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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
96/122

試合後の祝福

「なんか異様に疲れましたね」

 試合が終わりベンチに戻って来ると、繭がへたり込むように、ベンチ前の地べたに座り込む。

「花乃町とやるといつもの三倍は体力消耗するんだ」

 野田が答える。チームで一、二を争う体力の持ち主の野田も疲れた表情をしている。見ると他の選手たちもみな一様に疲れ切っていた。

「それにしても繭」

 野田が繭を見る。

「えっ」

「お前すご過ぎだな」

「そうだよ」

 仲田も続いた。

「繭ちゃんすごいよ」

 かおりも言う。 

「お前はほんとすごい奴だよ」

 そして、野田が繭に飛び掛かる。

「わああっ」

 繭がのけぞる。と、次々と選手たちが野田に続いて繭に飛びつき、金城流の手荒い祝福で、みんなでこれでもかと繭を祝福する。

「わああ、やめてぇ~」

 繭は、みんなにもみくちゃにされ笑いながら叫ぶ。そんな繭をみんなぺしぺしと叩き、頭をぐしゃぐしゃにし、水をかけ、さらにもみくちゃにした。

「お前はすごい」

「お前は偉い」

「すごいよ繭ちゃん」

「すごいぞ」

 そして、みんな繭をこれでもかと讃えた。今日勝てたのは明らかに繭のおかげだった。手荒い祝福だったが、みんなから称賛され繭もうれしかった。

「ふぅ~」

 やっと、そんな手荒い祝福が終わり、繭は上体を起こす。

「ん?」

 そして、泥だらけになった体を起こし、立ち上がった時だった。繭はふと何か不穏なオーラを感じ、その方を見た。

「あっ」

「えっ」

 他の選手もその方を見る。

 見ると向こうから、花乃町の選手たちが徒党を組んで繭たちの方にどんどん近づいて来る。

「わっ、わわわっ」

 繭はビビる。その視線は明らかに繭一点を見つめていた。試合中から繭は花乃町の選手に目をつけられていた。しかも、後半は繭がやりたい放題ドリブルで切り裂きまくった。

「わっ、こっち来ますよ。どうしよう」

 繭は慌てふためき、周囲の選手たちを見回し、助けを求める。

「誰か」

 だが、みんな繭と目を合わそうとしない。それどころかさりげなく繭から離れていく。

「大丈夫だ。お前は何も悪いことはしていない」

 野田が言った。そして、野田も繭から離れていく。

「えええっ、ちょ、ちょっと」

 しかし、そんな理屈の通じそうな相手ではない。こういう時一番頼りになりそうな宮間は、トイレにでも行ったのか、どこかに行ってしまっていない。

 そして、あの繭に一番目をつけていた大柄な花乃町の選手が、一人立つ繭の目の前に立った。その後ろにはたくさんの花乃町の選手たちがいる。

「私、あの・・、なんか・・、ごめんなさい・・」

 繭は何も悪くないのに一人あやまる。

 目の前に立つ、その大柄な選手はものすごい威圧感だった。その選手が上から繭を見下ろす。

「わわっ」

 繭はビビりまくる。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

 繭はとにかくあやまりまくった。

「お前、うまいなぁ」

「えっ」

 だが、試合中、繭を執拗に睨みつけていたその選手は、めっちゃ気さくに繭に声をかけて来た。

「どうやったらそんなにうまくなるんだよ」

 別の選手もその脇から気さくに繭に話しかけてくる。

「えっ、ええ」

 予想外の突然の展開に繭は困惑する。

「あたしたちもめっちゃ練習してんだけどさ。なかなかうまくならねぇんだよ」

「そうそう、ほんとどうやったらそんなにうまくなるんだよ」

 その怖い見た目とは裏腹に、すごく気さくで、みんないい人だった。

「・・・」

 繭は呆然とする。花乃町の選手たちは実はめっちゃいい人たちだった。

「早く言ってよ・・」

 繭は一人呟いた。

「まっ、更生プログラムは成功したってことだな」

 花乃町の選手たちが去って行くと、いつの間にかまた繭の隣りにしれっと戻って来ていた野田が、繭の肩を叩きながら、訳知り顔で言った。

「意外といい奴らだったな」

 仲田も反対の方から繭の肩を叩く。

「・・・」

「さっ、帰ろうぜ」

 そして、野田が声を上げる。

「はい」

 それに同じようにしれっと戻って来ていた他の選手たちが答える。そして、何事もなかったみたいに、みんなは帰路へと歩き始める。

「・・・」

 繭は呆然とその背中を見つめた。

「あたしゃ、あんたたちの方が怖くなったよ・・」

 繭は、繭を置き去りにして逃げていたくせに何事もなかったみたいに、しれっと戻ってきているチームメイトのその背中に呟いた。

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