第1章–過去の記憶– 一編 僕の家族だったモノ①
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ガリウス神皇国の北西に位置する神都と呼ばれるところに僕の家はあった。
都の中心の小高い所に高くそびえる真っ白なお城があり、そこを囲むように貴族街がある。
貴族街に入るには通行許可証なるものが必要らしく、ただの平民の僕たちが目にすることができるのは年に一度だ。新年を迎えると皇王祭祀様の挨拶があり、貴族街の近くの広場にも平民が入場するかとが認められている。その時にチラリと街の外観が見えるみたいだが、6歳の僕では身長が足りなくて見たことはない。
ただ、大人たちの羨むような眼差しが記憶に残っている。
僕の家は中心からかなり外れた南の方にあった。神都の中でも貧民街と揶揄され、煙たがれる場所だ。しかし表向きは神都の中、通りは綺麗に掃除してあるし、並ぶ家も立派ではないが生活するには問題ない。
何をもって貧民街と言うのか、理解できたのは数年後だった。
ここでは粗暴な飲んだくれの父といつから声を聞いていないのか分からないほど気弱な母と3人で暮らしていた。
「おい、レン。これで酒買ってこい。」
「...はい。」
酒で焼けたガラガラ声で命令される。いつものやりとりである。昼間は父しかいない。夜になると何処かへ行くみたいだがどこへ向かっているのかはわからない。母は昼間と夜ほとんどいない。朝になると少し寝てまた何処かへ出かけて行く。
家を出て少し歩くと酒屋が見えてくる。
「...まいど。」
もう数え切れないほど通ったこの酒屋の店主もいつも通りの無愛想な顔で酒を売っていた。銅貨数枚の安い酒ばかり買う僕が気に入らないのか早くどっか行けと睨んでいる。
そそくさと冬の寒い中、家路につく僕は薄い麻で織った気休めの外套の袖を合わせた。
「遅せぇ!早く酒もってこい!」
玄関を入るとからの酒瓶が飛んで来た。避けると拳が飛んでくるのは経験から学んでいた。肩に酒瓶が当たる鈍い痛みに顔をしかめながら新しく買った安酒を渡す。
「...はい。」
渡した後、僕は部屋の隅で丸くなる。父は飲む。いつも通りだ。
貧民街と呼ばれるこの場所では人間関係が希薄だ。同年代の友達もいないし、話す相手といえばこの呑んだくれている父が気分良く酒が極まった時に話す自慢話くらいか。
こんな生活を続けていると身につくのは不細工な愛想笑いと父の機嫌を損ねないように息を殺してただただ部屋と同化する処世術だけであった。