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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
93/122

フェアプレー

 お互いが、ただ傷つき、消耗だけをしてゆく、不毛な肉弾戦が続く。

「もっと上がれ、走れ走れ、もっと 戦わんかい」

 だが、そこにさらに熊田が煽りを入れ叫ぶ。それによって、選手たちはさらに疲弊し、混沌としていく。

「殺す気か」

 さすがに、一番ピッチのサイド側にいたサイドバックの野田が、熊田にキレる。

「こういう時は、選手を落ち着けるのがベンチの役目だろ」

「何ゆうちょる。戦う時は死ぬ気で戦うんじゃ」

「ほんとに死んだらどうすんだよ」

「ピッチで死ねたら本望じゃろ。心ゆくまで死んで来い」

「無茶苦茶言うな」

 熊田とは、やはり、まともな会話が成立しなかった。

 そして、当初、宮間と麗子の普段ではありえないタッグで、花乃町の勢いを押し返したものの、やはり、圧倒的にパワーで勝る花乃町に金城は押され始める。やはり、まともにぶつかっては金城は分が悪かった。

「やっぱり、強いですねぇ」

 信子さんが呟く。

「うん・・」

 たかしも心配そうに答える。

「こうなりゃ高さだ」

 パワーでは適わないと、仲田が左サイドから、かおりの高い頭に合わせ、高めのクロスを入れる。

 スカッ

 しかし、今日もかおりは、見事とにヘディングを空振りした。

「み、見事な空振りだな・・汗」

「ええ・・汗」

 たかしと信子さんが困惑気味に呟く。それは、ボール二つ分は外れた、ほれぼれするほどの見事な空振りだった。

 ピーッ

 と、そのすぐ後、ホイッスルが鳴った。花乃町のファールだった。

「いってぇな」

 倒された宮間がキレる。

 花乃町はラフプレーも多かった。力技で相手を圧倒しようとするあまり、強引なプレーで相手を倒してしまう。そのあまりの強引さに、金城の選手もつい熱くなる。というか宮間が熱くなる。そして、そのすぐ後のプレーで、宮間は自分がやられたような、後ろからのチャージで相手選手を倒した。当然だが、相手の悪質プレーがことの発端であっても、ファールをすれば笛が鳴った。試合が止まる。

 ピーッ

 宮間に主審からイエローカードが提示された。

「なんでだよ」

 宮間が叫ぶ。しかし、報復と取られてレッドカードを提示されてもおかしくないプレーだった。むしろイエローで済んでよかったくらいだった。

「あいつらが先に仕掛けてきたんだろうが」

 しかし、そんなまともな理屈で納得する宮間ではない。

「おかしいだろ」

 宮間は叫ぶ。

「宮間さん、落ち着いて」

 野田たちが、慌てて宮間の間に入って宮間を止めに入る。このまま抗議すればレッドもあり得る。去年宮間は年間を通して五回も退場している。イエローカードの数もチームで断トツ一位だった。

「あたしにイエロー出すなら、あいつらを退場にしろよ」

 宮間の怒りは収まらない。相手選手たちを指さし叫びまくる。それに、反応して花乃町の選手たちも興奮してくる。両者ともにチームぐるみで一食触発の空気になってきた。

「まずいですね」

 ベンチ前の信子さんが心配そうに呟く。

「うん」

 たかしも不安気に見つめる。

「まず自分のファールをあやまれよ」

 花乃町の選手たちが、宮間に詰め寄る。

「あやまるのはお前らだろ」

 しかし、そんなことで素直に謝る宮間ではない。緊張はさらに高まっていく。もはや、乱闘は避けられないか、というところまで両者の間は緊迫していった。

「コラーっ、何やっちょる」

 すると、そこに熊田が突然現れた。

「えっ?」

 その場にいた主審も含め、選手たちは全員驚いた。

「何やっちょる」

 熊田は怒鳴る。熊田はものすごく怒っている。花乃町の選手は、突如として現れたこの得体のしれない風体の男にビビる。

「何やってくれちょるんじゃ」

 熊田のその怒鳴る勢いと迫力に、さらに花乃町の選手たちはビビる。

「サッカーはフェアプレー精神が何よりも大事じゃ」

 だが、熊田は宮間に向かって怒鳴った。怒っていたのは、ファールをした宮間に対してだった。

「あたしかよ」

 宮間が驚く。

「先輩はあれで意外と潔癖なところがあるんだ」

 たかしが隣りの信子さんに解説する。

「そうなんですか・・汗」

 信子さんは意外な事実に困惑気味に呟く。

「おまんフェアプレー舐めたらあかんぞ」

 熊田は宮間に迫る。

「ピッチで死ねとか言っているお前に、フェアプレーとか言われたくねぇよ」

 それには、ものすごい即答で横から野田がツッコむ。しかし、宮間はいきなり現れたこの新手の敵にタジタジになっていた。

 ピーッ 

 その時、主審の笛が鳴った。みんな何事かと、主審を見る。

「あっ」

 見ると、主審がレッドカードを手に持ち、熊田に提示していた。

「なんでじゃ」

 熊田が驚く。

「なんでわしがレッドなんじゃ」

 熊田は理解ができない。しかし、ピッチに入った熊田にレッドカードが提示されるのは、当たり前だった。

「わしはフェアプレー精神をじゃな」

 しかし、女性主審はまったく動じる気配もない。

「わしのようなクリーンなジェントルマンがなんでレッドなんじゃ。おまん無茶苦茶じゃ」

 熊田は猛抗議する。

「せ、先輩・・」

 結局、執拗に抗議する熊田を、慌ててピッチに入ったたかしと信子さんとベンチメンバーが引きずるようにしてピッチ外に引っ張っていった。

「なんでわしが退場なんじゃぁ~」

 引きずられながらも子どものように叫ぶ熊田が、ピッチの外へと遠ざかっていく。

「・・・汗」

 それを、ピッチ上の選手たち全員が困惑気味に見つめる。

「なんなんだあいつは・・汗」

「ああ・・汗」

 野田と仲田が、引きずられていくそんな熊田を見つめ呟いた。

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