではなく、会談の席だった。
護衛たちは、今まで積み重ねてきた訓練の成果を発揮することなく今日に至っていたのだった。
それほどまでに、オリビアたちの生活は、長い間平和そのものだったのだ。
彼女たちは元々身の危険から逃れるためにこの屋敷を充てがわれ、引っ越していたのだが、その恐怖はすっかり薄まっていたのだった。
――今日、この日までは。
◆
ことの起こりは、“眼鏡の男”が、何かを指示したところから始まる。
すると残る2人は瞬く間に屋敷を囲む塀へと向かい、よじ登って少女達の屋敷の庭に侵入。
いっせいに油を撒いて火をつけた。
火をつけた2名の動きは、近くにいた護衛が止めにかかる隙もないくらい素早かった。
この、あっという間の出来事に、屋敷の中は一瞬にしてパニックに陥ったのだった。
火はすぐさま、建物のあちこちに燃え移った。
たちまちにして、焦げたにおいが充満していく。
正門付近を警戒していたふたりの護衛は、消火にあたるべく、門を抜け、庭を疾走し、急いで屋敷の中へと水の入った瓶を取りに向かった。
だが、そうこうしているうちに、あっという間に火の勢いは増していった。
ふたりがそれぞれ瓶を手にして庭のあたりまで戻ってくる頃には、火はあちこちに広がっており、屋敷全体をぐるっと囲んでいた。
――庭にいた白い鳥が、次々と慌ただしく飛び立っていく。
それにつられてふたりの護衛も空を見上げた。
本来なら、雲一つない青空が広がっているはずだった。
しかし、そこには異変が広がっていた。
なんと、空が禍々しい紫色の雲で覆われていたのだ。
「なんだ、ありゃあ……!!」
「何です、あれ……!!」
見慣れない光景。まずありえない空の色。――それを目撃した男女の護衛は、ほぼ同時に叫び声をあげた。
――男のほうは驚きのあまり、持っていた瓶を地面に落としていた。
【おわりに】
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【次回】
[第4話]カーティ市襲撃② なぜ、ここに