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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
92/122

セットプレーその後

 ガンッ

 しかし、大黒の蹴ったボールは惜しくもバーに当たった。そして、そのまま、ゴールラインを超えてその向こうへと飛んで行った。

「ああ~」

 ベンチメンバーとたかしと信子さんたちは大きく体を後ろにのけぞらせ、大きなため息を漏らす。

「ああ~」

 ピッチの選手たちも、大きく後ろに体をのけぞらせる。外れはしたが、滅茶苦茶惜しいシュートだった。あまりの惜しさにみんな残念がる。

「チッ」

 結果を見つめる大黒が、そのポーカーフェイスで小さく舌打ちをした。

「えっ」

 驚いて、すぐ隣りにいた繭が大黒を見る。

「大黒さんでも、悔しがるんだ・・汗」

 普段感情を全く表に出さない大黒のその舌打ちに繭は驚いた。

「残念でしたね」

 信子さんが残念そうに言う。

「うん、滅茶苦茶惜しかったなぁ。せっかくいい位置でのチャンスだったのに」

 たかしが悔しそうに言う。

 ピ~ッ 

 だが、ほどなくしてまた同じような位置で、金城はファールをもらう。やはり、花乃町はファールが多い。この辺は、花乃町の弱点だった。

「今度は誰が行く?」

 野田が集まった選手たちを見回す。

「あっ」

 だがすぐに野田が、またボールの前を見て声を上げた。

「だから、宮間さんはダメですって。みんなで決めたじゃないですか」

 気づけば宮間はまたボールの前に立って、もう相手のゴール前を見て距離感を計っている。

「宮間さんは隙あらば蹴ろうとするからな。油断できないよ」

 野田が、額の汗をぬぐいながら言った。

「あの・・、私蹴らしてもらってもいいですか」

 その時、かおりがおずおずと手を上げた。

「かおりちゃん」

 繭がかおりを見る。新人ということもあり、普段あまり出しゃばらないかおりが、ここでは珍しく自ら手を上げる。

「お前蹴れるのか」

 野田が少し驚きながら訊く。

「はい、高校の時はキッカーでした」

「そうか・・」

 野田はしばし悩む。しかし、かおりもシュート技術は高く、足元はうまい。

「じゃあ、行っとくか」

 野田が顔を上げそう言って、周囲を見回すと、みんなもうなずき同意した。

 かおりがボールをセットする。そして、その大きな端正で美しい目で、いつになく鋭くゴールを見つめる。

「なんかやってくれそうですね。かおりちゃん」

 信子さんが期待を込めて言う。

「うん」 

 それにたかしもうなずく。後半始まってすぐ、この時間帯に追いつくのは金城町にとって大きかった。

 かおりが一歩また一歩と、後ろに下がっていく。

 ピーッ

 そして、笛が鳴った。

 かおりが走り出す。そして、一閃、その長い足を振り抜いた。

「おおおっ」

 いつものように少ないながらも観戦に来ていた観衆から声が上がる。かおりのその長い足がきれいに振り抜かれるその姿は、それだけで美しかった。

 かおりの蹴ったボールは、ゴール右上に鋭い弧を描いて飛んでいく。花乃町の高い壁も超えた。軌道は完璧だった。

「うおおおっ」

 そして、ボールは、ゴール右上ギリギリにきれいに突き刺さった。

「やった」

 たかしと信子さんが飛び上がって叫ぶ。ベンチメンバーも両手を大きく上げてベンチを飛び出す。

「わぁ~」

 繭がかおりの下に飛んで行って抱き着く。かおりも笑顔でそれを抱きとめる。かおりはきれいに右上にフリーキックを直接決めた。

「かおりちゃんすごい」

 そして、続々と味方の選手がその二人の周りに集まり、かおりに抱き着き取り囲む。

「えらい、えらい、かおりえらい」

 野田はかおりの頭をぺしぺし叩く。

「よくやった」

 仲田もかおりの体をぺしぺし叩きまくる。その他の選手たちも雨あられとかおりを叩きまくる。

「かおりちゃんは、足元器用なんですね。大きいわりに」

 信子さんが感心しながら言う。

「うん、うちにも一つ武器ができたね」

 たかしがうれしそうに言う。

「何を喜こんじょる」

「えっ?」

 しかし、なぜか熊田は逆に怒っていた。

「フリーキックで点を取るなんざ邪道じゃ」

 熊田は全然喜んでいなかった。

「ええっ・・汗」

 たかしは困惑する。

「あんなもんサッカーやない」

「・・・汗」

 熊田のサッカー哲学は、たかしでもよく分からなかった。だが、それはサッカー哲学でもなんでもなく、熊田が単に自分の戦術や指示以外で点を取ることを喜ばない独善的な性格なだけだった。

 だが、その後、追いつかれた花乃町は、再び勝ち越そうと、さらに気合を入れて攻め上がって来た。

「ヒーッ」

「うわぁ~」

 ピッチ上に再び、金城の選手たちの悲鳴が響き渡る。花乃町の突進に近い攻め上がりは、もはや暴れ馬の群れだった。

「うおおおりゃあ~」

 だが、一人まったく臆することなく、その暴れ馬の群れと真正面から戦う選手がいた。宮間だった。

「うおあああ、こなくそぉ~」

 宮間は負けていなかった。宮間はボールを奪うと、花乃町の選手同様、力強い直線的なドリブルで突き進む。宮間は選手のタイプという意味では、花乃町の選手たちと思いっきりかぶっていた。

 宮間は体格では完全に負けているのだが、どこからその小さな体から力が湧き出ているのか、大きな相手選手を二人三人と引きつれたまま、引きづるようにしてドリブルしながら相手陣地に突き進んでいく。

「す、すごい・・汗」

 思わず繭も驚嘆の声を上げる。宮間は真っ向勝負の肉弾戦が得意だった。しかもたった一人でも戦える強靭なメンタルを持っていた。闘争心、勝利への執念という意味では宮間はやはりすごかった。

 そして、宮間のそのたった一人の奮闘で、金城は勢いを取り戻し、押し返し始める。

「す、すごい・・」

 その光景に、ベンチメンバーも驚く。

「麗子てめぇ、逃げてんじゃねぇ」

 そんな宮間が麗子を怒鳴りつける。

「だってぇ~」

 麗子は相手の暴力的なサッカーに腰が引けていた。

「だってじゃねぇ。戦え。試合中消えてんじゃねぇよ。お前の存在はそのド派手な髪型だけか」

「でも、痛いしぃ~」

 麗子は長い、今日もこれでもかと少女漫画に出てくる中世のお姫様のようなカールのかかった髪の毛をいじりながら、小生意気な女子高生みたいなことを言う。

「てめぇ~、舐めたこと言ってると、花乃町にやられる前にあたしが背中から蹴り入れるぞ」

 宮間は肉弾戦で一人アドレナリンが全開になっている。

「お前らも一緒だぞ。戦え」

 宮間はその気迫で、他の選手たちにも叱咤して、戦いを煽る。その勢いにみんな花乃町の選手たち以上にビビる。

「ほんと野蛮なんだから。いやんなっちゃう」

 だが、一番怒られた麗子は一人ぶつくさ言っている。そして、麗子は、その後も当たりを恐れ、やはり、ボールに絡もうとしない。

「滅茶苦茶やる気ないですね・・汗」

 同じ右サイドにいる繭もこれには呆れる。

「ああっ」

 だが、相手コーナーキックのゴール前での乱戦の後だった。麗子が突然叫ぶ。

「どうしたんですか」

 驚いて繭が麗子を見る。

「あざが出来たわ」

「えっ、どこですか」

「ここよここ」

 見ると、麗子の指差す先、真っ白い太ももの左側面の中央に、小さな、本当に小さな赤いあざが出来ている。

「許せない。私のこの美しい完璧に洗練されたきれいな体に傷をつけるなんて」

 麗子が立ち上がった。

「許せないわ」

「えっ」

 繭が驚いてそんな麗子を見る。麗子の目はものすごい憤怒に燃えていた。

「あんたたち覚悟なさい」

 麗子もキレると怖い。試合が再開されると、麗子も宮間と一緒になって花乃町の選手に突っ込んでいった。

「お前らもビビってんじゃねぇ」

 宮間がさらに他の選手たちにもはっぱをかけ煽る。

「そうだ、宮間さんたちばかりに戦わせておくわけにはいかないぞ」

「そうだ、みんなで加勢しろ」

 そこに野田や仲田も、勢いつけて煽りまくる。すると、もう行くしかないと他の選手たちも覚悟を決め、花乃町の選手たちへと突っ込んでいった。そして、試合はどろどろの肉弾戦へと変わっていった。

 もうこうなると、サッカーと言っていいのか、乱闘と言っていいのか分からなくなってくる。選手たちはボールを中心に団子状態になって、ボールを奪い合う。

「小学生か・・汗」

 一人離れたところからそれを見ていた繭が呟く。まったくサッカーをしたことのない子どもがサッカーをすると、ボールに群がって団子みたいになることがある。今まさに目の前に繰り広げられている光景はそれだった。

「なんか、ほんとにこのチームでやって行く自信がなくなって来たよ・・汗」

 繭は、その光景に一人虚脱状態になっていた。。それは、サッカーとして、いや、それ以前に大人としてあり得ない光景だった。


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