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銀狼姫  作者: ひととせ
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第一章 三節 聖女シルヴィア

 

 クリフォティオ聖帝国によるウォルファング王国への侵攻。それが、全ての始まりだった。

 片や数々の国を征服した大国、片や生まれたばかりの小国。その戦況は火を見るより明らかだ。


 そんな折。第二王女シルヴィアは一人、神狼が眠っているとされる森へ足を踏み入れる。斯くして森の中央、聖樹セフィロトの根本に辿り着いた彼女は、そこに眠る神狼との対話を果たした。


 人を嫌いその目を閉ざした神狼へ、シルヴィアは七日七晩を費やして祈り続け、また説得を試みる。

 いつまでも祈る事を止めないシルヴィアに痺れを切らした神狼は、ならばと彼女に言った。


「お前の全てを捧げよ。その体も、命も。その対価として一度のみ、我が力を振るってやろう」


 彼女は迷いなく是と答えると、神狼にその身を捧げた。

 神狼はシルヴィアが醜い本性を曝け出す事を期待して態とゆっくりと、その大口を近づけていく。……果たして。神狼の牙が肉を抉っても尚、彼女は笑っていた。


 これで国が救われるのなら、と。


 神狼に喰われ、その命が絶える時まで、シルヴィア・セフィラ・ウォルファングは神狼への感謝を捧げ続けていた。

 そうして漸く、神狼はシルヴィアを認めた。そして、同時に彼女を失ってしまった事を嘆き、悔いた。


 約束通りにウォルファング王国を勝利へと導いた神狼は、それでもシルヴィアの犠牲の対価になり得ないと、クリフォティオ帝国を滅ぼした。

 戦いが終わった後、神狼は始祖王アダムに全てを話し、娘の死に嘆く王へ誓う。


「シルヴィアの祈りと献身への対価として、我が大罪への贖いとして、未来永劫この国を守り続ける」


 斯くして神狼の加護を受けたウォルファング王国は、以降その名をディヴァインウォルフ──神狼の国と改め、神狼と聖女シルヴィアを奉る神殿を築いた。


 その後。神殿にて再び眠りにつく時、神狼は一つの予言を残す。


「千年の後、聖女シルヴィアは転生する。白銀の髪と黄金の瞳を宿す者、その者こそ聖女の転生せし姿である」


 そして今より十余年前。千年の時を経て神狼は目醒め、聖女の再来を告げた。



 ◆◆◆◆◆



「───以上です。シルヴィ様、貴女は瞳の色こそ紫色ですが、その髪は紛れも無く神狼の鬣と同じ色……間違いなく予言にあった聖女と思われます」


 語り終えたヴィンセント様は「出来る限り分かりやすくはした筈ですが」と、こちらの理解度を窺う。


「しかしお嬢様の瞳の色は、誤差として片付けるには無理があるのではないでしょうか?」


 マリアが尋ねる。


 その通り。予言の聖女は白銀の髪と黄金の瞳である事にこそ意味がある。

 確かに白銀の髪をもって生まれる人間は希少だが、全く居ない訳じゃない。現に第一王子アルフレッド殿下も白銀の髪で、その瞳は私より黄金に近しい橙色だ。


「その点に関しては問題ない。…シルヴィよ、私の前まで来てくれるか?」

「?…はい」


 立ち上がり、国王陛下の前まで歩み寄る。

 陛下は私の眼前に掌を翳すと、魔力を込めて詠唱らしき言葉を紡ぎ出した。


「幾星霜を経て尚褪せぬ聖女の魂よ、その瞳に真なる色を写せ」


 刹那。自分の目が僅かに熱を帯びる。熱いわけではなく、痛みも感じない。


「これは……!」

「ふむ。やはりシルヴィ、お前は聖女の生まれ変わりだ。間違いない」


 驚きに目を見開くマリアと、何故か確信を得た様子のアルバート陛下。どういう事かと尋ねるより先に、アナスタシア様が手鏡を手渡してくれた。

 受け取り、顔の前まで持ち上げてみれば、そこには銀髪金瞳の私が居た。右眼は色が変わっただけでなく、何かしらの紋章らしき図形が浮かび上がっている。

 アリスの手にあるものとは異なるものの、それはクリサンセマムの聖女の証……聖痕と呼ばれる刻印に酷似していた。


「聖痕の覚醒を促した。お前の右眼に宿るそれは紛れも無くディヴァインウォルフの聖痕だな」


 やはり聖痕らしい。となれば、本当に私が聖女シルヴィアの転生した姿だという事か。


「………話は分かりました。しかし家族になる、というのは?」

「シルヴィ。お前がシルヴィ・ウィステリアという名と地位を失う事を、我々はクリサンセマムの聖女より聞き及んでいた」


 クリサンセマムの聖女、アリス。

 彼女には予知能力があったらしく、あの時応接室に来たのも、ヴァイス殿下達が私を糾弾する光景を既に予知していたからと言っていた。尤も、その内容には誤差が生じていたようだが。

 当のアリスは「予定より一年も早い…いいえ、そもそも悪役令嬢が悪役をしていない時点で発生する筈が…もしかしてヴァイス殿下の人格がゲームと違う事と関係がある?……とにかく、こうなったら強引にでも物語を続編に繋げないと」などと独り()ちていた。


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