序章
閲覧ありがとうございます!
一人称で進めて行くので情報不足になるかも。
誤字等々ございましたらご報告ください。
「ねぇ!知ってる?この花はアスフォデルスって言うんだって!」
「...アスフォデルス?」
「そう!」
そう言う彼女、アイリスは高く昇った太陽の下で瞳に少しの翳りを見せながらも、満面の笑みを見せながら両手を広げ花畑を踊るように駆け回っていた。
「お爺様がおっしゃってたの!お父様とお母様もきっとこの花を愛でてるに違いないわ!」
天国に咲く花。アスフォデルス。
12歳の彼女の両親はもう、この世にはいないらしい。
半年前、冬の凍てつく雪混じりの風の中、この地を彷徨ってた時、彼女の祖父に半ば無理やり連れられ、なし崩しに暮らすようになった。その時に彼女の両親はもういないと言われたのを覚えている。
理由までは言われなかったので聞いていないが表情から察するに何かあったのだろう。
ここに来て半年経つが未だになぜ僕をここに置いたのかわからない。
そんな他愛もないことを考えながらアイリスを眺めていると
「そろそろ時間だわ!名残惜しいけど...お爺様も帰って来る頃だし、お昼にしましょう」
ほんのりと青み掛かった綺麗な銀髪を振り払い、僕の手を強引に引いて僕たち3人の暮らす家に向かった。
しばらく歩くとこぢんまりとしているが、3人で暮らすには十分なログハウスと木の柵で囲まれた家の庭には大きいとは言えないがそこそこの大きさの畑があり、夏を迎え、瑞々しく実った野菜が目立つ。
周りには広い森と鏡のように空を写した湖があり、爺さんはいつも暇があれば釣りをしている。
「ただいま!お爺様もう帰ってる?」
勢いよく開けたドアの向こうのテーブルに爺さんが座っているのが見えた。
60歳を過ぎ皺を刻んだ目元を優しげに細めながらこちらを見て
「おかえり、手を洗って来なさい。ご飯にしよう。」
それだけ言うと奥のキッチンに入り、香ばしい香りのするフィッシュパイを運んで来た。
きっと朝釣って来た魚で作ったのだろう。
僕とアイリスは並んで手を洗い終え、3人でテーブルを囲み、昼食の今ではもう当たり前になったお祈りのあと手をつけ始めた。
「 丘はどうだったかい?」
口数の少ない爺さんと僕の話を広げる役目はいつだってアイリスだ。
「とっても綺麗だったわ!
そうだ!明日にでもみんなでピクニックし ましょう?きっと楽しいと思うの!お爺様、レンどうかしら?」
僕の名前を言われ彼女を見ると、頬っぺたにホワイトソースが付いているのに気付き無性に微笑ましくなり笑いをこらえながら
「いいね、それは楽しそうだ」
とだけ答えた。そうとも楽しそうだ。あのアスフォデルスの咲く丘で、いつもの麦わら帽子を被りはしゃぐ彼女とそれを優しく見守る爺さんと、僕。お転婆な彼女の相手をするのはいつしか僕の役目になっていた。
爺さんは一つ上の兄弟ができたみたいで嬉しいのだろう、以前にも増して明るくなったと言っていたが、変わったのは彼女だけではない。僕自身が心から笑うことができると気づいたのはいつからだろう。
まだ半年しか経っていないが、この場所は、彼女と爺さんと暮らすこの場所は僕の世界の全てになっていた。
半年より前の地獄のような日々はもう、ない。