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「よし、なんやかんや参加する神々から賛同も得られたし細かいところは今後のアプデに期待って事で始めるか」


「狂ってる……誰一人としてこれから酷い目に合うであろう迷える子羊達の心配してない……」


 色々あって、話が纏まり最高神は上機嫌。

 代わりに転移の女神は崩れ落ちたが。


「まー加護を与える相手は大事にすると思うぜ? 選ぶのチンタラしてると担当するのがワカサギになったりして勝利は絶望的になるだろうけど」


「最高神の地位に興味が無くてもそれは嫌ですね……あ、サクヤ君は私が頂いていきますね」


「はいダメぇ~! サクヤ君は最高神のですぅ~。ベータテストの時の加護を消さずにそのまま行くので奪う事はできません~」


「せこい、最高神なのにせこい」


 というか、一人だけフライングしている事にならないだろうか。

 スライム一匹分程度は誤差だからいいのか?


「てかお前さん転移の女神なんだから異世界から強そうなの召喚すれば?」


「え? それアリなんですか?」


「アリだぞ。てか制限はあるけどその神特有のチート有りじゃないと皆似たり寄ったりになるじゃん」


「でもそれだと最初から能力に差が出てきちゃいませんか? 最高神とトイレの神じゃ相手にならないですよね?」


「出てくるだろうけど、別に平等である必要なくね? あと、最高神とトイレの神を並べる必要も無いよね? 何で並べたし」


「神種差別はいけませんよ。……でもそれがアリなら私の独壇場ですね」


 この前、送り込んだ勇者が敢え無く撃沈させられた魔界の王とかどうだろうか。

 異世界は平和になるし、転移の女神は優勝確実。win-winである。


「あ、こっちの世界に居ない生物は持ち込むなよ? プレイヤーは悪魔でこの世界の住人だから」


「えー……魔物を解き放つ時点で今更じゃないですか」


「てか下手なもん召喚するとプレイヤーに銃火器無効バリアーは張らないから下手したら核でドカンされるぞ。仮に魔族とか召喚したら予定してる加護も付与出来ないだろうし」


「あー……なら普通に強い人間とかの方が平和ですねぇ……」


「現人神に近い勇者も駄目だぞ」


「それはこっちに呼び寄せると向こうの世界がヤバくなるのでしませんよ。普通に無為に散る運命にある若き英雄とかにします」


「それでも十分すぎる程にチートだからな。どうせ言語の壁も飛び越えさせるんだろ?」


「誰一人として言葉の通じない所に放りだすとか流石に無いですって。言語理解を付与しても別にいいですよね?」


「まー今日本にいる動物って事で日本国籍じゃない奴も参加する事になるし、日本語出来ない奴には同じ措置しないと面倒そうだからアリで良いと思うわ。……その辺は加護を付与する神の格にもよるだろうが」


「あ、その辺にも差が出てくるんですね」


「最悪、それ位は最高神がサービスしても良いけど。まあやってみてだな」


「その辺はゲーム通貨で購入可能とかにしてもいいのでは? 用意してるんですね?」


「……意外に乗り気だよな、転移の女神」


 準備は滞りなく進む。




 ◆




「あ、そうそう。召喚するならゲーム開始前に済ませとけよ? 途中参加が許されるのは開始以降に日本で生まれた奴だけだからな」


「そうなんですか? まあ話は通してあるので後は座標指定して転移させるだけなんで問題はありませんが」


「へ? 事情説明してオッケー貰ったのか? てっきり相手の意思を尊重せず問答無用で拉致、召喚するもんなのかと」


「それはさっきから最高神様が言ってる召喚を司ってる女神がよくやる手口ですね」


「え……それも別ものなん?」


「そうなんですよ。私と違って時系列や因果律の操作もしないから神隠しとか、行方不明とか言われる案件が発生する事態は大体あの人の仕業なんですけど被害者の方々からすればどっちも同じ神な訳で、とばっちり食らう事も屡々で……」


 本当、迷惑なんですよねぇ……とため息を零す転移の女神に最高神は唖然として返す。


「それ、最早邪神じゃねぇ? 最高神の出した不干渉指示も守ってないよね?」


「だから行動する度に力を失っていく雑魚神なんですけど、魔法と縁遠いせいで位階の低いこの世界の人間位しか召喚出来ないんだからしょうがないじゃんと開き直ってますね。召喚するだけで元の世界に返す事も出来ないので力を得た被害者の方々に殺されかけて存在を保つのもギリギリだった筈……」


「しょうがないじゃねーよ。むしろ最高神がぶっ殺してやろうか」


「アフターケアというか、私が気付いたらちゃんと元の世界に帰したりしてますよ。事情説明して、ご迷惑をおかけしましたって謝罪もして。……ただ、如何せん人の寿命は短いですから手遅れな場合も多くて」


「いやそれは偉いがまず最高神に言えよ。……取り敢えず早々にブッコロリして代替わりさせるか、思考回路が上位者に相応しく無さ過ぎだろ」


「スタンス的には全部の神がどっこいだと思いますけどね、一個人の不幸とか気にしてる神の方が稀ですよ」


 最高神が指を鳴らすと、世界が揺れる。

 恐らく今ので召喚の女神が死んだのだろうと予想されるが、その後には生まれたての召喚を司る神が誕生しているだろうし特に驚くような事でもない。

 神の代替わりとは、最高神を除いてこういうものだ。

 精神的に問題が出てくれば生まれ変わらせて一新する。

 こういう事務的な死が生物を蔑ろにしがちな価値観に繋がってくるのではと転移の女神は思うのだが、神を生物として捉えて言うならば『そういう生物である』のだからどうしようもない。

 交尾とかは完全に趣味の領域である、子孫繁栄には欠片も繋がらないのでしたい奴はするが、興味のない奴は一生関わる事も無い。


「ところで転移の女神はどんな奴にしたんだ? 無為に散る運命にある若き英雄だっけ?」


「シェイラ・エスター・アルナイル、二〇歳。この若さで幾多の戦果を積み重ね、侯爵家の出であるにも関わらず、女性である事を理由に冷遇されてた豪傑です。戦場においては家宝であったオリハルコン製の全身鎧を身に纏い、巨大なバトルアックスを二刀流でぶん回して敵を蹂躙し、敵からは『鋼の巨人』の異名で恐れられてました」


「へー。巨人って言うからにはデカいのか?」


「女性にしてはって程度じゃないでしょうか、胸はデカいですけど。多分彼女の放つ威圧感とかそういうのがデカく見せていたのではないかと。……あ、因みに魔法も使えますよ」


「むしろ何故冷遇されていたのか。典型的な男尊女卑? まーありがちだけど」


「まあ、お国柄ですよね。彼女は信仰心も高かったので降臨してお願いしたら一発オーケーでした。因みに、運命的な話をすると彼女という英雄が抜けた事であの国の寿命は残り一桁まで縮みました。彼女が居なければ潜り抜けられない困難がこれから七個程起こる事で国力を落とし、そのまま滅ぼされる感じですね」


「え、一人抜けただけで国が転ぶのか」


「……? それが英雄ですよ? 勇者みたいに存在が超常現象って訳じゃないですけど、人間社会という括りの中なら良くも悪くも間違いなく大きな影響を齎すから英雄なんです。究極(メタ)的な話をすると、戦争とか人同士の戦いなら友好的な英雄の数が一番多い国が勝ちます」


「うん、何だかんだ言ってお前も神なんだなぁ……」


「女神ですよ? 何を今更」


 人の扱い云々言っていた転移の女神が自分の行動の結果で寿命を大きく縮めたであろう国の話をしているにも関わらず、全く心が動かない虚無な眼差しを向けて来て最高神は引き気味だがそのリアクションこそ訳が分からないと転移の女神は言葉を続ける。


「別に国が亡ぼうが人全体の戦死者数という観点から見れば誤差でしかないですよ。ついでに言うなら、これから不幸になる人間が変わるだけです。私からすれば彼女を取ったら欠片も見所が無い国が亡ぶ側に回っても別にって感じになるのは仕方ないと思うんですけど。他人事ですし」


「いや、自分の行動の結果そうなるのに他人事っていうのは……まあその英雄殿が拒否しなかった時点で自業自得な面もあるんだろうから最高神は何も言わないけどさ」


 古今東西、神の気紛れで生きとし生ける者達の生き死にが決まるのはよくある事。

 正義であると断じて行われる事であるが、神々に召喚された勇者が魔王を打倒するのだってそれに含まれるだろうし神が人を見初めるなんて話も普通に有り得る。恋心ではないが、最高神だってサクヤに関心を抱いている。

 それによって本来こうある筈だった運命が変わるなんていうのはザラだ。

 先程最高神が指パッチン一つで絶やした召喚の女神だって、禁則を破ったから滅ぼしたのであって神隠し自体にはとやかく言えるほど最高神も潔白じゃない。


「んじゃーさっさと召喚……じゃないな、転移させちゃいなよ。明日スタートやぞ」


 最高神は興味が無くなったのかテレビを付ける。

 映し出されたのはサクヤだ、また通学中を狙ったのか筋骨隆々の大男と一緒にテクテク歩いている。


「そうです……ね? ……あの、見間違いじゃなければサクヤ君の隣、何かいませんか?」


「いるぞ」


 服装はサクヤと同じ学生服であろうがそいつは二メートル近い巨体で、学生服が張り裂けないのが疑問な位に服の上からその化け物染みた肉体が浮かび上がり、癖の強いロン毛から覗かせる眼差しはどう見ても堅気ではない、というか顔つきからして高校生ではない。

 その歩き方には一切の隙が無く、今この瞬間に凶器を振り回す暴漢に襲われても一瞬で無力化出来るであろう風格がある。


「な、何ですかあのモンスターは!?」


覇刃鬼(はばき)我颯(がりゅう)。サクヤ君のフレンズで、裏闘技場の拳闘士の何処にでも居る高校生だな」


「何処に居るんですかねぇそんな高校生! というか明らかに世界観が違うんですけど!? ビジュアルが完全に週刊少年チャンピョンの住人じゃないですか!」


「そんなん言ったらサクヤ君はゴロゴロやぞ。ジャップにもなれない彼の気持ちになって発言したまえよ」


「そんなのどうすりゃいいんですかねぇ! 私にはどうしようもないと思うですけどねぇ!」


 転移の女神は動揺するとツッコミが荒くなるなぁとか最高神は思ったが、それは口に出さなかった。


「てか転移させなくて良いの?」


「させますけれども! 今すぐじゃなくて良いんじゃないですかねぇ! てかあれもアナタが何かしたんじゃないんですか!?」


「何もしてないから転移を終わらせるべきじゃなかろうか」


「いやそこは何かしてなきゃ説明付かないんですけど!?」


「いいから転移させろし。最高神は英雄って存在にちょっと興味があったりするんだよ」


 戦争とか生存競争とか、そういうのは世界を生み出せな当たり前にありふれるものだ。

 故に個人が存在するだけで勝敗が直結するような強い運命を携えた存在が居たなんて最高神は知らなかった、というか争いが当たり前すぎて興味が沸かず、気にも留めてなかった。

 目の前の転移の女神はその性質上知生体……まあ人間に類似する生物と密接なせいかその辺の細かい違いに詳しい。実際に実物を見てみれば違いが分かるかもしれないし、最高神は取り敢えず一目見て見たかった。


「あぁもう――これで良いんでしょう!?」



『ふぎゃ!?』


 テレビ画面の向こうから、カエルが踏みつけにされたような悲鳴が上がる。


「えっ」


「えっ」


 見れば、サクヤが巨大なフルプレートメイルにボディプレスを食らっていた。

 誰がどう見ても伸し掛かられて大丈夫ではない重量がサクヤを襲っている形だ。


「おい……?」


「……テレビを見ながらだったので、座標を間違えました。サクヤ君の二メートル上空に転移させてしまったみたいです」


「お、お前、これ、間違ったじゃ済まんだろ!」


 フルプレートメイルを身に纏った人間は、最低でも百キロを超えるだろう。

 そんな鉄塊が降ってくれば、どうなるか。

 普通に死ぬ。

 なんならコンクリートが割れる事も普通に有りえる。

 最高神が神の奇跡も止む無しかと思っていると……。



『お、親方……空から女の子、が。――ガクゥ』


「いやこれ、結構余裕がある奴のリアクションじゃないですか!?」


「あ、一応レベルが上がってるから多少はタフになってるんだったか……てか落ちて来たの全身鎧なんだけど。どうやって性別判別してんだ?」


 ある意味ブレない様を見せるサクヤを最高神もあきれた様子で眺める。

 これから降り掛かるだろう苦難も、こんな調子で乗り越えて行くのだと確信しながら。


 ゲーム開始は、もう間もなくである。

次回から本編。

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