辰己、乙/××××××(×)
明日で序章の最終日を迎えます。
どうぞ彼の活躍を最後までご覧下さい。
それと、サブタイトル…読み終えれば真名が分かります。
「あぁ~もう怨獣こんなにやられてんのぉ? 思ってたよりダメージ深いわネェ~これじゃあ直ぐに成仏っちゃうわネェ。激強ねぇ、あの新人ちゃん」
黒いローブの女は突然、屋根から降りてきたと思うと気が付くと化け物の亡骸があるクレーター付近に姿を見せた。一瞬の事で俺達は目が可笑しくなったのかと疑った。今、あの女がいる場所はさっきまでいた屋根の上とは距離があり屋根から降りてもクレーターの場所に着地はしないし、もしクレーターの場所に行くのだったら丁度間に立っている俺達を素通りしなければ行けないからだ。だが、俺達はあの女が屋根の真下の地面に降りる瞬間をちゃんと見ている。なのに、俺達に気付かれずに素通りして化け物の亡骸のあるクレーターの場所に居ることに疑問を覚えていた。
言い知れない恐怖、油断が出来ない相手、見た目から挙動の何から何まで不気味、恐怖で足が悲鳴をあげている。さっきまでの化け物との戦闘とは緊張感がまるで違う。さっきまでのはただのお遊びだったと言われても過言じゃない。それ程までに、飲まれたのだ。あの女に―――
「まぁいいわ。幸い“怨塊”はギリッギリ無事ネェ。また新しい身体と腐るほどの人の怨念を見繕えばいいだけの話。し・か・も、丁度イイの手元にあるから厄介なの来ない内に遊んでもらいましょ~」
そう言うと黒ローブの女は懐から何かを取り出してきた。見てみると結構大きな袋の包みを右腕を前に出して俺達に分かりやすく見せてきた。すると黒ローブの女はいきなり妙な言葉を呟き出す。
《「この世の膿たる怨嗟の魂、人が原罪を以て生を謳歌し死に畏怖する度に、幾重にも刻まれる不なる心、人の世続く限り終わらぬ業の中、怨みよ―――只思い出せ」》
まるで何かの憎しみや怨みとかを助長を促すかのような、そんな気味の悪い言葉の羅列だった。そして、その言葉を呟くとさっき倒したばかりの化け物の亡骸から剥がれるように黒くドロドロとしたこの世の汚いモノを煮て固めたかのような球体が出てきた。あの、感覚―――猫に乗り移ろうとしたあの気味の悪い霊と出している雰囲気が似ている。いや、こっちの方がさっきの奴よりも何倍も恐ろしく感じた。
こんなの、怨みの塊と言われた方がしっくり来る。
「さぁ、アンタの新しい身体よぉ。あのバニー君と相性はイイと思うのよネェ~。ま、そこんとこは野生の勘とかで理解してちょ」
そうして黒い塊は黒ローブの女に促されるまま、女が手に持っている袋の包みの中にズブズブと入っていった。
「ねぇ、ねぇミリス! これヤバいんじゃないの?」
『―――ッ!?ごめんなさい。思わず…放心してしまったウサ。あの女がヤバいのは勿論のこと“怨獣”の核的存在の“怨塊”を強制的に引き剥がして別の身体に乗り移させるなんてっ! 普通はそんなこと出来ないし、一度乗り移ったら他の身体に乗り換えられないから倒してちゃんと“怨塊”ごと倒しているって言うのに、こんなのされたら“怨塊”さえ無事だったら何度でも復活するタイプの敵になっちゃうじゃん、イヤウサァァァ!』
「対処法はないの?」
『強いて言うなら身体を乗り換える前に身体と“怨塊”ごとぶっ倒す程の威力が必要となってくるかもしれないぴょん。糞ぉ、私の責任ウサよ主様。私が主様の負担を考慮して霊力の出力を少しばかり控えめにしてしまったから、あの時“怨塊”ごとトドメを差せたかも知れないのに…』
だが、何処の誰が予想出来よう。こんな状況を―――
『何時もなら、肉体の崩壊をトリガーに“魂塊”も緩やかに消滅するのを待つかさっさとトドメを差して即終わらせるかだってのにぃ~! 今度は油断しないウサ!』
そんな後悔をしている間に、黒ローブの女は持っている袋の包みを手放し距離を置いた。モゾモゾと袋を蠢き仕舞いには袋を内側から破って遂に姿を見せた。
「キィィィィィィィ!?」
ソレは空に飛び上がった。左右に広がる恐ろしく長い翼、短い胴体に短い後ろ足、特徴的な耳をしていた。あれは紛れもなく蝙蝠のそれだった。
「それはペットとして捕まえようとしたら間違って殺しちゃったオオコウモリネェ~。広げた翼の幅はニメートル位はある子よぉ~」
そんなのが、今も尚肥大化してさっきの猫の化け物並になっていた。翼の幅も2メートルでは済まないだろう。
「それにしても皮肉ネェ。蝙蝠の別名って天鼠ないし飛鼠とも言う。古代ローマの博物学者プリニウスも“翼持つ鼠”と称したほどさ。“猫”の次は“鼠”なんてねぇ~噛む噛まれる以前の問題だわこれ」
黒ローブの女は愉快そうに嗤いながら、気が付くと再び屋根の上に腰掛けていた。また…気が付かなかった。度々不気味な気配を漂わせるあの女に戦慄を禁じ得ないが、何故か今はまだ襲ってくる気配がない。それに今の相手はあの蝙蝠の化け物―――
(もう化け物化け物言うのダルイわぁ~皆が言ってる怨獣で統一しとこ…)
蝙蝠の怨獣が憎悪を籠った目で俺達を凝視している。いや、蝙蝠の目は殆んど見えてないから正確には凝視しているようだの方が正しいかもだ。
すぐさま辰己は応戦しようとウサギ特有の跳躍力を駆使して、上空50メートル付近に飛び回り俺達を付け狙う蝙蝠の怨獣目掛けて一気に跳躍した。これだけでも既に人間技じゃないが、それでも空は、果てのない上空は相手の領域。幾らウサギ空へと飛び立とうとも、空を縦横無尽に駆ける蝙蝠の前には敵いはしない。拳を振るうも相手にかすることもなく、空振りになる。
「いや、無理ぃ!」
『それでも精々あの猫怨獣よりは弱い筈ぴょん。地上にさえ降ろせばこっちのモンウサァ!』
「それが出来ないからあんたらは勝てない。そんなんじゃない。あんたらはまだ気付かないのかネェ~?」
アタイは優しくないからネェ~! 教えないよと色々含んだ物言いをしながら完全に傍観者気分で俺達を見下ろしている。その点で言えば俺も同類のようなものだと思うと、あまり気分がいいものじゃなくなった。さっきまでだって気分は優れない。今は、とびきり最悪だ。
(上空戦は圧倒的に不利、地上戦に持ち込めたら辰己の勝ちだが、相手がそう易々と地上に降りたりする訳もない。かと言って相手を地上に降ろせる算段は【霊弾】ってのをまた発射文字通り撃ち落とすのがベスト。だが、それもまだまだ素人なアイツに出来るか怪しいし相手の飛行速度から考えるとそれも難易度が高過ぎて無理だ。だけど、相手の方にも目立った攻撃方法がな―――)
「あ―――」
相手の身体は蝙蝠だ。蝙蝠は自力で空を飛べる哺乳類だ。だが、問題はそこじゃない。目がほとんど見えない蝙蝠の大きな武器は超音波を用いた反響定位。自分で出した音が何かにぶつかってきた返って
きた時の反響からの方向とそのタイムラグから自分や他のモノの位置を正確に知ることが出来、その正確さは戦闘機のレーダーにも匹敵する。これにより、例えどんな攻撃をしようとも、【霊弾】を使おうとも悉くを避けられるだろう。
そしてこれはあくまで俺の予想ではあるが、まだアイツには何かあると思っている。その根拠にあの黒ローブの女は蝙蝠の怨獣に目立った攻撃手段を持っていないと言うのに余裕の表情を浮かべ、仕舞いには辰己にこのままじゃ勝てないとまで豪語しているのだ。ハッタリだと切り捨てるべきだがどうしてもそれが出来ない。それにずっと、何故か厭な予感がしてならない。拭いきれない恐怖で俺の心がいっぱいだ。
今も懲りずに
辰己は地上から小規模の【霊弾】の弾幕を発射しているが、やはり悉くがかわされる。無情にも掠り傷1つない。辰己も悔しがってるがおくびにも出さず再び狙いを定めている。
(アイツが勝てない? 相性でも悪いのか。そう言われるのも仕方ないがそれでもアイツを倒せなきゃ意味が―――)
突如脳裏によぎった1つの閃き、最悪の仮説。
辰己 ウサギ ウサ耳 蝙蝠 鼠 反響定位 超音波
(いや、そんなワケ…でも相手はあの化け物ッ! 俺達の常識じゃ測れないけれども…辰己ならそんな事には―――)
俺は、最悪の場合に備えて辰己に声を掛けようとした。だが、相手は狙ってかどうかは知らないがとうとう自分の方から攻撃を仕掛けてきた。
「Kiiiiiiiiiiiiiii―――!!!」
『「―――ッ!? ア、ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!?」』
「―――っう!? ぐうっ!?」
蝙蝠の怨獣から発せられた超音波が俺達の、特に辰己の鼓膜に容赦無く襲い掛かる。俺の場合は耳につんざく程の奇怪な音にか聞こえない、俺はただ手で耳を塞ぐだけでなんとかなった。だが、辰己は手で耳を塞いでいるのに未だに苦しそうに顔を歪めて涙を流している。その後に、自らの頭上にあるウサ耳を掴んで一緒に耳を覆っているのを目撃した。
(やっぱり…)
「そうネェ~! この子の強化された超音波は人の耳でさえも聞き取れる程の声量に調節出来て、普通の人には唯唯不快な音だし耳を塞げば幾分かはマシになる程度だけど…アンタらみたいに身体的に、特に聴覚を強化をした“霊従師”が相手ならこの子みたいなタイプの超音波攻撃を拾わなくてもいいものさえも拾ってしまうから勝手に悶え苦しむのよネェ~! 正に墓穴ッ! そんで以てブ・ザ・マァァァ~。アッハハハハハハハッ!!」
聴くに堪えない超音波で只でさえ耳が痛いっていうのに聞くに堪えない嗤い声が響きイライラが溜まる。あの嘲り声に何か一言言ってやりたいところがだ、辰己の方に目を向けると膝から前のめりに倒れていた。余りにも突然の事で何が何だか理解が追い付かなくなったが、次第に俺はアイツが倒れてしまったと理解が追い付きそう理解した瞬間、敵が目の前にいると言うのに足は勝手にアイツの元へと焦り気味に駆け寄っていた。
「た、辰己ッ! おい、オイッ辰己! どうしたんだ辰起? 俺が…分かるか? なぁオイ…」
アイツの元へ辿り着いて身体を上向きに起こしてアイツの肩を強めに叩いりして状態を確かめようとしたが反応が鈍い。イライラが溜まっていたので思わず頭をぶっ叩いてしまったが、漸く暗かった瞳に僅かな光が灯された。
「―――ァ、月兎…か。無事みたい…だねぇ、へへ」
「笑ってんじゃねぇよ…バカ」
不意に目から頬へと伝う滴が零れ落ちる。因みに誤解がないように言うが断じて涙ではない! 汗だ! そう、汗だ。
アイツは他人を気遣う余裕はあるみたいだが、依然として身体に力が籠ってないように感じた。流石に困惑する。長期の戦いの疲れって感じでもなかったし、可能性があるとしたらさっきの超音波にある筈だ。俺は恨めしそうに黒ローブの女を射殺すように睨んだ。
「ん? そう睨まないでほしいよネェ~。新人ちゃん、私が言ったように拾わなくてもいいものをその耳で拾ってしまったんですもの。超音波に籠められている怨念とか憎悪の声をネェ~!」
「何?」
「よっぽどこの新人ちゃんは優良で、善良で、最良で、信良で、清涼で、優等で、優秀で、優性で、勇敢で、秀才で、聡明で、懸命で、清廉で、善善善善善善善善ゼンゼンゼンゼンゼンぜんぜんぜんぜんでそして―――純粋だ。そんな心の持ち主にあの増悪が纏めて煮詰まったような人類の醜悪さの塊のようなものがぶつけられたら、忽ち壊れるのは必然。確定事項と言ってもいい。フライで取り損ねた野球ボールが落ちてきて割られる近所の窓ガラスよりも、指でチョイとでも押し出せば破ける紙の障子よりも、美しくて脆い心。とても今は戦える状態じゃないよネェ~! 変身解除するのが、今の彼を救う唯一の方法だと思うけどぉ~~~?」
「―――ッ!?糞がっ!」
それは死刑宣告と同義。選ぶ余地が無い、自明の理、明白、背水の陣、退路を絶たれた哀れな道化。
だが、また苦しみ悶えて始めた辰己。上を見ればまだ超音波を安全な上空から発している蝙蝠の怨獣が存在している。余りのチキンプレイに殺意が芽生える一方、俺はウサ公の反応を確かめることにした。コイツは、どうする?
『どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようっ! 主様が再起不能じゃ今の私にどうこうでにないし、て もでもでもアイツを倒すには“霊装”がなきゃ対処も出来ないし……………コレ、詰み?』
「さ・て・と…これで邪魔者は戦闘不能。でもどーしよっ? 依頼じゃ『邪魔者の処分は任せる』って言われてるからなぁ~フフッ、じゃあ今はあの子達の生殺与奪の権をニギニギしてるのはアタイかぁ♪ フフッ…フフフフフフフッ! やっぱいいネェ~♪ 他人の生き死にを勝手に決めれるってサイコォ~♪ 後は無様な命乞いが見れたらぁ今日はそれだけで酒が進むよぉ~♪」
「………ッ!?」
俺は歯を噛み締めることしか出来なかった。何かが喉の奥から出てきそうな程にアイツに対して何か言ってやりたかったのに…全然喉から吐き出されねぇ。今言ってた通り、俺達の命運は全てアイツの気分次第。だがコレも俺らにとってはさっきと同じで死刑宣告と何ら変わり無い。第一、俺達を生かすメリットがアイツに…果てはアイツの依頼主にさえ何らない。情報漏洩を未然に防ぐのだったら殺した方が手っ取り早い。今こうして生きているのだって、アイツが優越感に浸っているからだ。何時でも踏み潰せる蟻を上から見下ろしている時の心境と何ら変わり無いのだろうよ。
「ホラァ~そこの君ィ! ロクに喋れそうもないそっちの新人君と違って口も手足も動くボーイ君。君にビックなチャンスをあげるよぉ?」
「ビックな…チャンスだって?」
俺達をどうするか、そろそろ決めに掛かっているな。
「今から三分は短いから五…いや十分以内にアンタが私がドン引くくらいの惨めで哀れな情けなぁい土下座と命乞いを聞かせてくれたら、その意地汚さに免じてアンタの命だけは助けると保証する。この意味が分かるよネェ~?」
「………」
俺は、アイツを睨んでいた目を下へと反らして思わず目を伏せた。
(【辰己を見捨てて生き残る】か【辰己と一緒に死ぬ】かの二択を…俺に選ばせてやるってことかよっ!)
最後の最後に真の2択。究極の選択。悪魔の所業。
どちらを選んでも最後には結局後悔しそうな選択肢をアイツはあえて俺に決定権を与えることで揺さぶってきた。俺の本性、俺の性根、友との友情の審議すら。人を弄ぶ奴等が思い付きそうな事の典型、その常套句、見事なまでのお手本、即席のデスゲームの中にでもいるみたいだ。
ぶっちゃければ、俺は今迷っている。もし仮に惨めなまでの土下座、哀れなまでの命乞いをしたとして俺の命が無事な保証は何処にある。満足いこうがいくまいが最後には俺を殺してその死に様で更に楽しむ気違いぶりを発揮することもあり得る。そうしたら必然的に1択。何も変わらない。
「まぁ~信じるかどうかはアンタ次第だし、十分以内の間に何も言わずに新人ちゃんの横にいるのだったらそうゆうことだと勝手に判断して殺すから…ネェ! それにウサ公はどっちにしろアタイのペット確定だけどネェ~!」
スマホの画面を見せてきてタイムを測り出した。間髪入れずに始める気だ。
「ハイ、スタートォォォ!」
―――00:01―――
カウントが遂に始まった。今でもどうするか迷ってる俺を横目に無情にも時間は1秒1秒刻まれている。蝙蝠の怨獣は黒ローブの糞女の上空に滞在し俺達をじっと眺めている。あの女はあの女で愉快そうにカウントされるタイムをまじまじと見つめながら時折、俺の顔を横目に見てニマニマしやがる。
―――01:06―――
もう1分過ぎてやがる。1秒、1分経つ毎に心臓の鼓動がドクドク早くなって五月蠅いったらありゃしない。この短いようで長い地獄みたいな十分間が俺の脳を可笑しくさせる。もうあの女の顔を見るのは堪える、だから俺は顔を伏せ未だに苦しそうにしている辰己の顔に目を落とした。
―――02:24―――
1分ちょっとが経ち、ようやく俺は口を開く。
「ウサ公、もういい。“霊装”ってのを解除してくれ」
『だ、だかっ!』
「どっちみち、意味がねぇよ。コイツがこんなんじゃさぁ。これ以上コイツを苦しませるのはナシだ。お前だってそうだろ?」
『………うっさい雑魚男。だが、そうだな。主様がこんなことになった事の一旦は私にある。責め立てて構わない…』
「しねぇし、する時間も惜しいしな…」
遂に辰己の変身は解かれた。フワッとした浮遊感を両手で感じた後にまたアイツの体重がのし掛かる。ちょっとだけ重かったが、何故か下ろす気になれなかった。
―――03:48―――
もう3分の1経過してやがる。まだ別れの挨拶すらしてないってのに…依然として今の俺達には正しい時間感覚がなくなっている。頭が痛くて敵わない。
「ハァ~土下座すんのは別に構わねぇけど、今はどーしても自分の為に下げるって気分じゃねぇしなぁ。惨め過ぎる土下座で、辰己だけを助けてもらえるように嘆願すっかなぁ~」
「いや…案外、白けるかもね…」
「バカ野郎、あんま喋んな。まだキツイんだろ?」
「そうは…いな、ない。どっちにしろ僕は、これで…最後そうだから…ね」
―――04:35―――
「選ぶのは、君だ。君だから…僕じゃなくて、ミリスじゃなくて、ましてや…アイツでもない。君なんだよ。何を選んでもいい、誰も…君を責めない。僕も…責めない」
―――05:51―――
「けど、僕の願いとしては―――」
―――06:14―――
「月兎に生きて…ほしい」
そうアイツは優しく微笑んで言いやがった。あまりにも綺麗な眼差しで真っ直ぐと言うもんだから何も言えなかった。代わりに―――
―――06:45―――
見開いた目が塞がらなくて、
―――07:03―――
開いた口を閉じるのを忘れて、
―――07:15―――
一筋の水滴が零れ落ちて視界がぼやけてきた。
俺は滴り落ちた水滴を右手で拭う。視界は良好、願いも聞いた。迷いも晴れた。
「オイッ、ミリスッ!」
『!? お前…私の名を』
「一度だけでいい、ホントにこの時限りでいい、出来るんだったら俺と契約しやがれぇ!」
『………』
「俺は契約出来るのか? イエスかノー、どっちだ」
―――7:51―――
『イエスさ。お前には資格がある。“霊”が視えるのが何よりの証拠。“霊装”を使える程度の霊力も…ちゃんとある。けど分かってる? 私がお前じゃなくて主様を選んだのは―――』
「辰己の方が霊力の量が多いからだろ。必然、俺は辰己より断然弱いだろうなぁ」
『それを承知で結ぶんだな? 契約を…』
「それこそイエス、愚問だな」
『でも何故だ?』
「答える時間が惜しいんだが?」
『“仮”契約なら契約者と契約霊獣、そして“仮”契約者全員の承諾があれば後は自動で一秒足らず終わる。終わったら全員の承諾で“仮契約”も終わらせればいい。面倒な説明もしないからなぁ。さぁ早く答えなさい。今すぐに!』
―――08:24―――
「それは単純に、辰己には生きててほしいって願ったからさ。ただ…それだけで俺が戦う理由になる。正義だとか、愛と平和だとか主人公が持つような高唱なモンは脇役にはないが、大切なもの為に戦うんだったら理屈は抜きだ。脇役も命は張れる」
憧れを憧れのままにはさせられない。嫉妬を抱えてちゃ前も向けない。だから、1歩を踏む。
―――09:27―――
「俺が選んだんだ。文句ねぇよな?」
「まったく、我が儘…だね月兎は」
互いに顔を見て笑い合ってる俺達を遠目から見ていた黒ローブの女は怪訝そうにしていた。遠くて会話は聞き取れていないが、葛藤、自問自答の類いの独り言をしていると考えていた女だが、それは外れていた。
『「我ら一同、仮契約者と契約霊獣との仮契約関係を承諾する」』
「我、力欲するは、正義の為在らず。愛と平和の為在らず。只、友を守らんが為、彼の者の力を借りる!」
『「「我ら一同、仮契約を承諾する!!!」」』
(アレは…契約してるのかぁ!)
巻き物が勢いよくページを捲り彼らを包みこんでいった。流石に意表を突かれ驚きを隠せなかった女だが、ふとスマホ画面に目を向けると再び笑みを増した。
―――10:00―――
「それがアンタ達の答えネェ~…殺れぇぇぇぇ!」
「キイィィィィィィィ!!」
タイムアウトと同時に襲い掛かる蝙蝠の怨獣。果敢にもスピードに乗り目標に突っ込んでくる。
「ヘへへッ! 白けるわぁ~白け過ぎて笑えてくるわぁ~♪ そこの雑魚も、雑魚のお友達も、全殺しよぉ! アッハハハハハハッ!」
巻き物の覆われた中を隠すように煙舞う中、蝙蝠の怨獣は煙の中へ突っ込んだ。何かが砕ける音がした。きっと雑魚が肉片にでもなった音だろうと高笑いを上げている中、煙が晴れていくそして―――
「違うな。それは間違いだ、訂正しとけ糞女!」
「!? え? ウソ、ウソウソウソッ!」
そして姿を現したのは、ウサ耳の様なフードのついた白黒で左右が違う長袖ジャージを着て、半月の模様の様なプリントがありこれも左右白黒で動きやすいカーゴパンツ、右目だけは深紅の瞳で右目半分だけが白く染まった髪。このように変身を果たした月兎が突っ込んできた蝙蝠の攻撃をかわし、相手の翼を鷲掴みにして握り潰しながら、がら空きの腹部に強めの膝蹴りをぶちかましていた。
「俺が選んだ。俺だけの選択肢だぁぁぁ!」
そう言って蝙蝠の怨獣を地面に叩き落とした。衝撃で蝙蝠の怨獣は血反吐を吐いたが構いはしない、ご自慢の翼を破き地に落ちた蝙蝠は最早敵ではない。
俺は足を上げがら空きになっている顔面目掛けて、踵落としを繰り出した。斧が振り下ろされるが如く勢い良く下ろし、スイカ割りみたく化け物の頭部が肉片となった。それと同時に体が身動ぎしたがすぐに動かなくなり死亡を確認した後、俺は亡骸の体内から出てきた“魂塊”を素早く右手で掴み直ぐに破壊、ガラス細工のようにパリンと砕けてしまった。
「えっ? そんなぉ~報告どーしよぉ!?」
慌てふためく女を余所に俺は辰己へと顔を向けた。丁度辰己と目が合う。てか、それにしても身体がめっちゃダルいんだが。
「やったな。カッコ…いいぜ…月……ぅ」
辰己は力なく倒れるように眠りに付いた。俺ももうそろそろ限界が近い。慣れない変身も、捨て身で使った自身のなけなしの霊力も、その負担が俺に急激な眠気を誘う。
「たく、ラーメンはお預け………か―――」
俺の意識はそこで手放された。
目覚めるのは3日後。
だが、辰己から送られた手紙を読む時まで思いもよらなかった。
アレが辰己と交わした最後の言葉になるなんて―――
Re.Make Tha SubTitle
《辰己、乙/××××××(×)》X
↓
《辰己、堕つ/混沌の契約者(仮)》〇