魔力と戦争
「ようこそ皆さん、我が誇り高きカルディア王国へ」
やけに顔色の悪い豪華なマントを羽織る男は、急なことにパニックになっている俺たちを見ると語り始める
「急なことに驚かれているでしょう、私はカルディア王国の王である、ルイス・カルディアと申します。
皆様に危害を加えるつもりはありません、しかし、我が王国を救っていただきたく思い我々が今いるこの世界とは別の、異世界から召喚させていただきました。」
今では小説やゲームの鉄板とも言っていい、異世界召喚。
基本的には魔王が攻めてきてヤバイから救ってくれという願いを込めた無慈悲の転移が最も多いよね。
あの現実的じゃない光の状況に加えて、体が引っ張られるような感覚、フラッシュグレネードが似たようなことができるがあそこまでじゃないし、何よりあの感覚は薬なんかじゃない、あれは向こうの世界では絶対にない何かの力だ
状況が分かっていないほかのクラスメイト達は、「何かのテレビ番組?」と現状を疑う者もいれば、「ひっ殺さないでくれ!!」とテロリストに誘拐されたと思っている者もいる
しかし、周りを見渡すにつれ、悲鳴を上げるものもいればおびえてうずくまるものも増えてきた
「みんな落ち着こう、俺にもなにがなんだかわからないけど、この人の話を聞いてみようじゃないか」
クラスの中心だったセイヤの声で、「そ、そうだな・・」と、今の状況について話を聞いてみるという結論になる
それにしても・・・
王国だって?
王?が言ったように、もしこの場所がどこかの王国だとしても、拉致などが目的じゃなければこんな・・・何にもない野原で召喚するかな?
なんなら、今でもすぐ横で、屈強で大きな鎧を着た男たちが、分厚い剣を持って俺たちをにらんでいる
・・・・・・殺されたいのか?
一瞬殺気をだしたのがナツキにばれたのか、こっちを見て必死に口元で小さくバツ印を作って示してくる。
冗談だよ。
なんの情報も聞けてないしね
ふう・・・確かに、こいつらにとって俺たちの世界が未知の世界であるなら、警戒しないわけがない、それは分かる、だが、城の中じゃないにしても、こんなに何もない野原なのはなぜだ?
もし、俺たちがこの状況におびえ錯乱、パニックをおこし真っ先に逃走しようとしたら、どうするつもりだ?
考えられない状況じゃない、いや、真っ先に思いつく反応だ。
そうなったとき、こいつらは俺たちを取り押さえることができるか?
出来ない。兵士?何人かがこっちににらみを利かせておびえ、緊張している状況を見ればすぐにわかる。
暗殺者の勘というやつだ、こいつらはよっぽど危機的状況で、最終手段として俺たちを呼んだ、あるいは・・・少し質問してみようかな
「ねえ、勝手な妄想なら悪いけど、こういう時・・・いや、少なくとも人を招く時ってもう少し場所を選ばないかな?それに、武器を持った兵士ににらまれてはこっちとしても話を聞きにくいんだけど、それに、ボロボロ鎧にくわえて、大量の積み荷、そしてそれに隠れている人々、もしかして・・・現在進行形で危険な状態にあるとか?」
俺がそういうと、生徒たちはそれにはっと気づいた様子で
「そ、そうだよ!」「ふざけんな!かってに呼び出しておいて!」と今の状況に現実性を感じてきたようだ
「カイトってこんな時に発言するやつだっけ?」「ああ、しかもかなりすごい読みだよな」
おっと、こっから先はちょっと自重するか
王(仮)は痛いところを突かれたのか、苦しい表情をする
「はい・・・皆様のおっしゃる通り、カルディア王国は崩壊寸前です」
何かをあきらめたかのように、王(仮)は具体的に話を始めた
カルディア王国、世界唯一の大陸としての南端に位置するこの国は、自然豊かな国であると同時に、三つの国と隣接する国だそうだ。
三国とはいくつかの条約を締結しており、領土を決めたうえで人間の国であるバロンド(王国)とは取引などもよく行っていたという。
そのため三国の中は悪くなく、戦争の火種になることなどなかったという。
魔物が頻繁に表れるこの世界では、魔物は食料や生活用品にまで加工できるほどの価値があり、また恐れられているものでもある、そのため、この世界では、冒険者や国の騎士たちによる護衛や討伐が多くの収益をもたらすらしい
そこでだ、三か国に隣接するこの国は武力を持つと他国から嫌悪されることがあるため、いたずらに武力を大きくしてそれを国益とすることは難しかったという、しかし、幸い自然に囲まれたこの国は国益の多くをを農業と水産業、そして自然の魔力による魔術土木によって賄ってきたらしい。
「ま、まじゅつですか・・・」
小太り代表のマサルが、魔術という言葉に嬉しそうに反応する
あの不思議な力、あれの正体も魔術なのか?
それに自然の魔力と言っていたが、ひとくくりに魔力と言わないところを見ると、どうやら種類があるらしい
そこまで話したところで、おーいと手があがる
「はいはーい!まりょくって言ってたけど、私たちのせかいにはそんなのなかったよー、もしかして!私たちも使えちゃったりするのかな!?」
手をあげたのは、加藤ミカだ。
二年になると、クラスメイトの情報は聞かなくても入ってくるのだが、彼女の場合は自慢げにそれを話す。
この学校にはスポーツ推薦で入ったらしく、「ふっふっふー、私はすごい人なんだぞ!」と教室で威張っていた。綺麗なオレンジっぽい色のサラサラのショートカットで、陸上をやっているため、体はかなり引き締まっている。
性格は見たまんま元気で天真爛漫という言葉が似あう子だが、男子にも距離が近いため、その無邪気さにやられた男達が多数いるという。そのため学校では暴走することが多く、
それをとめるのが・・・
「ミカ落ち着きなさい、私たちの世界にはなかったなにか・・もちろん説明があるはずよ」
紬レナだ、つむぎという難しい読み方が特徴的だが、地元では有名な名家の名前なので読めない生徒はあまりいないだろう、弓道部の部長として、かなりの成績を持っているらしく、学業の成績では、それなりに本気を出してるナツキとあまり変わらず1位2位を取り合っている。
黒い髪ロングの髪に、毛先がくるりとパーマがかかっている上品な髪型、顔も整っていて、
まさに、立てば芍薬座ればなんとやらだろう。
俺もこの話はかなり聞きたいことだ、何よりあの光の正体がわかるし、ここが本当に異世界だとしたら、帰る方法にもつながるかもしれない、ここにいる奴らを殺すにしても、いい情報になるだろう
その後、王はゆっくりと魔法について語り始めた
魔力には7つの種類があるらしい、そしてそれらは驚くことに、俺たちの世界にもある七つの大罪に由来しているという
憤怒の象徴である、炎の魔力
色欲の象徴である、水の魔力
傲慢の象徴である、自然の魔力
暴食の象徴である、大地の魔力
怠惰の象徴である、風の魔力
嫉妬の象徴である、光の魔力
そして、強欲の象徴である、闇の魔力だ
人間は、誰しもが少なからずいずれかの魔力を持っており、それにより発動する魔術は使い方次第で人それぞれ全く違うらしい。
どの魔力を持つかは、性格に起因している場合や、その人が心の奥底に持っている感情、ただ単に相性など、さまざまらしい
ふーん、だとすると、俺はどの魔力になるんだろうな
「この世界に召喚される転移者は、その魔力量がすさまじい場合が多く、今の我々にはその力がどうしても必要なのです」
「・・・まてよ、その言い方だと、俺たちのほかにも転移者がいるのか?」
お、カイトいい質問
「・・・召喚には、魔力を持ったものが何十人と必要です。召喚を行うと、召喚を行ったものたちの魔力は失われてしまうのです、そのため、召喚はめったなことでは行われません、ここ百年の間に行われたのは三回ほどでした。」
三回・・・俺たちのように大人数が一気に転移されているとしたら、それなりの人数がいるんだろうが、そんな人数が一気に消えたら、何かのニュースになっているはずだ。
俺たちを例にとると、あの光の中に入っているものだけが転移されたとするなら、人数はランダムと言い切っていいのかもしれない。
「そして、それを行ったのはここにいる市民と兵士たちです。」
王がそういうと、荷台などに隠れていた住人がぞろぞろと出てくる
それにあわせて、ことの顛末を語りだす
しかし、何故か最近、バロンドとの取引が途絶えたと思うと、急な襲撃をされ、ほとんど魔力を鍛えることがなかったカルディアはもちろん武力をほとんど持っておらず王都はおろか、城すら守ることができず生き残った住民を連れてここまで逃げてきて、周辺の村から物資をかき集め、ここから少し離れたところにある王都の次に大きい村で生き延びているらしい王国にまでなったおおくの住民の集合体も、今では500人ほど、くわえて、戦力もない彼らは、バロンドの兵士に襲われることもあれば、魔物が出る可能性もあるこの場所に滞在するのには荷が重すぎた。
最後の手段として使ったのがこの異世界召喚だという。
「我々にはもう戦う手段がないのです」
・・・・絶句。
俺たちのクラスメイト達の状態を表すとそんなとこだろう
そうなるのも無理はない、ただの高校生がこんな主に簡単に背負えるはずがない。
しかも、断るわけにはいかないというのが生徒たちを不安にさせている。
この王とかいうやつ、あとで話をする必要がありそうだ。
急に謎の現象に巻き込まれ、知りもしない場所に連れていかれる。そこで聞かされるのはまるでおとぎ話のような話、しかも、その主人公は自分たちで、俺たちが戦わないとここにいる人たちが死ぬといわれる。
断れば全く知らないこの世界で生き残らねばならない。文字通り右も左もわからない状態でだ。
俺やナツキならまだしも、戦う手段を持っていない生徒はそんな状況になれば死ぬしかない。
元の世界に帰る手段は、今の話を信じるなら、俺たちにできるはずがない。
よって、俺たちは知りもしないこいつらのために戦わなければならない。
明らかな誘導だ。
・・・もし、こいつら、このまま生徒たちを貶めようとするなら・・・
俺の大切なものを壊そうとするなら
騎士だろうが王だろうが、
皆殺しにしてやる
しーんと静まり返る生徒、その静寂を破ったのは、セイヤだった
「・・・俺たちにも、魔力があるのですか?」
「ええ、もちろんです、そして、その魔力の力は間違いなく大きい」
「・・・分かりました」
セイヤは全員の視線を集めると話しだす
「みんな、こんな状況だけど、俺はこの人たちを助けたいと思う、この人たちが言っているのは全部ほんとに聞こえる、帰ろうにも帰れないみたいだし、どうやら俺たちには特別な力もあるらしい、なら、今はこの状況を打破するためにも、今は協力して戦おう!!」
お、いいこと言った。
・・・まあ、こいつらの言葉がほんとのことっていうのには、引っかかるところがあるがな
セイヤの人気は、こういうところでも発揮された。
さっきまで絶望で沈んでいた表情が少し明るくなり、決意の瞳に変わった
そしてすぐにケンヤが立ち上がる
「へっ、やっぱりセイヤはすげえな、もちろん俺もついていくぜ」
「わーい、私もやるー!」
「こらミカ、あまりはしゃがないで、セイヤ君、私もやってみるわ」
そのカリスマ性に救いを求めるものも多く、何人もの生徒がセイヤに集まり、女子たちはセイヤをおっとり見つめている
おお、リア充集団が大いに盛り上がっている!
目立ちたくない俺としては、セイヤの主人公力は大いに助かる。
「うおお!!やってやるぞ!俺、世界救っちゃうぞ!!」
「いや、国だから・・・てか、魔力だろ!俺、どんな魔力なんだろ!!」
先ほどまでのお通夜ムードとは打って変わって、異世界の非日常にすっかりお祭り状態だ
よし、ここは俺も一般生徒らしく盛り上がっとくか!
「セイヤばんざーい!!!」
・・・何人かの女子にひややかな視線を送られた。
俺としてはセイヤとも仲良くなりたい。
いつもクラスの中心にいてみんなが楽しめるように誘導する、暗殺者になって目立った学園生活が送れなかった俺からしたら、セイヤはまさに憧れだ。
失敗したな、と思いながら俺もセイヤに近づくとそれに気づいたセイヤが、少し離れたところにいるナツキに話しかける
「・・・ナツキ、君もついてきてくれるよね」
「え?」
そこでちらっと俺も見る
それを知らんふりをして顔をそむける
「えっとー、まあ?」
「そうか、ありがとう」
セイヤは次に俺を見る
「ナツキはついてくるみたいだけど、カイトはどうするんだ?」
ん?なんでここで俺なんだ?
「もちろんついていくぜ」
「・・・そうか」
その時、セイヤが少しいやそうな顔をしたのは、見なかったことにしようと思う。