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|ω・`)

「ロープレって、面白くね?」


 世界を統べる、とある最高神が言った。

 畳に寝そべり携帯ゲーム機から目を離す事無く発せられるその言葉には致命的なまでに威厳が欠落しているが、それに対して異を唱えられる存在はこの世にいない。


「は?」


 神の住居とは思えぬ簡素な昭和を彷彿とさせる和風様式の部屋で、ちゃぶ台を挟んで湯飲みにお茶を注いでいた背に翼を持つ女性は思わずといった風に声を上げる。


「ロープレだよロープレ。あ、営業研修の事じゃねーぞ、ロールプレイングゲームな」


「は、はぁ……」


「人間って面白い事考えるよなー。ちょっと前にウホウホやってると思ったら最高神にも楽しい玩具を作るんだから」


「何で知生体に進化した事を褒めずに発想力を褒めてるんですか……」


「だってそれは想定の範囲内だもーん。てかむしろそっちは想定を下回ってるし。何で知生体が人間のみやねん、猿だけじゃなくて犬猫魚ももっと頑張れやと最高神は言いたいね」


「頑張れって……これからですか? このままだとそこに至った辺りで世界が終了しそうな気もしますが」


「それな」


 生存競争を生き抜くうえでそこまで大々的な進化を必要としない人間一強の現代では、知生体まで進化するのに千万年じゃ足りないどころか、ここで打ち止めの可能性まである。

 それに加えて人間が事実上の『ちきゅうはかいばくだん』のスイッチを持っているというのも問題だ、なんなら星が寿命を迎える前にぶっ殺される可能性が高い、地球以外に住める星を見つけてしまったならその引き金は選択肢の一つとして数えられるレベルまで軽くなるだろう。

 故に、という訳ではないが目まぐるしい進化はここで打ち止め、多少の変化はあるだろうが犬や猫が本当の意味で人の隣に立つ日は来ないだろう。なんならロボットが台頭してくる可能性の方が高いまである。

 なんなら、恐竜同様人間が滅ばないと駄目じゃないか。


「進化の妨げになるからってんで、世界への干渉は控えてたけどもうよくね? 良いよね?」


「――何をする気ですか?」


「わー最高神が絶対碌な事しないって確信した顔してるぜ」


 期待に応えちゃうぞ、なんて嘯く最高神に翼を持つ女性は無言で続きを促す。


「ずばり、世界のロープレ化だ。モンスターとか創ってばら撒いちゃうぞ」


「馬鹿ですか?」


 端的な罵倒が最高神を襲う!

 しかし、最高神は躱した!


「いやいや、進化を促すなら刺激が……じゃなくて明確な危機的状況が必要なのは歴史を見れば明らかだろう? 正直、人間同士を争わせたところで百年かそこ等もあればある程度は沈下しちゃう生存競争じゃ進化なんて促せないんだし、脅威はやっぱり必要だよね」


「そんな事をしても星の寿命を縮めるだけでは? その脅威の度合いによっては安易に核ミサイルが用いられる時代が来そうですが」


「だからテコ入れもちゃんとするよ、その為のロープレなんだって」


「……まさか、人間自体に手を加えるつもりですか? 幾ら最高神(アナタ)と言えども信仰心が薄れて弱体化しているような状態でそんな無茶をすれば消滅してしまいますよ」


 信じる者は救われる、とはどこぞの宗教家の言葉であっただろうか。

 そういう時代、言ってしまえば神々の干渉が起こりうるご時世は確かに存在したが、自然な進化を促す為に、最高神は上位存在からの干渉を禁じた。

 それによる弊害は、信仰心の低下による神力の低下である。

 力の強弱で話を付ける時代は終わったので、ぶっちゃけその辺は気にしなくてよくね? 逆に力の低下で困る神ってどの位いんのよ? と当時の最高神は尋ねれば、他の神々はまあ確かにと同調する。

 それこそ、天災をその世界の存在だけで乗り越えてくれるなら後は見てるだけで良いのだから力が落ちても問題ない。ぶっちゃけ信仰心とか力の強弱が変わるだけだし使わなくていいならいらないよね、と。

 まあそんなこんなで全盛期と比べれば力は落ちている訳だがそこは腐っても最高神、高々一種族に干渉した程度じゃ消滅なんかしないだろうし――――。


「その辺は最高神もちゃんと考えてるよ」


 体を起こして向かい合った翼を持つ女性を見る最高神の目には自分の提案への自信が漲っている。

 不安しかなかった。


「まず、対象は人間だけじゃなくて動物全体、人間だけ特別視する理由もないしね。だけど脳味噌小さすぎな虫とか植物は除外。んで、行うのは改変ではなく加護の付与。この時点で負担の軽減という意味じゃもう余裕のヨッちゃんだね仮に虫と植物を含めても余裕」


「加護……あぁ~、そんなのもありましたね」


「この世界じゃ全体的に人間に与える事が多かったけど、聖人とか聖女とか魔女とか呼ばれたりして加護のせいで逆に不幸になった奴が多すぎて加護っつーか呪いみたくなって神々の黒歴史になったアレだ。流石に大多数が加護持ちになれば迫害もされんだろ。力も最低限にする予定だし」


「それで、努力次第で色々出来る様にする訳ですか?」


「そゆこと。まー魔物ぶっ殺したらレベルアップとか分かりやすいので良いでしょ。それに応じて肉体に作用する系の加護にして重火器じゃかすり傷一つ付けれない魔物用意して最終的に他の生物にも通じなくなったら核もなくなるんじゃね?」


 最終的には鉄砲じゃかすり傷一つ付かない存在で溢れかえるなら、確かにそれもあり得るだろう。


「んで、負担を分担する方法も考えた。これ、次代最高神を決める代理戦争にしちゃおうぜ」


「は?」


「加護を与えるのは一柱につき一人、死んだら次の存在に加護を与えるって感じで。クリア条件を決めてそれを一番最初に勝ち取った存在に加護を与えていた奴が次の最高神な。最高神も参加するよ」


「ま、待ってください。次の最高神を決めるってそんな急に……それに我々ってそこまで数はいないでしょう!?」


「最高神も把握してないけど現在進行形で増えてるし居るだろ。八百万の神とかマジ無数に居るからな」


「そ、そうなんですか?」


「てか最高神から言わせるとお前が謎過ぎる。なんやねん転移の女神って。転生とかとは別枠なの?」


「や、それは私に言われても。異世界に英雄を送り込む的なのが主な仕事ですかね? 因みに転生の神もいますよ、後輩です」


「どういう事なの……」


 翼を持つ女性、転移の女神自身もあんまり必要性が分かっていない。

 後輩の転生の神の仕事は時に間違ったフリして、時に絶対的な上位者のフリして、人間を唆して世界を救わせたり発展を促したりするのである。魂の餞別は上司がするので結構作業が単調で飽きて来たのが最近の悩みであると言っていた。

 転移の女神はエリートなので送り出す存在も自分で選べるのでやりがいはそこそこある。

 ただ能力と性格が比例しない事や、環境の変化に耐えきれず闇落ちする人もいるので結構大変なのだ。


「というかそれ以前に、突然怪物を世界に解き放って敢え無く絶滅とかしたらどうするんですか?」


「え? 大丈夫じゃない?」


「でも現在主流の武器は使用不可にするんですよね? 人間は数が多いから絶滅する前に何かしらアクションを起こすかもしれませんが、他の種族が巻き添えを食らうかも」


「んー……ヘルプは用意するし、使用禁止を分かりやすくする為にバリア的なので完全無効にするつもりだけど……じゃあ試してみようか」


「試す?」


「うん、サクヤ君で」


「誰ですかサクヤ君」


 最高神がブラウン管テレビをリモコンで付けると、そこに映るのは学生服の少年。

 一角獣の様なツンツン頭で、携帯ゲーム機から目を離す事無く住宅街をトコトコ歩いている。


黒木(くろき)朔也(さくや)君、十五歳。今年高校に進学した何処にでもいるゲーム好きの男の子、最近の最高神のゲーム友達だな。ネットで知り合った」


「アナタは何してんですかねぇ!」


「いやサクヤ君マジ楽しい奴だから。正体打ち明けて神の奇跡を体感させても最高神の事を鼻で笑う奴だから」


「うおぉぉぉい! 不干渉は何処に行ったんですか!」


「まーまーまー、サクヤ君にしかしてないからセーフって事で」


 段々自分への態度に遠慮が無くなっていく転生の女神を見て良い調子だと頷きながら、軽く流して話を進める。


「今からサクヤ君に先行して加護を付与してモンスターを配置して反応を見てみよう」


「反応って……普通逃げますよ。加護を与えるって言ってもレベルを上げなきゃ変化は無いんですよね?」


「じゃ、ビジュアル的にあんまし怖くない奴で」


 最高神が指を鳴らすと、サクヤが淡く光り、曲がり角を曲がった所でたった今召喚した魔物と遭遇する。


 >スライムが現れた!


「何かでましたよ!?」


「そりゃテキスト位出るじゃろ、ロープレやぞ」


「ていうか……あれは何ですか!? スライム……スライム!? 無機物じゃないですか、何でそんな生態系ぶち壊しそうな謎生物を生み出したんですか!?」


「ロープレだと結構王道だけど、生物としておかしいよな。身体がホウ砂と洗濯のりと水で出来てるし……目と口を付けて生物として概念的に何とか保たせたけどマジカルなアレで存在させてるから一時間おきには栄養摂取しないと形を保てず自壊する」


「そんな可哀想な存在をぶっ殺して進化を促す訳ですか。外道ですね」


「まーベータテストって事で……このままだと倒される前に自壊する可能性もあるから何とかしないといけないしな」


 とかなんとか言っている内に接触したサクヤはアクションを起こす。


『あ、横失礼しまーす』


 普通にスライムの横を抜けて通り過ぎて行った。


「え? 無視? 生物だと気付かなかったとか……? いや、でもお辞儀もしてるし」


「そう来ると思ったぜ……!」


「予想通りなんですか!?」


「だが甘い!」


 >スライムの『スラ・インパクト』。


『ふばまっ!』


 >サクヤに1のダメージ。


 普通に通り過ぎたサクヤをスライムの体当たりが強襲し、背中に破けない大きな水風船をぶつけられたような衝撃にエビぞりの様になってそのまま顔面ダイブ。

 ゲーム機庇って受け身を取れずにコンクリートで顔面をすりおろす。


「痛そう」

「痛そう」


 >スライムはポヨポヨしている。


 背中にアタックし、そのまま倒れ伏すサクヤに乗っかったままのスライムは踏みつけにする様に飛び跳ねるが、サイズ的にそれではダメージを与えられず、サクヤが顔面を抑えながら立ち上がるとそのまま地面に落っこちる。


「てかあんな痛そうなのにほぼノーダメージなんですか?」


「サクヤ君タフだから……」


「あ、仕様とかじゃなくて単純に個人差なんですね」


『なにすんじゃボケコラァァァァァァ!』


 スライムを敵と認識したらしいサクヤが雄叫びを上げながら足を振り上げる。

 勢いをつけたダイレクトシュートがスライムの体の芯を穿ち、さながらサッカーボールの様に吹っ飛んだスライムは外壁に叩きつけられる。


 >サクヤの攻撃。

 >スライムに7のダメージ。

 >スライムを倒した。


 HPを全損したスライムは煙のようにぽわんと消える。


「一撃ですね」


「あれー……流石にレベル0の一撃で瞬殺できる程弱くはしてなかったと思ったんだけど。回避力は低めでもそのやわらかぼでーで多少はタフな筈だったのに」


「それって事実上のサンドバッグじゃ……」


「ロープレだとスライムってそんな感じの扱いやぞ」


 形状の生き物らしからさと相成って一応反撃はするけどただの壁と大差ない扱いである。


 >サクヤに2の経験値。

 >サクヤのレベルが1に上がった!


「ここでファンファーレいれるか迷ってるんだけどどう思う?」


「もっと他に考えるべき事があると思います」


 >スライムが宝箱を落とした。


「……あの、最高神様?」


「これがこのロープレ要素の目玉な。内容はピンキリだけど魔物を倒したら絶対最高神製のアイテムドロップ」


 テレビ画面で、絶句するサクヤがドアップになる。


『馬鹿な……質量保存の法則はどうなってるんだ……!』


「いやそれは私も思いましたけどサクヤ君はもうちょっと別のところに驚きましょうよ」


「てかサクヤ君、打ち付けた顔面がもう完治してるんだけど。ギャグマンガ世界の住人かな?」


 宝箱は、スライムが落としたというには大きい、具体的にいえば三倍近くでかく、『らしい』宝箱だった。

 サクヤは恐る恐るといった風に宝箱に近づき、蓋を開ける。


 >サクヤは『んまい棒(スライム味)』を手に入れた。


 宝箱は中身を手に取ると同時に消える。


「何ですかあの不味そうな駄菓子は」


「食べもせずに不味そうとか言うなし、スライム味って銘打ってるけどサイダー味やぞ」


『不味い!』


「サクヤ君も躊躇しませんね!? 明らかに得体が知れない食べ物ですよ!?」


 ちょっと目を離した隙に、スライムが描かれた水色のパッケージを開けてパクリと行ってるサクヤ。

 時間的に開けて手に取った次の瞬間には口に運んでいる筈だ。


『んまい棒でサイダー味ってなんだよ、キモイわ』


 サクヤはぼやきつつ、残りも口の放り込み、パッケージを鞄の中から取り出したゴミ袋に入れるとまたゲームに視線を戻して歩き出してしまった。


『何がキモイって、んまい棒特有のパサついたスナック菓子から齎される炭酸特有のパチパチ感が呑み込みづらさを促進させ、そのせいで○○味と銘打ちながら味に殆ど大差ないんまい棒にサイダーの調和しない炭酸飲料水特融の甘みがいつまでも口の中で残り続けるのがキモイわ』


「サクヤ君は一体誰に感想を言ってるんですかねぇ!?」


 我々? いやいやサクヤ君に神々の声は届かない。

 となれば単なる独り言である、どんな独り言だというのか。


「やっぱスライム型のパッケージでラムネとかの方が良かったかな。でもそれだと二番煎じになりそうだしなー。やっぱ味でインパクト出した方が最高神的には面白いと思うんだけど……転移の女神はどう思う?」


「知りませんよ! 敵の強さで味のランクも決めたら良いんじゃねぇですかねぇ!」


「成程、強敵であればあるほど美味いもんが食えて、雑魚からはネタ物しか出ないと。食い物以外のラインナップにも応用できそうだしアリだな、採用」


「仮にドラゴンを倒してドロップしたのがガトーショコラとかだったら私はキレる自信がありますよ」


「その辺の匙加減はやりながらかなー……」


 というか、ドラゴン倒して出て来たのがガトーショコラだったらその時点でギャグ以外の何物でもないだろう、食材というカテゴリ内でチョイスするならドラゴンの肉の方が適切ではなかろうか。


「――と、まあこんな感じでやって行けば絶滅とまではならんやろ」


「サクヤ君を基準にするのは違くないですか?」


「……まあ、全世界同時は止めとくかな。範囲は日本領土内に限定して参加する神よりプレイヤーが少ない場合は神の力の強い順で参加して、以降は新しいプレイヤーが生まれ次第順次って感じにするか」


「あの小さい島国内で収めるならまあ……ちなみにサクヤ君がアメリカに居たらどうなってました?」


「そしたら舞台はU! S! A!」


「最高神様、ノリで生き過ぎです」


「ぶっちゃけ最高神の地位とかどーでも良いし。最高神、首になったらサクヤ君とゲームしながらぐーたら生きるわ」


「サクヤ君は人間ですから百年もしたら死んでますよ」


「そしたら天使でも使徒でもすればいいじゃーん。あ、死の神に今から話付けといたほうがいいかな」


「勝手にしたらいいんじゃないですかね……」


 転移の女神は考えるのをやめた。

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