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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
91/122

セットプレー

 しかし、パスをいくら回せても、ゴール前や球際といった、一番重要なところでは、フィジカルの差でやはりどうしても潰されてしまう。この差は大きかった。失点し、点を取りにいかなければならない金城だったが、ゴール前で得点チャンスが作れず、試合のペースを握れない。やはり金城は劣勢だった。

「わあ~」

 ピーッ

 またファールの笛が鳴る。

 さらに花乃町はラフプレーも多かった。当たり、球際のところで、かなり厳しく体を当て、足を出してくる。

 それにも金城の選手たちはビビる。それによってミスも増え、パスも繋がらなくなっていく。そこをさらに、花乃町に突かれてボールを奪われてしまう。悪循環だった。

「動かんか。ボールを回せ。ボールを回すんじゃ」

 熊田が何度もピッチ脇から叫ぶ。

 人が動き、ボールを素早く回し、それで相手のプレッシャーをかわす。花乃町は、技術とスピードはそれほどない。だから、それは案外うまくいく。それによってある程度金城はボールキープできる。

 しかし、現状は、ただボールを持たされているだけだった。しかも、金城の選手たちの誰しもが、相手のタックルを恐れるあまり、早め早めにパスを出すという、ほとんどババ抜き状態のパス回しだった。

「な、なんて醜い・・」

 今日はベンチスタートの志穂がその光景を見つめ呟く。

 それは自分だけが助かればいいという滅茶苦茶後ろ向きで、互いに責任を押しつけ合う、かなり醜いサッカーだった。

 しかも、いかんせん急増のポゼッションサッカーは続かないし、ミスも多く、ボロが出る。さらに、選手たちは絶えず動き続けなければならないのでしんどい。

「休むなら人生が終わってから休め」

 すぐに足を止めようとする選手たちに熊田が怒鳴る。

「人生が終わってからしか休めないのかよ」

 その言葉に選手たちはよけいがっくりくる。選手たちの足はさらに重くなった。

「あいつは、うちらの足を引っ張りたいのか・・?」

 野田が思わず呟く。

 ピーッ

 その時、またホイッスルが鳴った。

「これはチャンスですね」

 信子さんがたかしを見る。

「うん、流れが悪いからね。こういう時のセットプレーは大事だよ」

 たかしが答える。だが、逆に、花乃町の荒っぽいプレーのおかげで、金城もセットプレーは取れた。相手キーパーから見たら右斜め四十五度。蹴る側から見たら絶好の位置だった。

「誰が蹴る?」

 野田が周囲を見る。

「そういえばセットプレーって誰が蹴ってたんですか」

 繭が野田を見る。

「その時々だな」

「いい加減ですね・・汗」

「あっ」

 その時、野田がボールの置いてあるところを見て声を上げた。

「ダメですよ宮間さん」

 気づくと、いつの間にか宮間がボールの前に立っている。そして、もう蹴る気満々で、ゴールを睨みつけている。

「ダメですよ宮間さん。宮間さんはセットプレー禁止でしょ」

 野田が宮間にきつめに言う。

「えっ、セットプレー禁止?」

 繭が驚く。

「なぜ?」

 繭はヒョコっと首を前に伸ばす。

「宮間さんは、壁に入っているむかつく奴にわざとボール当てに行くから、禁止になってんだよ」

 仲田が横から繭にそっと教えてくれた。

「前科が何回もあってな。何度もそれで乱闘になって大変だったんだよ」

 仲田が顔をしかめながら言う。本当に大変だったのだろう。

「・・・汗」

 繭はあまりの理由に言葉もない。宮間関係の話は聞けば聞くほどすごい。もう、なんだか宮間の話しを聞くのが怖くなってくるほどだった。

「じゃあ、大黒行っとくか」

 その時、野田がいつの間にか繭の隣りにぬぼーっと立っていた大黒を見る。

「大黒さん!」

 いつの間にか繭のすぐ隣りにいた大黒に繭はのけぞるように驚く。そして、その存在に気づく。

「そうだ」

 金城には大黒がいた。今日も人知れずスタメンに名を連ねていた大黒を全員が見る。というかこの時初めて全員大黒の存在に気づく。今日も相変わらず存在感のない大黒だった。

「大黒さんセットプレーも蹴れるんですか」

 繭は仲田に訊いた。

「ああ、あいつはキックの精度だけはピカ一だからな」

「そうなんですか」

 確かに長短のパスのセンス、精度はピカ一だった。

「よしっ、大黒行っとけ」

 野田が言った。大黒はコクリと、一つ静かにうなずいた。

 大黒がボールをセットする。そして、ゴールを見つめる。何か独特の雰囲気があり、何かやってくれそうな期待を感じさせる。実際、過去の試合でも決定的なパスで金城を救っている。

「し、しかし・・汗」

 繭は、唖然とする。しかし、花乃町の選手たちはガタイがデカく、それに伴って、壁もデカい。

「デカいですね・・」

 繭が花乃町の壁を見て呆然とする。

「ああ・・」

 隣りの仲田もビビる。しかも、ものすごい眼光鋭い表情でこちらを威圧してくる。

「なんかボールぶつけたら襲いかかって来て殺されそうですね」

「うん」

 繭が言うと、仲田がうなずいた。

 しかし、ボールをセットした大黒はいつものポーカーフェイスで落ち着き払っていた。

「なんか やってくれそうですね」

 ベンチ前で信子さんが言った。落ち着き払った大黒を見ているとなんかやってくれそな気がしてくる。

「うん」

 たかしも、何か期待がこみあげてくるのを感じた。

 そして、大黒がゆっくりと後ろへと助走を取る。そして立ち止まり、ゴールを睨んだ。そして、笛が鳴る。大黒は走り出した。そして、独特のしなやかな体の傾げ方で右足を振りぬいた。

「あっ」

 蹴った瞬間、たかしと信子さん、っしてベンチメンバーの志穂とかすみが叫ぶ。

 大黒の蹴ったボールは、ものすごくきれいな弾道でゴールに向かって飛んで行く。そして、花乃町の高い壁もギリギリかするように越えた。

「いける」

 たかしが叫んだ。軌道は完ぺきだった。ベンチメンバーも全員腰を浮かした。

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