表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
85/122

マウンドを削る選手たち

 深夜二時過ぎ、暗闇の中から、ザクッザクッという土の削る音が不気味に響く。

「本当にいいんですかね」 

 繭が隣りで、つるはしを振る宮間を振り仰ぐ。

「大丈夫だよ。マウンドなんか無くたって野球は出来るだろ」

 宮間は全く気にする風もない。

「そうなんですかね」

「そうだよ。あんなもん、ただボール投げて棒振り回すだけだろ?」

「ま、まあ、そうですけど」

「そんなことの為に、グラウンドの真ん中にこんな土盛り上げやがって、贅沢だってんだよ」  

 宮間はそう言って、怒りを込めるように、ツルハシを思いっきりマウンドにふるった。

「・・・」

 なんだか宮間にそう言われると、繭もそんなような気もしてきた。

「みんなの使うグラウンドのど真ん中にこんなもん作りやがって、ふざけんなってんだよ」

 宮間はさらに力を込め、ツルハシをマウンドに突き刺す。

「あっ、かおりちゃん」

 そこにかおりとめぐみ、のりちゃんもやって来た。三人共やはりひどく眠そうな顔をしている。多分、繭と同じように夜中に叩き起こされたのだろう。

「みんな駆り出されてるんですね・・汗」

 繭が呟く。これで寮の人間はほぼ全員駆り出されて来た。

「みんなでやった方が早いだろ」

 宮間は当たり前のように言う。

「ま、まあ、そうですが・・」

 しかし、何かが間違っている。

「でも・・、でもですね、深夜に突然駆り出されるっていうのは、人権とかプライベートとか、プライバシーとかそういったものの配慮が全くないといことで、それはやっぱり、現代社会の常識として色々と問題ではないかと思うわけで・・」

 繭が訴えるように言う。が、しかし、宮間はおろか野田たち、周囲の人間も、誰一人として聞いていない。

「うううっ」 

 繭は、一人うなる。

「ごたくはいいから手を動かせ手を」

 そんな繭に、宮間が怒鳴る。

「は、はい・・」

 宮間に理屈は全く通用しなかった。

「この寮に、人権とかプライバシーなんて概念はないからな」

 さらに、隣りの野田がそんな繭にとどめを刺すようにさらりと言った。

「うううっ」

 繭はさらにうなった。

「でも、なぜこんな深夜に・・」

「ああ、うちらがあかねで酒飲んでたら、権蔵が来て、急にこういう話なったんだ」

 野田が言った。

「それで善は急げって、そこだけ権蔵と宮間さんの息が合っちゃってな」

 仲田が言った。

「それに巻き込まれたと・・」

 繭はほとんど災害に巻き込まれたような気分だった。

「・・・」

 繭は仕方なく、手に持つスコップをマウンドに力を込めて突き刺した。結局、もうやるしかない状況だった。

 そして、後からやって来た他の選手たちも、手に手にスコップやシャベルを持ち、マウンドを削り始めた。

「ふぅ~」

 かおりが額の汗を拭う。広いグラウンドの中では小さく見えるマウンドだったが、やってみると意外と重労働だった。さらに深夜で寝不足ということもあり、みんな疲労の色が濃くなっている。

「アフリカでやった井戸掘りを思い出すのぉ」

 しかし、そんな中、熊田は一人どこか楽しそうにスコップで、マウンドの土を掻き出している。

「エンチョラビ~、モウソ~、ウチャビラリ~♪」

 しかも、何やら言語不明の、音階も西洋音階ではない奇妙な歌を歌い出す。あまりに聞いたことのない歌に、音程も合っているのかズレているのかすらが分からない。

「お前はアフリカで何やってたんだよ」

 野田が熊田を見る。

「井戸掘りまでやってたのか・・」

 仲田も熊田を見る。

「さあ、みなさんも。エンチョラビ~♪」

「歌うか。っていうか歌えるか。そんな言語不明な歌」

 しかし、野田たちのツッコミにもまったく動じることなく、熊田は変な歌を歌い続けながら、一人陽気にスコップでマウンドの土を掻き出していく。

「よく鼻歌なんか歌えるな」

 野田と仲田も呆れる。

「というか、こんな深夜に私たち何やってんですかね・・」

 繭が汗を掻き掻きスコップをマウンドに突き刺し、土を掻き出しながら呟くように言った。

「それは言うな」

 それに対して、隣りの野田が厳しく言った。

「それは言っちゃだめだ」

 仲田も隣りから言った。

「悲しくなるだろ」

 仲田が続けて言った。

「はい・・」

 確かにそんなことを考えていると、繭もなんだか悲しくなってきた。

「・・・」

 それから、繭はもう何も言わなかったし、考えることもやめた。ただ黙々と体を動かした。他の選手たちも全員、誰も何も言わず、黙々とマウンドを削るという単純作業を繰り返していった。

 深夜のグラウンドの闇の中に、ザクッザクッという、土を削る音だけが響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ