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「アレット、素晴らしい。これを誰か妊婦に持たせたいのですが、生憎私には知り合いが居ません。アレットはいますか?」
「私の義理の姉はどうかしら?それにオノレの奥さんは今、妊婦さんじゃなかったっけ?モルガンにも聞いてみたら?」
「あぁ、そうでしたね。すっかり忘れていました。ではまずオノレの所に持って行きましょう。この魔石に代わる魔石は有りますか?」
私は部屋の外へと向かい、魔物の素材を置いてある小屋に入り魔石をいくつかロイクに渡す
「この大きさなら充分ですよ。そういえば、もうすぐオディロン殿下に子どもが生まれるようですがアレット、魔石を渡しますか?」
突然ロイクから聞かされる子供の話。
「オディロン様、の、子供…」
忘れたかった現実を突き付けられ言葉に詰まる。
「… … …ロイク、ごめんなさい。あげないで欲しい。私の中でまだヒカリを赦す事は出来ない。子が産まれるという事はオディロン様はヒカリを許したのでしょう…。私は2人をまだ赦せない、赦したくないの。ごめんなさい」
「いえ、当たり前です。私も貴族達を赦す事は生涯ないでしょうから。アレットの意思を確認したかっただけですよ。自分を責める必要は無いですよ。
では、魔石は1日1個しか出来ないでしょうから3日後に魔法便で届けます。6日後にまた取りにきますから。アレットの家とモルガンの家には前もって私から知らせておきますので大丈夫です」
「分かったわ」
そうしてロイクは魔石を持って消えていった。
私はふと首元にあるネックレスを掴む。私は、私の想いは邪魔でしか無い。彼はヒカリと国を治めていく事にしたのだろう。
苦しい。
王都を出てから彼を忘れようとしていたけれど、忘れる事は出来なかった。むしろ、どんどん辛くなる。
戦う時だけが唯一忘れさせてくれる。
こんなに好きなのに。
こんなに愛しているのに。
彼はヒカリを選んだ。嫌だ。知りたくなかった。
私の事を思ってくれていたなら、世継ぎをリシャール様に託して王太子を譲ればいいとさえ思っていた。
結局、彼はヒカリを選んだ。ヒカリがオディロン様の子を産む、この事実。叫びだしてしまいたい。
私だけ、私だけが。何故。
嗚咽が漏れ、心配したクロムがそっと寄り添ってくれている。いつまで泣き続けただろう。気がつけば鳥の囀る声が聞こえている。喉はカラカラだ。身体も重く、目も開かない。
それでも今日という日を迎えた。
もう、何も望む物は無い。いつ死んでも良いとさえ思っているとクロムは擦り寄りお腹が減ったと催促してきた。
あぁ、クロムのためにもう少しだけ生きていこう。そう考え3日は魔物を狩りながら過ごした。




