日常の終わり/辰己、立つ・2
おはよぉ諸君
これで四日目やん。折り返しぃ!
ではどうぞ
「よしっ! 相棒候補としてこれ以上ない程の逸材は見つかった! 後は…この術が解ける前にいい感じに現れて華麗に怨獣を一蹴っ! からのぉ即契約してブチ祓うっ!? …プランは完璧っ! 脳内シミュもおけ丸っ! 後は当たって砕けるだぁぁぁぁぁ!?」
(あっ…語尾は『ぴょん☆』と『ウサ☆』どっちが可愛いかしら?)
気が抜けた。前回あれだけ啖呵切っておいてこんな事を考えているヤツに活躍の場をあげるのは―――
「ア”ァ”? 玉ァ抜くわよ?」
んなワケねぇーじゃんアメリカンジョークっすよぉ~! 前書きの前書きみたいなモンですってぇ~! さっさと本編始めましょうや!
*
まずは一言。さっきまでのは茶番だ。忘れろ!
*
「とにかく逃げるよ!」
「わ、分かってるって!」
今、さっきまで歩いてきた道を2人で逆走している真っ最中だ。それでも2人の走る速度ではあの化け物の速度に追い付かれるのは必然だった。肌で感じる。突き刺されるような殺意の塊を頭に食らったかのような感覚だ。
そして―――
「ニ”ャ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”―――!?」
あの化け物が不意に、自分で壊した瓦礫を手に掴むと俺達に向かって投擲してきた。
「「ウッソだろぉ!?」」
幸いにも直撃はしなかったが瓦礫が落ちてきた衝撃と砂煙が俺達を襲い思わず尻込みしてしまう。
遂に、遂に追い詰められてしまった。あの猫の化け物は口元に涎を滴ながら標的を視界に固定した。学校周辺や、叔父さん達の周りに被害が出ないようにする為に辰己は予め誘導して逃げ回る算段だと気付き俺もそれに賛同してついて来たがもう既に体力が限界だった。息が上がって、汗が頬に伝う。そして何よりも、恐怖で今にも目が霞んでいる。
(ハハッ…こうも目が霞むといっその事、全部幻だったらなぁ~何て…こういう発想をすること自体が負け犬の弱腰ムードって言うだろうなぁ~参るぜ、まったく)
辰己が隣に居る手前、惨めったらしく泣き叫ぶ気にもならなかったからせめて口元だけでも不敵に笑って誤魔化してみようも試みても、心の底から恐怖ってるのが手の震えで霞んだ瞳にぼんやりと写し出されたのを見て、今度は渇きに渇いた“ハッ…”と言うような笑みが零れてきた。流石に肉体、精神共に参っていた。壁に背をもたれ、その瞳には情けなくも過去の思い出に耽って思いを馳せていた。
(あぁ~走馬灯って、こんなのも見せられんのかぁ~?)
俺はもう、重くて重くて仕方無かった瞼を閉じた。走馬灯ってやつは録な思い出を写して来なかったからな。
(今度、目を開ける時がくるんだったらそれは、お花畑か? それとも地獄の釜の中か? どっちだろうなぁ~まぁ―――)
“さっきよりはマシな光景を見れる筈だよなぁ”
あの鋭利な爪が力いっぱい振り下ろされ風を切り裂く音が耳に入ってきた。
だが、俺が再び閉ざされた瞳を開けた時に見た光景は、余りにも残酷で現実的でそれでいて―――
「なに、勝手に楽になろうとしてんだよバカ月兎ぉぉぉ!」
眩しくてまた目を閉じたくなってしまった。
*
アイツは俺を、もし仮に助けたとしても何の役にも立たずお荷物が関の山の筈の俺を庇いやがった。背中には、幸いにも深くはなさそうだが痛々しい位の傷が出来上がっており出血している。そんな状態だっていうのに―――
「だ、大丈夫かぁ…月兎ぉ。まだ、そんなっ…諦めムードかますには…早い………ぜぇ」
「クッ…大丈夫なワケ、ねぇだろぉ! 手前のこんな…姿見せられてよぉ! バカはどっちだってんだ!」
俺は辰己に色々言ってやりたかった気持ちを遥か彼方に投げ飛ばしアイツの肩を担いで逃げようと、もう棒になりそうな足を無理矢理動かした。今更もうヤツの目と鼻の先に俺達を捉えて逃げるにしたって意味が無い、悪足掻きにもほどがあるって自分でも思ってる。それでも、それでも…最悪の場合辰己だけでも死なせないようにするんだったら俺は、自ら囮にでもなってアイツから少しでも距離を遠ざけようとすら視野に入れていた。そうなったら俺は、確実にあの化け物に殺されてジ・エンドだな。
(まぁ、アイツからの借りは返さないとなぁ。こんな…実の親にも捨てられるような俺なんかに初めてできた友達を、みすみす死なせたんじゃ叔父さんやチビ達に顔向け出来ねぇ。それに、アイツを見捨てたくねぇ…見捨てるような真似なんて…あの両親のような真似なんて、したかねぇ。でも、ホントの本音は…こんな脇役みたいな俺でも、辰己みたく主役がやるような事故犠牲ってヤツか? 一度くらいはやってみたいと思ったけど…これもやっぱ、俺の柄じゃねぇなぁ~(笑)でもよ―――)
「自己犠牲、他人に出来る気がしねぇけどよ…お前になら何度だってしてやれそうだ! まぁそんな事をしてたら、長生き出来そうにねぇけどなぁ!ハハッ!」
そんな事を言ってる間にもあの化け物との距離は迫っている。そんな緊迫感が俺の不注意を招いてしまったのか、あろうことか辰己を背負ったままコケてしまった。直に顔面を地面に直撃させてしまったが、こんな状況で顔の痛みなんて気にしてる時間はなく、なんとか後ろを振り替えるともうあの化け物の顔が目前。
(やべ、終わる―――)
今度は最早、走馬灯すら見る余裕すら無くあの時の俺の頭は真っ白になって今この現実を受け入れようとする心と、片隅に残った辰己を結局救えなかった後悔が入り乱れて混沌としていた。そして、それら全てから目を背けるようにまた瞼を閉じて視覚情報を遮断する。
またこれだ。やっぱり俺はくそったれの脇役。
現実から目を反らして、後悔しながら幕を卸す定―――
「ピンチかぁらぁのぉチャンスキィィィックっ!! ………だぴょん☆」
刹那、この状況に似合わない抑揚で話す声を耳が拾った。すぐさま目を開けて確認してみると、これまた別の意味で目を閉じたくなってしまった。
「ん? ナニよ脇役男! 私の美ボディは見せモンじゃないわ………ウサ☆。あんたはそっちの主役男を丁重に起こしなさい…ぴょん☆」
まず目に入ってきた順番からいえば、さっきまで化け物がいた筈の場所に何故か少し時代を感じさせるセーラー服を着て頭にウサ耳付けてる白髪赤目の美少女が立っていること。そして、その後方…正確に言えば十数メートル後方に壁に寄りかかりぐったりと倒れ込んでいる化け物の姿が見えたこと。そして謎のウサ耳美少女と化け物の間の地面がバッキバキに壊されている事を考慮して推理してみると、あのウサ耳美少女があの化け物をぶっ飛ばしたってことになる。(状況証拠)
「ホラ、あの怨獣私がぶっ飛ばしたけど今はまだノビてるだけだから、さっさと立て…ぴょん☆そうじゃなきゃ話しも出来ない…ウサ☆」
さっきの推理は確定かよ!(証明)
てか、怨獣?あの化け物の名前…なんだろうなきっと。字面は多分、怨念の“怨”に“獣”から…っぽいな多分。名前の通り物騒過ぎるぞ!
それに―――
(語尾が露骨過ぎるんだよなぁ。キャラ付けに必死なのが見え見えで…なんだかなぁ(笑)」
「おいこら藻屑男。途中からこの私のウサ耳に聞こえてんのよ…ぴょん☆お前みたいな藻屑が服着て喋ってるような奴らに媚びる為にこんなキャラ付けしてんじゃねーしっ…ウサ☆」
命助けて貰っておいてこう言うのも何だが、この女…信用出来ない。
*
「…なぁ? 僕が顔面と地面とで強めな直撃してた後に何がどうなったの?」
「んもぉ~! そんな事はどうでもいいではありませんかぁ~…ウサ☆え~っと取り敢えずお互いの事を知るためにまずは自己紹介が定番ですよねぇ…ウサ? 私は月ウサギのミリス、現在野良の霊獣ウサよ☆。んで、霊位は“守護霊獣”だぴょん☆」
「えっと、僕は真歩湯 辰己…です。さっきは僕と月兎を助けてくれてありがとうございます」
あの野郎、そんな素直にペコリとお辞儀しやがって。こんな怪しさ満点の奴に構う必要はないだろうに…それに―――
(やっぱりキャラ付けで迷走してるような奴と関わることないんじゃない…って、俺は個人的に思ってるだけなんで例え心の声が途中で漏れてしまったとしまってもコレは本気で思ってるとかそういうのでなくて…うん。うん、うん、ウン…」
「ふぅ~ん?」
「………」(汗が…ドバドバと…!?)
「まぁ、このやり取りを何度も続ける程、時間もあるワケじゃないし…ウサ☆私が用があるのは辰己ッ! 貴方なのよウサッ!!」
「え? ボクに…?」
急に真面目なトーンになったかと思ったのに、やっぱり例の安定しない語尾のせいで最後の最後に気が抜ける。だけど…辰己にか?
「アッ!? そーいや、コレやっとくの忘れてた…ウサ☆テリャァァァァァァ!?」
突然、あのウサ耳ガール…月ウサギのミリスだったか?そいつが突然スカートのポケットから袋の包みを取り出すとプロ野球選手さながらのフォームを決めてからの後方でぶっ倒れている化け物の顔面に向けてストレートを放った。時速150キロ以上は出ただろうか?狙いは正確で見事に化け物の顔面にクリーンヒット。俺があの場で審判役で居たなら『ストライク』と高らかに宣言していただろう。
「てかアレは?」「マタタビだけど?」「何故に投げた?
」「元がネコならいくらか効くでしょ?」「何故に持ってるの?」「遠くで見てたから買ってきた」「はぁ?」
オイオイオイ、これはもう信じられる信じられないとか言う問題じゃないぞ?
「……から…だ?」「ん? 何ぃ?」「何時から見てたんだよって聞いてんだよ! そのウサ耳は飾りかよっ!」
「………最初からよ」
は? 最初…からだと? つーか、アイツさっきから俺の目を見て話してやがらない。常に辰己の方を向いている。俺の問いに対しては何故か面倒臭そうに対処してる。まるで事務作業のようだ。その返答が気に食わなかった。すると俺の方を見ずとも目線だけで俺の怒りの感じ取ったのか、ようやく俺の方へミリスは顔を向けた。いや、向けただけで俺を見ているって感じじゃなかった。例えるんだったら道端の石ころでも眺めてるかのような無機質感が感じた。
「はぁ~別に何時から見ていたとか関係無いでしょ? 自分で言うのもアレだけど結果論、貴方達の命は私によって助けられた。それが“結果”…今はそれだけが“正義”よ! それに、私も別に自分の霊力態々(わざわざ)使ってまで貴方達を助ける気は起きなかったけど…彼、辰己を見つけて気が変わったの」
そう言って道端の石ころからまた顔を反らすとまた顔を辰己に向けて更に辰己に距離を詰め寄り目と鼻の先まで迫ってきて、アイツの手を取って食い気味に話し掛けてきた。
「アナタ!霊獣使いの才能あるわ! だから私と契約してくれないウサか!」
「…は? え…うん?」「今“うん”って言った!?」
同意の“うん”じゃねぇよウサ耳女!
*
「てかもう承諾してくれないと貴方達も、私も死ぬわよ…ウサ☆」
「「はい?」」
「今マタタビでなんとかなってるけど、今の私の力だけじゃあのレベルの“怨獣”すら倒せない…ぴょん。だって、あ―――!?」
突如彼女の周りに煙が立ち込めて姿が見えなくなったと思ったら、すぐに煙は晴れて周りを見てみると下の方に小さな影が見えて近付いてみると―――
「たくっ、やっぱりこの変化の術も長くもたないわ…ウサ☆。はぁ~折角のウサ耳セーラー服の美少女、もっと堪能したかったウサぁ~☆」
そこに居たのは“ウサギ”だった。それはもう何処からどう見ても其処ら辺に居そうな白ウサギだった。ただし、首周りには荷物を詰め込んでいる風呂敷を背負っている。そんなウサギが不貞腐れながら人の言葉を流暢に話しているのだ、声はさっきまで話していたいけすかない女“ミリス”のもので間違いはないのだが、事態が事態なだけに今、あの彼女がウサギになったとあんまり脳内で一致しない。頭が混乱を引き起こしていやがる。
「何目をパチクリさせてるのよ? “月ウサギのミリス”ってさっきも説明したはずだけど…ウサ☆」
もう、ワケわかめ。だが、確かにこのキャラ付けに未だに迷走してるようなヤツはアイツしかない。短いながらも、相手によって態度を変えるようなヤツだってのは根付いているからな。それに俺への当たりが強いのは肌で感じてるしな。まず間違いない。
「つーか契約って? 魔法少女でもあるまいし、契約内容とか其処ら辺をはっきり誤解がないようなさせないと後半クールから怒涛の鬱展開とか見たくないからな? “聞かれなかったから”とかお決まりのヘイト爆稼ぎするような悪役ムーヴかますセリフは普通に聞く耳持たねぇからな?」
「硬いな、まるで石、いや岩だ! 岩男だな! そんな詐欺紛いなこともしないし、契約も本人の自由だし、給料だって弾むぞ。コウムイン? ってモンよりも弾むって話しだ。辰己だったらそれくらいの出世は確定だぞ! 福利厚生もしっかりしてる何より…アットホームな職場もあるぴょん☆」
「それはわざとか? やっぱ契約しなくても「因みに、そんなマタタビの効力が続くとも思えないし、マタタビも切れたら貴方達再び襲うかもね。だけど、私にはもう戦えるだけの“霊力”はもう残っていない。つまりは二人と一匹は仲良く死ぬわ」はぁ!? 「そゆワケだから、もし助かりたかったら私と契約して辰己。貴方も戦う力を得て対抗するしかないわ…ウサ」グッ!?」
其れは、どれだけ言葉を取り繕うとも辰己は契約するしか道がないって言ってるようなものだ。『そうするしか道がない』『選択肢が複数あるように言っておきながら実質選べるのは1つしかない』って言うのは、王道のようで邪道。卑劣にして正攻法。自身の要求を通すためだったら幾つかある選択肢が予め潰れる状況で契約を迫る。それ事態は卑怯極まりないが、逆に考えればそれだけ相手の方もその要求を通そうと躍起になっている証拠。
つまりそれほど相手にしても、俺らにしても切羽詰まった状況には変わりない。実際そうだ。そして上手いのは辰己の心理を的確に突いてるとこだ。
此れは“契約”だと言ってる位だ。最低限お互いの同意がなければ成立しないと見た。勿論、自分らにとってのメリットがあれば幾らか契約の際に発生するデメリットにも目を瞑るのは社会の常。契約する上で互いに遺恨をなるべく残さない為にアイツも『契約は本人の自由』だと、ちゃんと言っていた。まぁ十中八九、口実だろうが。それでも―――
「もし、アイツが僕らを殺した後…どうなるの?」
「…そっからは無差別に人を襲い続けるでしょうね。他の霊獣使いの部隊の援軍が来るのにも時間が掛かる。あの程度の怨獣なら、難なく討伐は出来るけど…それでも犠牲者は出るでしょうね。今、好都合にもアイツの標的は貴方達、他のに眼中にもないのだもの。ここで倒せば誰も被害を出さずに済むチャンスではあるとだけ、言っておくわ……あぴょん」
「そう、やっぱそうなる…よね」
今、素に普通に話していたが、此れは辰己に聞くまでもなく俺も頷いた。理由は謎だが、今アイツの標的は俺達に絞られている。狙いが俺達に集中している内は他の奴らが被害に遭うことがない。でも、俺達という標的がいなくなったらアイツが次、どのような行動するかは俺達には分からない。知り得ない。知る由もない。
誰の被害も出さずにあの化け物を倒せる唯一の方法…それを実行出来るのはあのウサギが言っていたように辰己にか出来ないのだとしたら…その事がたとえ嘘だとしてもアイツがどう答えるのか。
俺は知っている。
「…乙決。君との契約、受けるよ」
「ほ、ホントウサかぁ!」
「あぁ、僕にそんなことが出来る力が本当にあるのだとしたら…今ここぞって時に使わなきゃ勿体無いと思わない?」
“例えば、ラーメンの半額券みたいに…ね?”そう付け足して俺に一瞥して笑みを浮かべる辰己。そこには恐怖が少し見え隠れしながらも覚悟を決めた真っ直ぐな瞳を見たんだ。
(やっぱ、あのウサ公、コイツの心理を真に突いてやがる!?)
やはり、コイツはそう答えた。誰だって『貴方にしか出来ないことがあるの!』や『今、私達には貴方が必要なの!』とか言われれば悪い気が起きない、そして“特別”でありたいと思う気持ちは大なり小なりあるものさ。でも、アイツは…それ以前に『誰かの為に』動いてた奴だった。
「なぁ月兎、コレが終わったらもう学校サボってラーメンでも食ってくか?」
「…ハ、何だよフラグか?」
「違うよ。やる気出すためにちょっと…ね?」
「はぁ~、ンッ? でも今八時半過ぎだぜ? あそこのラーメン屋昼からだからよぉどーすん?」
「あぁ~やっぱ終わってから考えるよ。あんま変にフラグ立てても意識してやらかしたら目も当てられないし」
そう言いながらまた笑った。そして、俺の肩から離れていきウサ公の所まで歩いていった。
俺はこの後どうすればいいのか分からず、取り敢えず電柱自分の肩を寄せてからアイツの背中を眺めてることしか出来なかった。
少し、肩が冷たくて…痛くて…
風が冷たく、辰己を見送る俺を煽ってやがった。
まぁようやく折り返し
こっからが正念場ってわけでもないけども、見せ場ではある。