グループ分け
「どうぞ皆さんこちらへ、王都から何とか持ち込めたものだけで拵えた質素な家ですが」
執事のような服装の男に連れられて村まで誘導されたカイトたちは少々驚いていた
思っていたよりも発展しているな
召喚された場所や話を聞く限り、絶体絶命で死に物狂いでなんとか生活をしている。
という感じに思っていたが、村・・・というより街に近いそこは、木材で出来た家が立ち並ぶ暖かな雰囲気だった
カイトたちが石作りの道を歩いていると、カイトたちに気づいた住民らしき人達がコソコソと話をする
カイトが集中して聞き耳を立てると、その会話が聞こえてくる
「あれが勇者たち?ずいぶんと若いように見えるけれど」
「ええ、あんな人達で本当に王都を取り戻せるのかしら」
「それに女性までいるわ、まったく何を考えているのかしら」
どうやら俺たちに不満を持っているらしい
予想以上の悲惨な現状だし、救いの勇者に大きな希望を抱くのもしかたない
それがまだ若い、それに女性までいるとなれば不安になるのも仕方ないだろう
聞こえてくる声はいったん無視して、執事についていくと
家が密集した住宅街からそこそこ離れた場所に俺たちのために用意されたであろう簡素なつくりの小屋が数多く連なっていた
執事は振り向くと、きれいに腰を折りたたむと
「申し訳ありません、予想以上に勇者様方の人数が多かったもので、一人一軒とまではいきませんが、内装はそれなりにそろっていると思います、なにか不備があればお気軽にお声掛けください」
「えっと、具体的には?」
なんとなく聞いてみる
「そうですね・・人数を見るに、四人に一軒でしょうか」
執事のその言葉で生徒たちが少々ざわつく
あれだ、体育の時に「好きな奴とグループを組めー」と言われた時と同じ反応だ
当然、クラス内でも仲のいいグループで組んでいるが、クラス内の女子ほぼ全員からの目線を集めている生徒が一人、セイヤだ
もともとの人気もあるが、さっきのが王との会話でのどうどうとした話しぶりを見て、この異常事態に頼れる人間として再確認されたようだ
なんとかしてセイヤと同じグループに入りたい女子生徒たちは賢明に話かけるが、すべて断られている
「ごめん、信用してないわけじゃないけど、そんなに女の子ばかりのグループじゃ息が詰まっちゃうかな、それに、女子だけじゃ危ないと思うんだ、断った俺が言うのも何だけど男子とも組むべきだと思うよ」
というセイヤの言葉で、ハッと気づいた様子ですべてのグループが男子生徒とも組み始めた
(うん、セイヤが言ってることは正しいな)
俺たちがこの王国をまだ信用していないように、国側も俺たちを信用していない。
街からこんなに離れたところに追い出されるのがいい証拠だ
一人は男子生徒をグループに入れることで、少なくとも女子生徒よりは戦うことができるだろう
まあ、もし生徒になにかあれば俺が全力で守るつもりだ
兵士達の実力がどの程度かわからないから、早いとこ魔法について知っておきたいな
・・・俺が戦う方法を教えられたら
こんな状況の中、カイトは少しでも自分を守るために護身術を叩き込みたいところだったが、暗殺者としての自分を知られることを恐れて葛藤していた
「カ、カイトくんよかったら僕とグループ組みませんか?」
いつもオドオドしているけど、今はさらにひどいマサル。
こんな状況じゃ仕方がないが
「ああ、もちろんだよ、・・・ユイ、お前もグループに入ってくれないか?」
「ふぇ!?は、はい!・・・じゃなかった、あ!ありがと・・・」
さっきからこっちをちらちら見ていたユイも誘ってみると同じグループに入ってくれた
二人とも他の生徒と話すほうじゃないのもあるが実は気が弱いユイは誘われてもうまく話せずに俺に助けを求めていたから、入ってくれてよかった
ユイは頬を赤くしてしてうつむいた顔をこっちに向けると「・・・ありがと」とボソっとつぶやいた
「なんのことだ?」
「な、なんでもないよ!」
流石に誘ったことだと分かったけど、正面からお礼を言われて少し恥ずかしかった
ナツキの方を見ると、もともとの人望からかかなりの生徒に誘われている、それなりに女子生徒もいるが大半は男子生徒で、ナツキのルックスを求めて一緒の家に住みたいという欲望が見え見えだ
声をかけようとすると
ケンヤと組んだ様子のセイヤが、ナツキに近づいている
さっきまでナツキを囲んでいた男子生徒もセイヤが近づいてきたことで少しづつ離れていく
クラスの中心人物で、これからの状況を左右しかねない二人の会話に生徒全員が注目している
「ナツキ困っているようだし、俺たちとグループ組まないか?」
「え?あ、えっとー・・・」
断りたくても断れないという感じだな、全員が注目しているし、ここで断ればセイヤに断られた他の女子生徒からの反感を買う可能性がある
ナツキは俺の方をちらちらとみている
長い時間いっしょにいると何となくわかる、あれは助けての視線だ
ここで俺が助け舟を出して言い方を間違えれば、セイヤからはもちろん多くの生徒からの嫉妬を買って嫌われる、言葉を選ぶ必要はあるけど、ナツキを助けないという選択肢は無い。
「えっと、さっきここまで来るときにこういうことがあったら協力しようって話してたんだ、それに、俺とナツキは幼馴染みたいなものだし」
「そ、そうそう、誘ってくれてありがと、でも約束してたから・・・」
そういってカイトの服のすそを握ってきたナツキの手は震えていた
カイトは少し驚いていた、カイトとナツキは暗殺者の相棒としていままで多くの時間をこなしてきて、カイトはナツキの心の強さを知っていた、だから落ち着くとはいかないまでも、この状況に怯えてはいないと思っていた
いや、普通に考えれば怯えないはずがない、まったく知らない世界に連れてこられる恐怖は尋常じゃないからだ
俺とグループになることでナツキが少しでも安心できるなら、俺は迷わずそうする
「ごめんなセイヤ、先に約束してて、ナツキ、そういうところはしっかりしてるから」
「・・・いや、俺こそ悪かった、そうか、先に約束していたんだな・・・まあ、それでもナツキが良ければだけどグループに入ってほしい、俺たちが同じグループなら他の生徒も少しは安心できると思うんだ、
カイトも、ナツキが来たいっていうなら・・・いいよな?」
「え?あ、ああ」
理由ははっきりとわからないが、セイヤはどうしてもナツキを同じグループに入れたいらしい
もちろんナツキが本当にセイヤのところに行きたいといえば止めるつもりはない、ナツキの意思を曲げることだけはしたくないからな
しかしこの状況、セイヤも人が悪い
こんなに注目されていれば断りずらいことこの上ないだろう、
少しでもナツキが断りたいという意思を出せば、手を貸そうと思った
ナツキはぐっと目をとして、ゆっくり開けると
「ごめんね、カイトは幼馴染だし、長い時間一緒にいたからセイヤ君より緊張しないで済むかなー」
「そうか・・・、分かった」
カイトを含め、全員がふう、と一息つく
今の会話には独特の緊張感があった、さすがのカイトも気が張っていた
しばらくして全員が四人組のグループを組み終えると、さっきの執事が話し出す
「それでは、明日はさっそく魔法による戦闘訓練に入っていきますゆえ、疲れているお癒しください」
それでその日は解散
俺たちは四人で指定された家に向かった
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