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金城町商店街女子サッカー部  作者: ロッドユール
77/122

帰りの車中

「さっ、帰るぞ」

 着替えも終わり選手たちが揃うと、宮間がこういう時だけリーダーシップを発揮して先頭に立つ。選手たちはいつもの習い性でそれに従う。試合途中あれだけケンカしたのに、金城のメンバーはいつの間にか、いつもの関係性に戻っていた。

 宮間の取り巻き三人衆も宮間の後ろのいつものポジションにいた。宮間は、そこは竹を割ったようなさっぱりとした性格らしい。やはり、あれだけケンカしたのに、もう三人を受け入れている。

「繭、急げ」

 宮間が繭を見る。

「は、はい」

 ゴール後に、喜び勇んだ勢いで抱き合ったことが一度許したような格好になり、繭はもう宮間に対して怒るに怒れなかった。

「うううっ」

 不満はまだいろいろとあったが、一度許してしまったという既成事実に繭は、うなるしかなかった。

「今夜は飲むぞぉ~」

 宮間は高らかに宣言する。

「なんせ、試合に勝っちゃったからね」

 そして、わざと大きな声で、よせばいいのにまたいやらしい目で、まだグラウンドに残っている鹿山の選手たちの方を見る。鹿山の選手たちは、襲いかかって来そうな勢いで、宮間を睨み返す。

「宮間さん、もうやめましょう」

 さすがに野田と仲田と志穂がその間に立つ。

「今夜は楽しいお酒になりそうだ。ぐひひひひっ」

 それでも宮間は嬉しそうに、いやらしい目で鹿山の方を見て笑う。ほんとに性格の悪い宮間であった。

「ほんと下品なんだから」

 そんな宮間を見て、麗子が強烈に顔をしかめる。

「ああ?」

 宮間はそれにすぐに反応する。

「ほんといい加減にしてよね。うちのチームの品位が落ちるわ」

「なんだと」

 チームの仲は元に戻っても、宮間と麗子だけは、相変わらずだった。

「やっぱり、平和は長くは続かなかったか・・」

「ああ」

「そうですね」

 野田が呟き、仲田と志穂がうなずく。試合中に繰り広げられた二人の連携は、あの時限りだったらしい。

「なんで、お前までうちらと一緒に車乗ってんだよ。ヘリで帰れよ。ヘリで」

「いいでしょ、私が何で帰ったって」

 そして、帰りの車中、車に乗っても二人は言い争っていた。

「よくねぇんだよ。狭いんだよ。来る時にいなかった人間が誰か乗ってるせいで、車の中が狭いの」

「あんたの態度がでかいからでしょ。人のせいにしないでもらいたいわ」

「なんだと、この野郎」

「わあっ、もうやめてください。二人とも」

 二人の間に座る繭が堪らず叫ぶ。ただでさえ狭い車中が、二人のけんかでさらにごちゃごちゃしていく。

「でも、ついに呪いを破りましたね」

 そんな喧騒の中、その後ろの席に座るかおりが、隣りの野田に話しかける。

「チーム創始以来の初勝利だからな」

 野田も満足げに答える。

「そうそう、勝ったんだよな。ついに」

 仲田も続く。

 帰りの車中、宮間たちがごたごたしていても、やはり、選手たちの表情は明るかった。試合の疲れも感じないほど気分も軽い。試合に勝ったという結果は、やはり選手たちにとって一番のご褒美だった。

「権蔵の呪いやぶりが効いたのかな」

 野田がぼそりと言う。

「まさか」

 仲田が素早く返す。

「・・・」

 しかし、全員黙る。心のどこかで、もしかしてと思う選手たちであった。

「まっ、いろいろあったけど、今夜は楽しく飲もうな」

 宮間が隣りに座る繭の肩に手を回す。

「は、はい・・汗」

 あれやこれやと無茶苦茶されて、ちゃんと謝罪されたわけでもないが、結局、なんだかんだ許してしまう人の良い繭であった。

「結局由香は何も変わらなかったわね」

 そんな宮間を後ろの席から眺めていた柴が呟く。

「そうですね・・汗」

 野田が答える。

「そんな甘い人ではなかったですね・・汗」

 志穂が同意する。

「全員敵に回しても、全然怯んでいませんでしたからね」

 仲田が言う。

「逆に向こうから向かって来ましたからね」

 野田。

「それが宮間さんですよ。はははっ」

 そこで選手たちは笑った。しかし、その笑顔はどこか引きつっていた。

「しかし、繭すげぇな・・」

 野田があらためて宮間の隣りの繭を見る。

「結局、あいつ一人でやっちまったもんな・・」

 仲田がうなずく。

「後半三十分過ぎからハットトリックだもんな・・汗」

 野田もあらためて感心する。

「あいつ普段大人しいけど怒ると怖いタイプだな」

 仲田が言う。

「うん、あいつはあんま怒らせない方がいいな・・」

 野田。

「うん・・」

 そこで周囲の選手たち全員がうなずいた。

 宮間と共に、人知れず選手たちに恐れられる繭であった。


「うわっ、なんじゃこりゃ」

 その次の日の朝だった。グラウンド管理人のおじいさんが、真っ赤にペンキで汚れたベンチを見て、一人目を丸くしていた。

「確か、昨日はサッカーの試合だけのはず・・」

 おじいさんには何が起こったのかまったく理解できず、一人大きく首を傾げ困惑していた。

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