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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
78/122

許したとはいえ・・

「繭どうしたの?」

 早紀が声をかける。繭は朝から、教室の机に力なく突っ伏していた。

「昨日の試合、やっぱり負けちゃったの?呪いがどうとかって言ってたし」

「ううん、勝ったよ。私のハットトリックで」

 繭は机に突っ伏したまま、力なく答える。

「すごいじゃん。繭。大活躍じゃん」

「うん」

「じゃあ、なんで元気ないの」

「うん・・」

 宮間を許したとはいえ、繭の部屋に畳がないことには、変わりがなかった。

「そうか・・、畳ねぇ」

 早紀は人差し指を顎にあて、頭をひねる。

「畳の無い部屋ってのはねぇ、こう、寒々として、なんか悲しくて・・」

「繭、影が縦線で出てるよ・・汗」

 繭は落ち込んだ時のちびまる子ちゃんみたいな影線に包まれていた。

「寮母さんに言ってみたら」

「言ったよ」

「なんだって」

「訊いてはみるって」

「誰に?」

「う~ん」

 繭は首を傾げる。

「それが分かんないんだよね。しかも返事ないし」

「そうか・・」

 早紀もどうしていいのか困ってしまう。

「まっ、とりあえず、クッキーでも食べなよ」

 早紀は話題を変え、バックから袋を取り出した。

「あれっ、これ早紀ちゃんが焼いたの」

 繭が顔を上げる。早紀が取り出したクッキーは、手作り感たっぷりのなんともかわいらしいものだった。

「そうだよ」

「へぇ~、そうなんだ。やっぱり早紀ちゃんは女の子らしいな」

 そう言って、繭はいつものように銀月荘で凄まじい量の朝ごはんを平らげて来たばかりなのに、さっそくクッキーに手を伸ばす。

「そうかな」

「そうだよ」

 繭はクッキーをパリパリ頬張りながら答える。

「私、そういうのに憧れてるんだよなぁ。休みの日にクッキー焼くとかさ。かわいい洋服来て街に遊びに行くとかさ」

「それ、前も言ってたね」

「でも、私の現実は、太陽の真下でサッカー、サッカーだよ・・、そんな日々ですよ」

 思いっきりがっかりした顔で繭は言う。

「それも健全でいい気がするけど・・汗」

「はあ、昨日、また一段と日に焼けて黒くなっちゃったよ」 

「まだそんなに日焼けしてるわけじゃないじゃん」

 確かに、もともと色白な早紀に比べたら黒くなっているが、しかし、それ程真っ黒というわけではない。

「いいんだ。もう・・」

 繭は、そしてまた力なく机に突っ伏した。

「あっ」

 早紀がクッキーを入れていた紙包みを見て驚いた。

「は、早っ・・」

 気付くと繭はあっという間にクッキーを全て平らげていた。

「他の人にもあげようと思っていたのに・・汗」

 繭は、かなりの量のクッキーを、あっという間に一人で全部食べつくしてしまった。

「ふぅ~、まっ、これだけ食べれれば大丈夫ね・・」

 机に突っ伏し続ける繭を見て早紀は微笑んだ。

「私も食べたかったんだけどなぁ・・、まっ、いっか」

 クッキーを全部食べられても、やっぱり気の良い早紀だった。


 大学からの帰り、金城駅に着くと、繭は憂鬱な気持ちで、いつもの銀月荘への坂道を上ってゆく。

「今日も畳のない部屋で眠るのか・・」

 繭は呟く。繭の頭の中にはそれしかなかった。

「わっ」

 部屋の前に辿り着きふと顔を上げ、繭は驚いた。

「どうしたんですか」

 宮間が繭の部屋の前に立っていた。

「ふ、ふ、ふ、ふ」 

 宮間は、何も言わずになぜか、何か不敵な笑いを浮かべている。

「ど、どうしたんですか・・汗」

 繭は警戒する。

「ふふんっ」

 宮間はそこでにやりと笑った。

「ううっ・・」

 それが、繭にはさらに不気味に映った。繭はさらに警戒する。

「な、何かある・・」

 繭は、嫌な予感がした。

「ふっ、ふっ、ふっ、見て驚くなよ」

「えっ」

「じゃじゃじゃぁ~ん」

 すると、突然、宮間が勢いよく繭の部屋の開き戸を開けた。

「ん?あっ」

 繭は自分の部屋をのぞき、驚いた。

「畳!」

 繭のあの殺風景な板敷の部屋に畳がちゃんと入っていた。

「どうだ、繭、すごいだろ」

 宮間がドヤ顔で驚く繭を見る。

「すごい、宮間さんすごい」

 繭はきれいに敷き詰められている畳を見て興奮する。

「これ、どうしたんですか」

 繭は宮間を見る。

「あたしに任せとけばすべて大丈夫なんだよ」

 宮間は胸を張る。

「で、でも、なんか全部畳の色が違いますけど・・」

 しかし、よく見ると、畳の色がなんか全て違っていた。しかもなんか古い。

「まあ、細かいことは気にしない気にしない」

「ま、まあ、そうですが・・」

 しかし、繭は何か気になった。

「あの~」 

 そこに野田がやって来た。

「なんだよ。今繭と歓喜の瞬間を迎えていたところなんだよ」

 宮間が邪魔するなと言いたげに、うっとうしそうに野田を見る。

「はあ・・」

 野田は、首を傾げている。

「なんだよ」

「なんか私の部屋の畳が一枚無くなってるんですけど・・、知りません?」

「えっ」

 繭が驚いて、野田を見る。

「あの~、私の部屋も畳が一枚ないんですけど・・」

 そこにかおりもやって来た。

「私も」

 仲田だった。その後ろには志穂もいる。

「あの・・」

 めぐみちゃんもだった。その後ろにはのりちゃんもいる。

「も、もしかして・・」

 繭が宮間を見る。宮間は視線を逸らし、明後日の方を見る。

「なんか心当たりあるのか」

 野田が繭を見る。

「はあ」

 繭は、自分の部屋を指差した。

「あっ、うちの部屋の畳」

 野田が叫ぶ。

「あの中央の畳目のほつれは間違いなくうちの部屋のだ」

 野田が言う。

「あれはあたしんのだ」

 仲田も部屋の端の方を指さし叫ぶ。

「宮間さ~ん」

 野田が嘆くように宮間を見る。

「なんだよ」

「なんだよじゃないですよ」

「いいだろ別に」

「全然よくないですよ」

「繭が困ってんだから、畳の一枚くらいいいだろ。善意だよ。善意」

「畳一枚だけないっておかしいでしょ」

 野田が叫ぶ。

「そこは創意と工夫でなんとかしろよ。なんか置くとかさ。変わりのもん探すとかさ」

「そんな無茶苦茶な」

「いいだろ、一枚くらい」

「ダメですよ」

「いいだろ、一枚くらい。繭は全部ないんだぞ」

「それは宮間さんがビールかけを部屋の中でやるからでしょ」

「ま、まあそれはそうだが・・」

 宮間も言い淀む。

「でも、お前らだってやっただろ」

「とにかく畳は返してもらいますよ」

 この言い争いは無駄とみて、野田はそう言って、繭の部屋に入って行く。それに他のメンバーも続く。そして、みんなそれぞれ自分の畳を一枚ずつ持って、各自の部屋に帰って行った。

「・・・」

 そして、再び繭の部屋に畳はなくなった。

「なんて心の狭い奴らだ。なあ」

 宮間は繭の肩を叩く。そして、そのままみんなを騒がすだけ騒がせて、宮間もどこかへ行ってしまった。

「・・・」

 繭はまた畳のない部屋に一人ぽつねんと取り残された。

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