帰りの車中
「さっ、帰るぞ」
着替えも終わり選手たちが揃うと、宮間がこういう時だけリーダーシップを発揮して先頭に立つ。選手たちはいつもの習い性でそれに従う。試合途中あれだけケンカしたのに、金城のメンバーはいつの間にか、いつもの関係性に戻っていた。
宮間の取り巻き三人衆も宮間の後ろのいつものポジションにいた。宮間は、そこは竹を割ったようなさっぱりとした性格らしい。やはり、あれだけケンカしたのに、もう三人を受け入れている。
「繭、急げ」
宮間が繭を見る。
「は、はい」
ゴール後に、喜び勇んだ勢いで抱き合ったことが一度許したような格好になり、繭はもう宮間に対して怒るに怒れなかった。
「うううっ」
不満はまだいろいろとあったが、一度許してしまったという既成事実に繭は、うなるしかなかった。
「今夜は飲むぞぉ~」
宮間は高らかに宣言する。
「なんせ、試合に勝っちゃったからね」
そして、わざと大きな声で、よせばいいのにまたいやらしい目で、まだグラウンドに残っている鹿山の選手たちの方を見る。鹿山の選手たちは、襲いかかって来そうな勢いで、宮間を睨み返す。
「宮間さん、もうやめましょう」
さすがに野田と仲田と志穂がその間に立つ。
「今夜は楽しいお酒になりそうだ。ぐひひひひっ」
それでも宮間は嬉しそうに、いやらしい目で鹿山の方を見て笑う。ほんとに性格の悪い宮間であった。
「ほんと下品なんだから」
そんな宮間を見て、麗子が強烈に顔をしかめる。
「ああ?」
宮間はそれにすぐに反応する。
「ほんといい加減にしてよね。うちのチームの品位が落ちるわ」
「なんだと」
チームの仲は元に戻っても、宮間と麗子だけは、相変わらずだった。
「やっぱり、平和は長くは続かなかったか・・」
「ああ」
「そうですね」
野田が呟き、仲田と志穂がうなずく。試合中に繰り広げられた二人の連携は、あの時限りだったらしい。
「なんで、お前までうちらと一緒に車乗ってんだよ。ヘリで帰れよ。ヘリで」
「いいでしょ、私が何で帰ったって」
そして、帰りの車中、車に乗っても二人は言い争っていた。
「よくねぇんだよ。狭いんだよ。来る時にいなかった人間が誰か乗ってるせいで、車の中が狭いの」
「あんたの態度がでかいからでしょ。人のせいにしないでもらいたいわ」
「なんだと、この野郎」
「わあっ、もうやめてください。二人とも」
二人の間に座る繭が堪らず叫ぶ。ただでさえ狭い車中が、二人のけんかでさらにごちゃごちゃしていく。
「でも、ついに呪いを破りましたね」
そんな喧騒の中、その後ろの席に座るかおりが、隣りの野田に話しかける。
「チーム創始以来の初勝利だからな」
野田も満足げに答える。
「そうそう、勝ったんだよな。ついに」
仲田も続く。
帰りの車中、宮間たちがごたごたしていても、やはり、選手たちの表情は明るかった。試合の疲れも感じないほど気分も軽い。試合に勝ったという結果は、やはり選手たちにとって一番のご褒美だった。
「権蔵の呪いやぶりが効いたのかな」
野田がぼそりと言う。
「まさか」
仲田が素早く返す。
「・・・」
しかし、全員黙る。心のどこかで、もしかしてと思う選手たちであった。
「まっ、いろいろあったけど、今夜は楽しく飲もうな」
宮間が隣りに座る繭の肩に手を回す。
「は、はい・・汗」
あれやこれやと無茶苦茶されて、ちゃんと謝罪されたわけでもないが、結局、なんだかんだ許してしまう人の良い繭であった。
「結局由香は何も変わらなかったわね」
そんな宮間を後ろの席から眺めていた柴が呟く。
「そうですね・・汗」
野田が答える。
「そんな甘い人ではなかったですね・・汗」
志穂が同意する。
「全員敵に回しても、全然怯んでいませんでしたからね」
仲田が言う。
「逆に向こうから向かって来ましたからね」
野田。
「それが宮間さんですよ。はははっ」
そこで選手たちは笑った。しかし、その笑顔はどこか引きつっていた。
「しかし、繭すげぇな・・」
野田があらためて宮間の隣りの繭を見る。
「結局、あいつ一人でやっちまったもんな・・」
仲田がうなずく。
「後半三十分過ぎからハットトリックだもんな・・汗」
野田もあらためて感心する。
「あいつ普段大人しいけど怒ると怖いタイプだな」
仲田が言う。
「うん、あいつはあんま怒らせない方がいいな・・」
野田。
「うん・・」
そこで周囲の選手たち全員がうなずいた。
宮間と共に、人知れず選手たちに恐れられる繭であった。
「うわっ、なんじゃこりゃ」
その次の日の朝だった。グラウンド管理人のおじいさんが、真っ赤にペンキで汚れたベンチを見て、一人目を丸くしていた。
「確か、昨日はサッカーの試合だけのはず・・」
おじいさんには何が起こったのかまったく理解できず、一人大きく首を傾げ困惑していた。




