世界の共有/視えないもの・2
どうもどうも2日目!
今回は過去回想~
昨日は焼肉食って腹パンパン(笑)
やっぱ肉って、満足感ぱないわ!
2人の出会いは中学の始業式。とても数奇な運命か…将又偶然の産物か…そのどちらかは不明だがそれはこの2人からしてみれば只の幸運で済む話だった。
保護施設《玖守おひさま院》の経営者…院長または先生、そして月兎からは親しみを込めて“叔父さん”と呼んでいる玖守 晴征の助力によって、月兎は両親に捨てられた後は幼稚園をなんとか卒園して、その上で小学校にまで通えさせてもらった。月兎本人は施設の子供の面倒を見る手伝いをしたいと言っていたが、叔父さんはこう反対した。
『君は頭が良いんだから、せめて高校までは通って学んでいきなさい。そうして学んだことを子供達に教えていくのも悪くないんじゃないかな? そうだろう…お兄ちゃんなんだから』
この《玖守おひさま院》に居る子供達の中で、年長者は今のところ月兎だけだった。まだ幼稚園児の頃にはまだ自分より年上の子供が兄や姉代りをしてくれたが、彼が幼稚園を卒園する時期になった頃には揃って預かり手が見つかりこの施設を後にしたのだ。だから彼だけなのだ。兄として、残った子供達の面倒を見れる存在は―――
だから彼は叔父さんの言葉に悩みながらも静かに頷いた。それでも…自分が世話になっている以上、お金関係のことで負担を掛けるのは多少の罪悪感がある。しかし叔父さんは笑っていた。優いく暖かそうな緋色の目元から覗き見える慈しみが垣間見える表情で。
『やっぱり君はしっかりしてるなぁ~あんな親子からどうして君みたいなのが―――イヤ、この話はよそう。ンンッ、叔父さんはね、意外と出来る大人なんだぜぇ! 君一人学校に行かせる位の金なんて余裕だよ余裕!』
そう言いながら、少しボサッとした毛量の多い赤髪を掻きながら未だに笑顔を崩さなかった。あの時は苦し紛れの言い訳に聞こえていたのだが、今になって思い返せばちゃんと有言実行していた。だから現に彼は小学校及び中学生、そして高校まで通えているのだ。資金源マジでドコだよ…そんなツッコミをしたこともあったが結局は教えてくれなかった。
この大きな借りを返す為に、小学校では面倒事を起こさないようにしていた。そのやり方は簡単だ、誰とも関わらなければいい。本当にそれだけで、小学校はやり過ごせた。例え誰に声を掛けられようとも無視を貫けば、興味がある奴らは興味のある内は俺に構うだろう。だけど、その内に段々と興味を無くしていく。そしたら俺の勝ち確だ。
別に友達を求めてはいなかった。“友達”は居なくても“家族”はいるから寂しいとは思ってない。本当だ、ウソを言うメリットはない。本当に…ない筈だ。何故こうも言い聞かせるように心に反芻されるのだろう。だがこれも“仕方ない”ことなんだと片付けている。
(だって俺は…人とは違うものが視えるのだから)
何時だったか、もう物心を付いた時からか…それとも、親に捨てられる直前に見えた―――
両親―――あの男と女の周りに群がるおびただしい程の量の黒いもやを…耳から聴こえてくる怨みの籠った大量の罵声が…耳を壊す程に支配していた。
―涙が出た。恐怖が俺を…包み込んだ―
あの頃を境に、ハッキリと霊とかそういう系の存在を視認出来るようになっていた。だが、このこともハッキリ言おう。
とっても迷惑だ!
あんなっ、あんなっ!おぞましいモノが見えたって何の得にもなりはしない。
そして…1番の問題は、こんなものを…誰とも共有できないことだ。
1度だけ、叔父さんにこの事を話そうと思った。叔父さんは他の大人と違い自分の話しを真摯に聞いてくれると感じていたからだ。だけど…見えない人と見える人では、やはり視える世界が違う。見えない人に何をどう説明しても、見えなければ話しにすらならない。
“百聞は一見に如かず”
まさしくこの言葉の通りだ。見える人が如何なる説明、例え百もの言葉を聞かせようとも、一目見えなければ…見えない人には見えないまま、信じられないままだ。
そして、自分には見えない人に自分が見ている景色、光景、視えてる世界を説明出来るだけの力がない。視えなければ土俵に立つことすらない。
だから…この事は黙った。黙ったまま、誰とも打ち明けられないまま小学校を卒業した。
それにぶっちゃけると、視えようと視えまいとあんまり私生活には支障は直接出なかった。幽霊達は俺達に直接触れることも出来ないし俺達も同様だ。たまに俺が見えていると感じて面白がって構って欲しそうにしてくる幽霊がチラホラ居たが、それらは見えない人同様に視えないフリしていれば自然と何処かに去っていく。しかし、小4の頃に出てきたポルターガイストを起こせるタイプの幽霊に出会った時にはめっちゃ焦った記憶がある。
それでもチビ達や叔父さんの前では平静を保ちながら、ちょっとだけ刺激に満ちた毎日を過ごしていた。
そして遂に中学の始業式の日。
自分には余り似合わない学ラン姿の俺をチビ達にからかわれた。一方で叔父さんはちょっと何故か涙を浮かべていた。そんな騒がしい中で中学生に足を運び、始業式の為に体育館に足を運ぶ。未だに浮き足立ってる学生達と共に列に並ぶ。小学校からの顔見知りも居れば他の小学校の面々の中でも有名処の顔が見受けられたが、ここでも変わらない。そうさ、中学生になったって友人なんて…必要な―――
「で、あるからしてぇ~ロリコンは十四歳以下の女子のことを指すワケですからぁ~今の貴女達入学生に手を出すとロリコンのレッテル貼られて警察のお世話になるんですよぉ~そゆわけで、あるからしてぇ~速やかにそして健全に中3、もとい十五歳以上になりましたらぁわたくしの元へご連絡入れてくださいねぇー。で、あるからしてぇ~―――」
(…今、スゲェ問題発言しなかった? いや、それより―)
面白い位にハゲ散らかしている校長の長たらしい話しに男子は飽き飽きしながら、一方の女子は冷蔵庫の中より冷めた目をしてドン引きしていた。今に思えば温度差が激しかった。だが、それよりも俺が目に付いてしまったのは―――
「で、あるからしてぇ~ロリコンとは、幼い少女を慈しむ心が元であるからしてぇ~人類皆ロリコンといっても過言ではないワケで『んなわきゃねぇーだろクソジジィ!! テメェ話がいつもいつも長いんじゃハゲェェェ!? テメェのせいで空気が最悪じゃねぇかよ! 空気くらい読めんだろぉがぁ!? アァ!?』それで、あるからしてぇ~―――」
ハゲ散らかしてる校長に怒鳴り散らしてるキッツキツのセーラー服来たデブ男の幽霊が触れもしないのに校長のハゲた頭を叩いていた。
半透明だったが、メガネ掛けてめっさデブい男子中学生?ってのは遠目に見ても分かったが、やはり見た目がアレなんでねぇw…思わず顔を横に反らしてしまった。
そして、思わず呟く。
「「セーラー服はないだろw…え?」」ボソッ
!?やべっ!? 聞かれてしまったァァァァァァ!?
お互いにお互い、気まずそうに反らした顔を正面に居る校長とセーラー服デブ男幽霊に視線を再び戻した。だが、数秒後に吹き出しそうになったので目を半開きにして残りの時間をやり過ごした。
始業式が無事終わり、自分のクラスの教室に戻り自分の席に座り一先ずは落ち着いた。だがこの後、自己紹介にHRの時間を使う筈だ。それが、とてもとても―
(鬱ぃ…)
この時だけはホントに鬱い。クラスの奴らに自分の名前を覚えておいて欲しいとも思わないし、自分も同学年はおろか同じクラスの奴らの名前全てを覚えるつもりはない。ハッキリ言って時間の無駄だと感じている。
「先生、すいません。トイレ行ってきまぁす」
だから、嫌すぎて嫌すぎて取り敢えずこの時間だけ逃走する。そしたら適当に先生が名前だけ言ってくれるだろう。だが今更になって思い返すが、帰ってきた後に自分の番が回ってきて変に注目されるかも知れない。
(………そう思うとマジで尿意がやべー)
一回、真実でトイレに行ってから考えよう。用を足してから個室に引きこもるなりしてやり過ごそうかなと考えながらズボンのチャックを降ろした後に自分と同様にトイレに入ってくる人の足音が聞こえた。
(…は? イヤイヤイヤ可笑しい。可笑しいだろぉ? 今の時間はもうHRの時間が始まってる最中なのにトイレだと? まぁ俺と同じサボりか? 同じクラスの奴じゃなきゃいいけどよぉ~)
もう随分とジョボジョボと漏らしてる手前、今更姿隠すのもしたくても出来ないので顔だけ傾けてトイレにやってきた奴の顔を拝もうとした。
「あっ…」「あっ…あぁ~」
した後すぐに後悔した。トイレに入ってきた奴を、俺は知っている。そう始業式で偶然、俺と同じことを呟いて気まずい雰囲気になってしまった奴だ。チビ達や叔父さんの顔以外あまり覚えていない俺でも特徴的だったから数秒で覚える程だった。
煌めく金髪、輝く翡翠の瞳、シュッとした顔立ち…悔しいが100人の女子中どっから湧いて増えたのか120人が“イケメン”だと答えるだろう。更にその甘いマスクから魅せる苦笑する顔も様になっててむかつく。おまけに文武両道、成績優秀、眉目秀麗の3拍子揃ってそうな男が俺の隣で用を足そうとしてズボンのチャックを降ろしていた。
「………」(いや気まずいんだって!)
「あ、あのぉ~」
「――ッ!? な、なんだ?」
「やっぱり…君も視えるの?」
「………そ、それはぁ~」
「………セーラー服」ボソッ
「―――フェッ! ブフォwwwセッ!? やべ~wつ、ツボるぅw」
堪らず吹いた。そしたら小便の狙いが反れてしまった。足にちょっとかかった。
「やっぱね、僕と同じだ…」
「…そう言うってことはさぁ、やっぱお前もか?」
「うん」
「…そうかぁ」
やっぱそうだったか。とりあえずは納得した。でも…それだけじゃない。なんで、なんで…
((なんで“嬉しい”って思ってんるだ?))
お互いをお互いに不思議そうに見つめ合ったがその後に目を反らして、2人とも用を足し終えてズボンのチャックを挙げた後に手を洗っていると、隣のイケメン君が話し掛けてきた。
「なぁ、今日はこのままサボっちゃう?」
「ン? お前そういうキャラなん?」
「いや、僕と同じように幽霊とかオバケとか視える人とか居なかったし。誰にも、言えなかったからさ…折角だし、色々話してみたいなぁ…なんて、ね?迷惑、だよね?」
「…いや、今日はどーせ教室に戻ろうとは思ってなかったしな。それに…俺もさ、はじめてだしな。俺も…ちょ~っとだけ、気になるっちゃあ気になる…えぇ~っと? こういうときはそれこそ自己紹介ってやつだよなぁ?」
自己紹介。自己紹介かぁ~、自分から言っておきながら恥ずかしさが込み上げるが、そこはなんとか抑え込みイケメン君の前に手を差し出した。
「俺は玖守 月兎。お前の名前はなんだい? イ・ケ・メ・ン・君?」
「イケメン君じゃないよ。僕の名前は真歩湯 辰己だよ。これからよろしくね、玖守君」
「やめろやめろっ! 君呼びなんて、女じゃあるまいし。お前の事は“辰己”って呼んでやるから俺の事は“月兎”って呼べよ? さもないとイケメン君で固定だからなぁ!」
そう凄むと、イケメン君もとい辰己は顔を明るくさせて俺の差し出した手を勢いよく掴んで答えた。
「乙決、“月兎”!前のように呼ぶことは、この先一生ないと君との友情に掛けて誓うよ!」
「友情ってお前…臭い、臭過ぎるぞその台詞ぅ!」
これが、この出会いこそが、俺達のファーストコンタクト。お互いの世界を共有した瞬間だった。
友情って…えぇやん。