フェアプレー
お互いが、ただ傷つき、消耗だけをしてゆく、不毛な肉弾戦が続く。
「もっと上がれ、走れ走れ、もっと 戦わんかい」
だが、そこにさらに熊田が煽りを入れ叫ぶ。それによって、選手たちはさらに疲弊し、混沌としていく。
「殺す気か」
さすがに、一番ピッチのサイド側にいたサイドバックの野田が、熊田にキレる。
「こういう時は、選手を落ち着けるのがベンチの役目だろ」
「何ゆうちょる。戦う時は死ぬ気で戦うんじゃ」
「ほんとに死んだらどうすんだよ」
「ピッチで死ねたら本望じゃろ。心ゆくまで死んで来い」
「無茶苦茶言うな」
熊田とは、やはり、まともな会話が成立しなかった。
そして、当初、宮間と麗子の普段ではありえないタッグで、花乃町の勢いを押し返したものの、やはり、圧倒的にパワーで勝る花乃町に金城は押され始める。やはり、まともにぶつかっては金城は分が悪かった。
「やっぱり、強いですねぇ」
信子さんが呟く。
「うん・・」
たかしも心配そうに答える。
「こうなりゃ高さだ」
パワーでは適わないと、仲田が左サイドから、かおりの高い頭に合わせ、高めのクロスを入れる。
スカッ
しかし、今日もかおりは、見事とにヘディングを空振りした。
「み、見事な空振りだな・・汗」
「ええ・・汗」
たかしと信子さんが困惑気味に呟く。それは、ボール二つ分は外れた、ほれぼれするほどの見事な空振りだった。
ピーッ
と、そのすぐ後、ホイッスルが鳴った。花乃町のファールだった。
「いってぇな」
倒された宮間がキレる。
花乃町はラフプレーも多かった。力技で相手を圧倒しようとするあまり、強引なプレーで相手を倒してしまう。そのあまりの強引さに、金城の選手もつい熱くなる。というか宮間が熱くなる。そして、そのすぐ後のプレーで、宮間は自分がやられたような、後ろからのチャージで相手選手を倒した。当然だが、相手の悪質プレーがことの発端であっても、ファールをすれば笛が鳴った。試合が止まる。
ピーッ
宮間に主審からイエローカードが提示された。
「なんでだよ」
宮間が叫ぶ。しかし、報復と取られてレッドカードを提示されてもおかしくないプレーだった。むしろイエローで済んでよかったくらいだった。
「あいつらが先に仕掛けてきたんだろうが」
しかし、そんなまともな理屈で納得する宮間ではない。
「おかしいだろ」
宮間は叫ぶ。
「宮間さん、落ち着いて」
野田たちが、慌てて宮間の間に入って宮間を止めに入る。このまま抗議すればレッドもあり得る。去年宮間は年間を通して五回も退場している。イエローカードの数もチームで断トツ一位だった。
「あたしにイエロー出すなら、あいつらを退場にしろよ」
宮間の怒りは収まらない。相手選手たちを指さし叫びまくる。それに、反応して花乃町の選手たちも興奮してくる。両者ともにチームぐるみで一食触発の空気になってきた。
「まずいですね」
ベンチ前の信子さんが心配そうに呟く。
「うん」
たかしも不安気に見つめる。
「まず自分のファールをあやまれよ」
花乃町の選手たちが、宮間に詰め寄る。
「あやまるのはお前らだろ」
しかし、そんなことで素直に謝る宮間ではない。緊張はさらに高まっていく。もはや、乱闘は避けられないか、というところまで両者の間は緊迫していった。
「コラーっ、何やっちょる」
すると、そこに熊田が突然現れた。
「えっ?」
その場にいた主審も含め、選手たちは全員驚いた。
「何やっちょる」
熊田は怒鳴る。熊田はものすごく怒っている。花乃町の選手は、突如として現れたこの得体のしれない風体の男にビビる。
「何やってくれちょるんじゃ」
熊田のその怒鳴る勢いと迫力に、さらに花乃町の選手たちはビビる。
「サッカーはフェアプレー精神が何よりも大事じゃ」
だが、熊田は宮間に向かって怒鳴った。怒っていたのは、ファールをした宮間に対してだった。
「あたしかよ」
宮間が驚く。
「先輩はあれで意外と潔癖なところがあるんだ」
たかしが隣りの信子さんに解説する。
「そうなんですか・・汗」
信子さんは意外な事実に困惑気味に呟く。
「おまんフェアプレー舐めたらあかんぞ」
熊田は宮間に迫る。
「ピッチで死ねとか言っているお前に、フェアプレーとか言われたくねぇよ」
それには、ものすごい即答で横から野田がツッコむ。しかし、宮間はいきなり現れたこの新手の敵にタジタジになっていた。
ピーッ
その時、主審の笛が鳴った。みんな何事かと、主審を見る。
「あっ」
見ると、主審がレッドカードを手に持ち、熊田に提示していた。
「なんでじゃ」
熊田が驚く。
「なんでわしがレッドなんじゃ」
熊田は理解ができない。しかし、ピッチに入った熊田にレッドカードが提示されるのは、当たり前だった。
「わしはフェアプレー精神をじゃな」
しかし、女性主審はまったく動じる気配もない。
「わしのようなクリーンなジェントルマンがなんでレッドなんじゃ。おまん無茶苦茶じゃ」
熊田は猛抗議する。
「せ、先輩・・」
結局、執拗に抗議する熊田を、慌ててピッチに入ったたかしと信子さんとベンチメンバーが引きずるようにしてピッチ外に引っ張っていった。
「なんでわしが退場なんじゃぁ~」
引きずられながらも子どものように叫ぶ熊田が、ピッチの外へと遠ざかっていく。
「・・・汗」
それを、ピッチ上の選手たち全員が困惑気味に見つめる。
「なんなんだあいつは・・汗」
「ああ・・汗」
野田と仲田が、引きずられていくそんな熊田を見つめ呟いた。




