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[第2話]プロローグ② 雲間に浮かぶ暁星

 

 

 

 ◆

 

 

 

『固有魔法』――単に『魔法』と省略される場合もある。

 ――それは、常人には決して不可能な奇跡を実現させる能力である。

 使い手ごとに能力は異なっており、同じ能力の持ち主が2人現れたことはない。

 

 固有魔法は、能力によって強さに大きな差がある。

 中でも特に強力な能力を研ぎ澄ました者達は、人類史にさまざまな功罪をもたらしてきた。

 

 しかし、それに目覚められる者は世界でもごく僅かしかいない。

 この世界の人口は5億人ほどとされており、その一生は長くて43年だ。

 そんな人々の中で、固有魔法を操る才能に恵まれた「能力者」の数は、約50万人ほどに過ぎないとされている。

 

 ――5億人のうち、たった50万人。

 

 そんな1000人に1人の幸運を得た彼らの中には、残りの999人がいっせいに束になって逆らっても敵わない、強大な力を手にした者もいた。

 それもあって、そんな特別な能力を宿した能力者たちは各地で優遇されてきた。

 

 優遇の内容は国の法律によって異なるが、たいていは一定以上の収入の保障や、税制面の優遇などである。

 ただし、特筆して能力が高かったり、功績を残したりした使い手に対しては、『無償での使用人雇用』や『王族との婚姻』、『複数人との重婚』、『奴隷の所有・売買』――などの特権を認めている国も複数存在している。

 

 こうした能力者限定の優遇が歴史上初めてなされた際には、反発する非能力者たちも数多くいた。

 だが、彼らはすぐに、数の力をもってしても能力者との間のパワーバランスが覆らないことを思い知った。

 能力者達が使う魔法はどんどん熟達していき、やがて能力者という存在が能力を持たない者の生活にとって日常的な脅威として存在するようになった。

 そのため、非能力者が生き延びていくには、そんな能力者のうちの誰かの配下に下る選択をする以外になかったのだった。

 その顛末は、歴史書に記されている。

 非能力者の集落が能力者に保護を求め、傘下に収まることで『村』を構成するようになったのだ。

 その後、その『村』が纏まったものも、各地に相次ぐようにして生まれ、それらはやがて『国』と呼称されるようになった。

 

 このようにして、世界のほぼ全ての『国』において、その中枢を『固有魔法』の『能力者』が牛耳るのが当たり前になった。

 彼らは圧倒的少数の立場でありながら、それぞれの『国』のあるべき姿や進む方向を決定できる。

 

 この世界はもはや、『能力者』達が動かしているといってもよかった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ――世界がそういう風になってから、気が遠くなるほど長い年月が過ぎた。

 

 世界の覇権国家として『ヨーゼンシア連合帝国』が君臨する時代。ヨーゼンシアは、世界一広い国土と強力な軍を誇り、大陸を丸々一つ制覇するなど栄光を謳歌していた。

 ちなみに余談であるが、『ヨーゼンシア連合帝国』は、強い力を持っていた『ヨーゼンシア王国』が宗主国となって、他の13カ国を次々に引き入れていく形で成立した。

 このとき、13の『国』々はもれなく『市』への改称を余儀なくされたのであった。

 

 そんな『ヨーゼンシア連合帝国』は、この世界に残る数々の謎の探求に目を向けており、多くの冒険者を動員しての大規模調査を続けている。

 これは、そんな世界でやがて英雄として名を残すリュセイ・ケイルズと、彼を取り巻く者たちの物語である。

 

 

 リュセイ・ケイルズは伝説の冒険者フィオン・レイネを義理の姉に持つ少年である。いつかそんな義姉(ぎし)のように冒険に出たいと夢見た彼は、幼い頃から(オオカミ)の住む森で身体能力や胆力を鍛えた。

 しかしながら、固有魔法の発現の有無が人の能力の絶対的な価値基準として存在しているこの世界において、それに目覚めていない彼は、あくまで普通の14歳に過ぎなかった。

 

 だがそんなある日、1つ歳下の、黄緑髪(きみどりがみ)の美しい少女と出会い、心を通わせたことをきっかけにして、彼の運命は大きく変化していく。

 少女の名前は、「オリビア・リーフェルト」。ただしこれは、とある事情による偽名である。ほんとうの名前は、身内にしか明かしたことがなかった。

 

 ――彼女は、他の誰かにほんとうの名前で呼んで貰える日を、物心のついたときからずっと夢見ている。

 どんなに恵まれた固有魔法の才があろうと、いかに恵まれた出自であろうと、彼女の望みはこれまで決して叶うことがなかった。

 

 ――いつの日か、愛する誰かに、隠してきた真の名前『ミラーナ』と読んでもらいたい――。

 

 ――リュセイ・ケイルズは、奇しくもそれを叶える。

 彼女は、リュセイとの運命的な邂逅の末に、自らの秘められた名前を明かすことになるのだ。

 

 ――彼女は、なぜ偽名を名乗るのか。

 ――彼女は、なぜリュセイに、ほんとうの名前を明かすのか。

 

 ……これらが明らかになった時、リュセイが夢見た冒険の旅が始まる。

 

 

 彼らは、そのなかで様々なものを目の当たりにしていく。

 

 ――彼らの国・ヨーゼンシア連合帝国の全貌と謎。

 ――リュセイの義姉フィオンの行方と真実。

 ――固有魔法の起源と原理。

 ――打倒すべき強大な敵の数々。

 

 ……固有魔法とは? この世界とは? そこで彼らが成すこととは?

 

 ――これは、運命で結ばれたふたりの順風満帆な恋物語であると同時に、強大な魔法や力と向き合い、世界の謎に直面していく物語でもあるのだ。

 

 ……そして、彼らは気づく。全ての謎を解き明かすまで、進み続けるしかないということに――。


【おわりに】

少しでも面白いと感じて頂けたら、是非ブックマークと画面下の「★★★★★」による評価をお願いします。


【次回】

[第3話]カーティ市襲撃① 事件発生


※「序章 〜偽名の少女の窮地と、そこからの逃走〜」がスタートします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここで1話世界観を描くことに使って頂けたので、リュセイを取り巻く世界の状況がよく分かりました。能力者の設定が話を、面白くしてくれそうで、楽しみです。 [一言] リュセイとオリビアが今後、ど…
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