プロローグ~世界最強の暗殺者~
「おい、侵入者はまだみつからんのか!!」
「赤外線のトラップに熱感知、いずれも反応ありません!」
構成員2万人を超える大犯罪組織のアジトは未曽有の事態に陥っていた
これまでもこの組織のボスである俺を狙った暗殺者は何人もきた、しかし・・・
「だ、だめです!通気口や地下にも人影はおろか、痕跡すら見つかりません!」
「死ぬ気で探せと言っとるだろう!報告などあとでいい!!」
今回の暗殺者はなにか違う!!
このアジトのセキュリティは現代の科学の中でもかなり優れている、そこいらの軍事組織よりも厳重なはずなんだ、俺が殺されることは、絶対ない!!
その時、入り口の警報から音が鳴り、侵入者の場所を知らせた
「くっ、お前らも行け!絶対に殺せ!」
「し、しかし、捕えなくてよろしいのですか?」
「構わん!!」
殺し屋や暗殺者は、相手組織の情報を持っていることが少ない、もちろん捕まると情報を吐かせられるから、というのは、二流組織の考え、大きい組織になればなるほど潜入するものに多くの情報を与える
理由は任務以上のことをしてもらうためだ、暗殺が成功しても、状況によってはそれ以上のことを指示し、動いてもらう必要がある際、味方の情報をしらなくては正確な判断ができないからだ。
組織というものは、暗殺者にそこまでを求める。そのためにはどんな状況をも打破する戦闘技術が必要であり、誰よりも優れていなければならない
ゆえに、どんな兵隊よりも重要で最強なのだ。
部下たちを5人残しあとは警備に向かわせる
くそ、どうしてこうなった!
アジトの入り口に人影が見えて、見に行かせた部下が全員殺された。
その後、おそらくアジトに侵入され、警報が鳴ったがアジト内をいくら捜索しても侵入者を発見することはできない。
「な、なぜだ」
ドサリ!
ん?
なにか重いものが落ちる音、それも複数の
「ふう、
5人くらいなら楽勝だね」
戦慄。
見渡すと、部下の頭が地面に転がっている。
それも一人じゃない、全員のっ!
恐ろしさがこみあげてくる、呼吸が荒くなり、体が硬直していくのが分かる
「な、なぜもうここに・・・いや、なぜ部下の頭が・・!」
暗殺者の顔は黒いフードで見えないが、そこにいるのに、まるで気配がない!
「なぜなんて考える必要はない」
黒いスーツを着た影は、腰からスルリと短刀を抜く
「お前の命はここまでだ。」
何度も、殺し屋や暗殺者と対峙したことがある
そしてそのすべてを潜り抜けてきた、それは俺がどんな時であろうと冷静でいられたからだ。
たかが、一人の暗殺者が目の前にいる、それだけのはずなのに
どうして体が動かない!!
「くっ!」
震える手で懐から銃を取り出し銃口を向ける、しかし
そこにはもう人影はおろか、姿すらなかった
「え?」
「遅い」
血しぶきとともに、黒い影はその場から消えた
++++++++++++
「お帰りなさい」
「依頼完了したよ、帰ろう」
「ええ」
アジトから出ると、助手のナツキが待っていた
俺はフリーの暗殺者だが、唯一助手として向かい入れたのがナツキだ、出会ったのは数年まえだが、それ以来殺しの依頼が入ったときは助手として活躍してくれている
今回の作戦も、ナツキのかく乱がなければもっと難しい依頼になっていただろう
「とりあえず、これで殺しの依頼は終わりだよね?」
「そうね、もう組織からの依頼は来ないはずよ」
「そっか・・・」
初めて人を殺してからもうずいぶんと時間がたった。
「俺、この仕事やっててよかったって思えるのは、ナツキに会えたことくらいだった」
「私はあなたの暗殺の助けになれていたかしら」
「それはもちろんだけど、人として、ナツキに会えたのがうれしいんだよ、俺にとっては一番大切な人だから」
「え!?」
ナツキは耳まで顔を真っ赤に赤らめるとそっぽを向いてしまった
「そ、それより、報告しなくていいの?」
「ああ、そうだったね」
最後の任務完了の報告を終えて、ナツキと帰路につく、ふと上を見上げると、夜空には無数の星々が輝いていた、・・・ん?夜?
重要なことを思い出してしまった
「あ!宿題やってない!」
「ふふ、提出は明日よ、今からやって間にあうのかしらね」
「ええ!、ナツキはいつの間にやってたんだよ?」
「あなたの暗殺を待っているときに決まっているじゃない、追手を殺した後暇だったし」
「な、なんてやつ」
あの状況でよく冷静に学校の宿題ができたな、なんか揺動の役割にしては荷物が多いと思ってたら、教科書とノートかよ!
「頼む、宿題見せてくれ」
「はあ、まったく今日だけよ」
おお!いつもは簡単に見せてくれないナツキがすんなりと!
「その、あの言葉、う、うれしかったし」
「ん?なに?」
「な、なにもないわ」
その後、俺たちは普通にタクシーで帰った。
++++++++++++
「任務成功の報告だ」
「な、なんと!あの大物をたった二人で仕留めるとは・・・」
会議室がざわつく、それもそうだ、今回の獲物はそれほど大きな獲物だった、今まで何人もの刺客を送ったが、ことごとく失敗、それだけならいいものの、こっちの情報をかなり取られることもあった
素性もほとんどわからず、この業界では暗殺不可能とすら言われていた。
それを、依頼した次の日にやってのけるとは
「これで、彼の借金は全額返金されました、これ以上彼に暗殺の依頼は出せませんね」
「ふ、ふざけるな、あんな超一流の殺し屋だぞ!手放すわけなかろう!!」
周りからもそうだ!という声が上がる
「ならば、誰が彼に任務を強制できますか?彼に殺されない自信がおありなら結構ですが」
その言葉で、彼のこの組織からの完全な離脱が決定した
+++++++++++++++++
「ふう」
50階建ての構想ビルの屋上で、彼の子尾を思い出す
彼の父親は殺し屋だった、しかし、自分から進んでそうなったわけではなく、闇金の借金による強制だ。
そして、もともとはただのサラリーマンだった彼の父に暗殺が向いているはずもなく、彼の父は2回目の仕事で簡単につかまり、そして殺された。
母親は彼が生まれてすぐ死んでおり、その借金は彼に回ってきた、まだ中学生だった彼に組織は暗殺を命じた。もちろん、成功するとは思われていなかった、運が良ければ殺して、そのままつかまって殺されるだろうと。しかし、彼には才能があった。
いや、才能という言葉では決してかたずけられない天性のなにか。
組織の幹部は彼を大いに気に入り、様々な訓練を行わせた、過酷な訓練は彼をさらに進化させることになる。
まず、初めに組織で最強と言われていた兵士の一人が、組手で簡単に負けるようになった
暗殺に関しては依頼した翌日に、そして確実に成功するようになった。
組織は、暗殺によりどんどんと成長していったが、私は気が気でなかった。
目の前に我々を簡単に殺せる男がいるのだ。
私は、彼が訓練でアジトを訪れた際に、思い切って聞いた
「ど、どうして俺たちを殺さない、今の君なら、俺を、いや、この組織ごとつぶせるはずだ」
と、
彼は暗殺者として任務を行っているとき以外は、じつに穏やかで、学校では人間関係を大切にしていると聞く
そして彼は言った
「父があんたたちに金を借りていたのは事実だ、それに、結構充実してるんだ、学校にも行かせてもらってるし、こいつとも出会えたしね」
そう言って彼は、任務の時に出会ったという彼女を指さす
彼女はある組織で奴隷のように扱われていたところを、彼に救われたそうだ、敵の組織にいたものを簡単にアジトに入れるなんて考えられないのだが、もう彼に文句を言えるものはいなかった
彼女にも才能があった、現在17歳とは思えない美貌と天才的な演技力により、潜入を得意とし、人の視線を集める才能は、搖動にも向いていた
それ以来、彼らはどの組織のどんな重役であろうと、暗殺を成功させていく、それに応じて、我々の組織は拡大していき、今では巨大犯罪組織として君臨している
そして、今日彼らは借金を返し終えた。
思い返すと、長いようで短い。
「茅野カイト・・・」
彼の名だ、そして、私はカイトがいなくなってほっとしている。
我々は、この世界に悪魔を誕生させてしまったのいかもしれない。
「ハア、どこか別の世界に行ってくれねえかな」
俺はそんなあるはずもない希望を口に出していた