畳が・・
「まあ、あれで宮間さんも気にはしてたんだな」
次の日の朝、食堂のテーブルについた野田が言う。
「はあ、そうみたいですね・・」
隣りの席のかおりが答える。
「でもやり方がなぁ」
仲田がため息交じりに言う。
「やり方がねぇ・・」
そして、その場にいたメンバーが全員ため息をつく。野田、仲田、志穂、かおり、めぐみ、のり子、全員、昨日畳を盗まれた被害者だった。
「あっ、繭ちゃんおはよう」
そこへ繭がやって来た。
「おはよう・・」
かおりがあいさつするが、繭はやはり元気がない。というか覇気がない。昨日も畳のない部屋に寝て、熟睡できなかったらしい。声に力がなく表情も冴えない。目の下にはどこか隈のようなものまで見える。
「はあ~」
繭は席に着いてもため息ばかりついている。
「大丈夫?」
「う~ん」
かおりが声をかけても、腑抜けた返事しかしない。朝食を食べ始めても目は終始虚ろだった。
「ごちそうさま・・、行ってきます」
そして、朝食を食べ終わると、繭は立ち上がり、ふらふらと大学へと出かけて行った。
「元気がないねぇ」
そこへ調理場から金さんが顔をのぞかせ、その背中を見て言った。
「はい」
メンバーたちも全員心配気にその背中を見送った。
「ん?」
その時、かおりが一人、ふとテーブルを見た。
「でも、ごはんはちゃんと全部食べるんだ・・汗」
テーブルの上の数々の大皿はすべてきれいに空になっていた。繭は今日も大量の朝ごはんを残さず平らげていった。どんなに気分が落ち込んでも、どんな状況に落ち込んでも、食欲だけは絶対に落ちない繭だった。
「はあ~」
そして、その日の夕方、繭はため息をつきながら、今日も銀月荘に帰ってきた。繭はよたよたと力なく銀月荘の階段を上がっていく。そして、自分の部屋の開き戸を開けた。
「あっ」
繭は自分の部屋を見て驚いた。繭の部屋に真新しい畳が入っていた。
「ど、どうして?」
繭は驚く。
「どうだい。新しい畳だよ」
背後から声がして、繭が振り返る。金さんだった。
「どうしたんですか。これ」
繭は驚いて目を思いっきり見開いて訊く。
「事情を説明したらさ。商店街の畳屋さんが、余ってる畳あるっていうから運んでもらったんだ」
「えっ」
繭はあらめて新しい畳を見つめた。そこには光り輝くようなまっさらの青い畳が並んでいた。
「ああ~、畳の匂い」
繭はその匂いを肺の奥に思いっきり吸い込んだ。繭は畳の匂いが大好きだった。
「やったぁ~、畳だぁ」
繭はその新しく入った畳に、ダイブするように抱き着いた。
「畳ぃ~、畳ぃ~、私の畳ぃ~」
繭は、全身を使って畳を抱きしめ、頬をこすりつけた。
「畳ぃ~」
「そこまで喜んだら、畳屋さんも喜ぶよ」
金さんが笑顔で言う。
「ありがとうございます。ほんとうれしい」
繭は畳を抱きしめながら、心底から言う。
「これはどう見ても新品の畳だよ。あまりものなんてもんじゃないね。畳屋さんが新しいのをくれたんだよ。きっと」
金さんが、言った。
「そうなんですか」
繭が顔を上げて、金さんを見る。
「ああ、きっとそうだよ。後でお礼言っといで」
「はい」
「繭ちゃんよかったね」
「うん」
その日の夕食時、かおりが隣りの繭に言うと、繭はうれしそうに答える。繭はご機嫌だった。




