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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
95/122

無茶苦茶な指令

 金城は勢い込んで攻め上がる。流れは金城にあった。ボールも持てたし、奪われてもすぐに取り返すことができた。新しい選手も入り、動きも活性化していた。しかし、攻め込まれる動きの鈍った花乃町だったが、こういう時のサッカーの常として動けない分ゴール前に固まった。

 そんな花乃町に金城は容赦なくシュートを雨あられと打ちまくる。サッカーは分からない。ついさっきまでの展開から一転、金城がボコボコにするという一方的な、ワンサイドゲームになった。

 しかし、シュートは入らない。

「くそ~、なんで入らねぇんだよ」

 宮間が苛立ち、叫ぶ。

「宮間さん、そんなやたらめったら打っても入りませんよ」

 隣りで志穂がおずおずとたしなめる。

 短気な宮間は、遠目からでも、シュートが打てると思うとすぐに打ってしまう。

 しかし、だからといって、崩すのも難しい。ゴール前に固まられるとやはり厄介だった。体力は落ちているとはいえ、花乃町は球際やフィジカルはやはりまだまだ強い。ゴール前のいいところまで行っても、そこで跳ね返されてしまう。

「くそぉ~、高さがあればなぁ。かおり、かおりはどこだ」

 宮間は辺りを見回す。

「それはさっき仲田さんが試しましたよ。それにかおりちゃんはもう交代してピッチにいませんよ」

 志穂がまたおずおずと言う。

「くそぉ~、なんでかおり下げてんだよ。権蔵ぅ~」

「いやだから、かおりちゃんはヘディング全然だめでしたよ。ボール三個分は外れてました」

 志穂がさらに言う。

「繭」

 すると、宮間は繭を見た。宮間は志穂のツッコミなどまったく聞いていなかった。

「えっ」

 突然名前を呼ばれた繭は、驚いて宮間を見る。

「こうなりゃ、ドリブルだ。お前、何とかしろ」

「ええっ」

 繭は驚く。いきなりの無茶苦茶大雑把で、適当な指令だった。

「スルスルッと行って、パパパッと決めてこい」

「すんごい。大雑把・・汗」

 隣りで聞いている志穂も呆れる。

「相変わらず無茶だなぁ・・」

 しかし、ぼやきながらも、繭にはどこか自信があった。今なら、今の花乃町ならやれる気がしていた。何度かドリブルを試して、その感触は掴んでいた。ただチームプレーを意識して無茶はしなかっただけだった。

「よしっ」

 繭は両頬をパシパシと平手で叩くと、自分に気合いを入れた。

 そして、繭にボールが入る。繭は迷わずドリブルを始めた。早速ゴール前から花乃町の選手が一人が飛び出し繭に迫る。繭はそれを難なくかわす。そして、さらに中に入り次、そしてまた次と、花乃町の選手をかわし、あっという間にするするとペナルティーエリア内に入っていく。

「・・・」

 そして、みんな気づくと、ボールはゴールに入っていた。その場にいた全員が呆然とそのゴール内に転がるボールを見つめる。味方の選手たちでさえも呆然としている。

「・・・」

 宮間も呆然としていた。

 繭は宮間に言われた通り、 スルスルッと行って、パパパッとゴールを決めてしまった。

「すごい・・」

 ベンチでかおりが呆然と呟く。

「おおおっ」

 そして、時間差で観衆から歓声が上がる。それによって初めて味方の金城町の選手たちも我に返り、一点返したことに気づく。そして、遅れて選手やベンチから歓喜の声が上がった。

 だが、まだ、金城は負けていた。喜びもそこそこに、繭はすぐにゴールの中のボールに駆け寄り、手に取るとセンターサークルに走った。

 そして、試合が再開される。繭は再びペナルティーエリア近くでボールを持った。そして、再び相手ペナルティーエリア内に入っていく。花乃町の選手たちは一度やられているので、今度こそはといきり立っている。だが、繭は疲れている花乃町の選手に恐怖は感じなかった。

 繭は出口を知っているコマネズミが、複雑な迷路をスルスルと迷いなく進んでいくように、相手選手で混みいったゴール前をすり抜けていく。   

 繭の両足を使った独特なリズムのドリブルに、花乃町の選手はついていけない。足がもつれるようにして、逆に花乃町の選手の方が次々バランスを崩していく。

「・・・」

 そして、また、ボールはネットに突き刺さっていた。また、時が止まったみたいに、その場にいるすべての人間が呆然とする。

「また、入った・・」

 宮間が呆然と呟いた。

 ついに追いついた金城だったが、まだ逆転したわけではない。繭は再びゴールの中のボールを拾うと、センターサークルに走った。

 そして、試合が再開されると、繭は再びボールを持った。花乃町の選手たちは、繭一人に得も言われぬ恐怖を感じていた。逆に繭は自信を深めている。そして、繭は再びドリブルを始めた。

「やったぁ~」

 金城のベンチメンバーが抱き合って歓喜の声を上げる。

 そして、再びボールはネットの中にあった。ついに金城は、試合終盤に逆転した。

 繭は宮間の無茶苦茶な指令をやり遂げてしまった。

「点て、こんなにかんたんに入るもんだっけ・・?」

 野田が呆然と呟く。

「ああ」

 その隣りで同じく呆然としてる仲田が、呆然と答える。

「あいつすご過ぎだな」

「ああ・・」

 ピッチにいる他の味方の選手たちも呆然としてる。逆転したが、みな喜ぶことすら忘れていた。

「繭ちゃんすごいですね。やっぱり」

 信子さんがそのたれた糸目を目いっぱい見開いて目を輝かせる。

「うん、やっぱり逸材だよ。彼女は」

 たかしも繭の圧巻のプレーに感嘆する。

「よく来てくれたよ。ほんとよく来てくれたよ。うちみたいな弱小チームに」

 たかしは感激のあまり涙ぐみ始める。

 そして、試合の最終版。ロスタイムに入ってから、ついでというように繭はもう一点追加した。花乃町の選手たちはもう、とめられない繭に何もできず、ただ、なされるがままに振り回されていた。

「やっぱ、あたしの作戦が当たったな」

 宮間がどや顔で腕を組む。

「えっ」

 隣りで志穂が驚き宮間を見る。

「あたしの作戦指示があったればこそだ」 

 宮間は、繭の活躍を自分の手柄みたいに言って、ほくそ笑む。

「あれは作戦なのか・・汗」

 志穂は、戸惑いながら頭の上に?マークを浮かべ、首を傾げた。

 繭の四得点が決勝点となり金城は勝った。

 後半、試合が終わる頃には恐ろしいほど花乃町は動けなくなっていた。金城は前半苦戦し、肉弾戦でかなりの消耗をしたが、だが、終わってみれば五対三と結果は快勝だった。

「勝ちましたね」

 信子さんがたかしを見る。

「うん。これで四連勝だよ。本当に強くなったなぁ」

 たかしは感慨深げに腕を組んだ。その目には、再び感激の涙が溢れ始めていた。


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