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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
79/122

畳が・・

「まあ、あれで宮間さんも気にはしてたんだな」

 次の日の朝、食堂のテーブルについた野田が言う。

「はあ、そうみたいですね・・」

 隣りの席のかおりが答える。

「でもやり方がなぁ」

 仲田がため息交じりに言う。

「やり方がねぇ・・」

 そして、その場にいたメンバーが全員ため息をつく。野田、仲田、志穂、かおり、めぐみ、のり子、全員、昨日畳を盗まれた被害者だった。

「あっ、繭ちゃんおはよう」

 そこへ繭がやって来た。

「おはよう・・」

 かおりがあいさつするが、繭はやはり元気がない。というか覇気がない。昨日も畳のない部屋に寝て、熟睡できなかったらしい。声に力がなく表情も冴えない。目の下にはどこか隈のようなものまで見える。

「はあ~」 

 繭は席に着いてもため息ばかりついている。

「大丈夫?」

「う~ん」

 かおりが声をかけても、腑抜けた返事しかしない。朝食を食べ始めても目は終始虚ろだった。

「ごちそうさま・・、行ってきます」

 そして、朝食を食べ終わると、繭は立ち上がり、ふらふらと大学へと出かけて行った。

「元気がないねぇ」

 そこへ調理場から金さんが顔をのぞかせ、その背中を見て言った。

「はい」

 メンバーたちも全員心配気にその背中を見送った。

「ん?」

 その時、かおりが一人、ふとテーブルを見た。

「でも、ごはんはちゃんと全部食べるんだ・・汗」

 テーブルの上の数々の大皿はすべてきれいに空になっていた。繭は今日も大量の朝ごはんを残さず平らげていった。どんなに気分が落ち込んでも、どんな状況に落ち込んでも、食欲だけは絶対に落ちない繭だった。


「はあ~」

 そして、その日の夕方、繭はため息をつきながら、今日も銀月荘に帰ってきた。繭はよたよたと力なく銀月荘の階段を上がっていく。そして、自分の部屋の開き戸を開けた。

「あっ」

 繭は自分の部屋を見て驚いた。繭の部屋に真新しい畳が入っていた。

「ど、どうして?」

 繭は驚く。

「どうだい。新しい畳だよ」

 背後から声がして、繭が振り返る。金さんだった。

「どうしたんですか。これ」

 繭は驚いて目を思いっきり見開いて訊く。

「事情を説明したらさ。商店街の畳屋さんが、余ってる畳あるっていうから運んでもらったんだ」

「えっ」

 繭はあらめて新しい畳を見つめた。そこには光り輝くようなまっさらの青い畳が並んでいた。

「ああ~、畳の匂い」

 繭はその匂いを肺の奥に思いっきり吸い込んだ。繭は畳の匂いが大好きだった。

「やったぁ~、畳だぁ」

 繭はその新しく入った畳に、ダイブするように抱き着いた。

「畳ぃ~、畳ぃ~、私の畳ぃ~」

 繭は、全身を使って畳を抱きしめ、頬をこすりつけた。

「畳ぃ~」

「そこまで喜んだら、畳屋さんも喜ぶよ」

 金さんが笑顔で言う。

「ありがとうございます。ほんとうれしい」

 繭は畳を抱きしめながら、心底から言う。

「これはどう見ても新品の畳だよ。あまりものなんてもんじゃないね。畳屋さんが新しいのをくれたんだよ。きっと」

 金さんが、言った。

「そうなんですか」

 繭が顔を上げて、金さんを見る。

「ああ、きっとそうだよ。後でお礼言っといで」

「はい」


「繭ちゃんよかったね」

「うん」

 その日の夕食時、かおりが隣りの繭に言うと、繭はうれしそうに答える。繭はご機嫌だった。

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